紛れも無く奴に会いたくない   作:ぶーく・ぶくぶく

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シドの女神


 

 

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サラマンダーを倒したコブラたちがやってきた。4人でだ。

 

あれ? おかしいだろ。パンプキンとバッドと別れて、コブラとドグは凱旋旅行に行くはずじゃなかったのか?

 

俺が訝しげに問うと、ドグが肩を竦めて答えた。

「コブラが早くガールフレンドに会いたいって泣くからよ」

 

「おいおい!」コブラが抗議する。「ドミニクにサイン貰いたいって言ったのお前じゃないか」

 

……伝説の海賊ネルソン・ロイヤルの娘だ。まあ、わからんでもない。

 

だが――ヤバイ。

このままじゃ、エルラド教の首長が殺される。そうなれば第一次銀河大戦が始まっちまう。

 

俺の介入のせいで、原作の流れが大きく変わっちまったんだ。

 

どうする……?どうする!?

 

――俺が行くしかない、か。

 

 

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「ロスベガス行きエンパイヤートレインをご利用のお客様は三番ゲートでお待ちくださーい」

 

はいはい、ご案内ありがとうございます、と。

 

にしても厳重すぎだろ、この列車。ゲートは二重三重のチェックに武装警備兵がずらり。おかげで旅行気分どころじゃない。

 

まあ、理由は簡単だ。

エルラド教の首長――ミラール・ジュド・エルラド様ご一行がご搭乗だからな。基督教と銀河を二分する大物中の大物。そりゃピリピリもするわけだ。

 

そして海賊ギルドが狙ってるのも、その首長の暗殺。

原作じゃコブラが関わる大事件だったっけな。

 

でも今回は事情が違う。

俺? コブラほど顔は売れてないし、指名手配の値段も安いから、サボイラーどもに絡まれる確率は低い。目立たないのもたまには役に立つもんだ。

 

――ってことで、お歴々の尻拭い役は、どうやら俺に回ってきたらしい。

 

 

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先にサボイラーどもを片付けたいところだが、それをやってるとミラールの救出に間に合わない。

ルームサービスのワゴンを押すポーターと擦れ違いざまに作戦を頭の中でまとめ、俺は踵を返した。

 

ミラールが乗るVIP車両に着いた時には、護衛の教徒はすでに射殺されていた。

 

――間に合えよ。

 

「フフッ、さあ俺たちと来て貰おうか」

「いやっ、放して!」

 

ミラールの手首を掴んでいたポーターの首に、俺の投げナイフが突き刺さる。

 

「女の子はもっと優しく誘うもんだぜ」

 

「貴様! 何者だ!」

 

残った一人が手にしたのはクローシュ――皿に被せる金属の覆いだ。ジャンクフード漬けの俺には縁遠い代物だが、武器にしようってのか。

 

わかってたよ!

 

クローシュを避けた瞬間、奴が回し蹴りをかましてくる。

……獅子頭星人の俺に格闘戦を挑むか。いい度胸だ。

 

膝の近くにある急所に縦手刀で打ちの意識を込め、そこから中段逆突きで一気に崩す。倒れ込んだところに首への踵落としを叩き込み、命を刈り取った。

 

「危ないところをありがとうございます。貴方は一体……」

 

こんな状況でもすぐ礼を言えるとは。流石は銀河を二分する教団の首長だな。

 

「レオ・ゴルドン。レオって呼んでくれ。それよりここは危険だ。他にも奴らの仲間がいる筈だ」

 

「でも、何故私を誘拐しようと……」

 

「それより今は、君が無防備だって事が問題だ。外の守衛もやられてる」

 

「え? 守衛も……」

 

「兎も角、君を俺の部屋へ移す」

 

ミラールの手を取って部屋の外へ。倒れた守衛の亡骸に、痛ましそうな視線を落とすミラール。

 

「でも、この鉄道には鉄道公安官も乗ってる筈だわ」

 

「本物かどうか、どうやって調べる?」

 

「でも、それを言ったら貴方だって……」

 

「そうだな。俺を信じるかどうかは、君の勝手だ」

 

「……信じます」

 

 

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部屋に戻ると、ベッドの上に見覚えのないクマのぬいぐるみが座っていた。ふつうなら「かわいいな」で済むところだが、俺のカンがビンビンに反応する。ギルドの殺し屋だ、コレ。

 

黙ってナイフを抜き、狙いを定める。投げたら腹にスコンと吸い込まれるように刺さった。で、ぬいぐるみが血を吐いた。ぬいぐるみが血を吐くって、流石に今日イチでシュールな光景だ。

 

「ど、どうして…」小さな声が震えている。

 

「馬鹿か。俺はクマちゃんなんて持ってきてないだろ。俺が目的か?」俺は肩をすくめる。皮肉の一つも言わないとやってられない。

 

「ふふ、いう必要は無い。お前たちはここで死ぬのだからな」

 

こいつ、わりと余裕かましてる。原作の筋書きに詳しい俺は、ミラールのために全部吐かせねぇといけない。そういう教育を受けてきた(受けてねぇ)。俺はもう一本ナイフを抜いてそいつの目の前に突きつける。

 

「もう一本いっとくか?」

 

「や、やめてくれ。言う!」と、観念したように震える声。よしよし、話せ話せ。

 

「銀河系の諸国は二大宗教圏に分かれている。基督教とエルラド教。何千年も勢力を争ってきた。ここで彼女を誘拐し、それを基督教の仕業に見せかけたらどうなると思う?」

 

「な、なんですって…」ミラールの顔が真っ青になるのを見て、俺は鼻で笑った。筋書きとしては単純だが、効果はでかい。

 

「銀河を二分する銀河大戦の勃発だ」

 

「海賊ギルドは武器を売り、麻薬を売り、後ろからそれを眺めるってわけか」

 

「そうだ。そして諸国が疲弊した時にギルドは銀河の覇者として乗り出す」

 

「まあ今失敗したけどな」

 

「そうだ。失敗した。が、彼女が死ねば同じ事。基督教の仕業に見せかけてな」

 

「俺はやらないぞ」洗礼は受けてる。日曜のミサはいってないな。

 

「いいや、殺すのはあんたじゃない。あの女、サボイラーだ。あんたは死ぬんだ」

 

――そいつの口ぶりで全部わかった。クマのぬいぐるみは囮、炎は演出、主役はサボイラー。で、俺が吹っ飛ばされる未来図か。冗談じゃねぇ。

 

部屋の外から業火が噴き込む。クマちゃんが火だるまになって黒く焦げ、罪のない縫い目がはじける。特殊サイボーグ――サボイラーのいつもの見せ場だ。とっさにドアをバタンと閉めたが、奴らはそんなものお構いなし。ドアを溶かして腕を突っ込んでくる。輻射熱で空気が燃えるように暑い。あの触れ込みは、原作でドグを焼き殺した例の「熱い抱擁」を彷彿とさせる。嫌な予感は当たるもんだ。

 

ミラールを体で庇いながら窓際へ下がる。咄嗟に小型の冷凍ガスボンベをバッグから取り出す。使い方は簡単だ。正面に投げつけて――というか投げつける腕の方が震えたがな。

 

サボイラーが部屋に飛び込んで来た。奴は得意げに笑った。「私の熱エネルギーに小細工は無駄」――得意気な台詞だ。だがボンベを払いのけ、そのまま爆発させようとした瞬間、冷凍ガスが噴き出した。予想外の展開に奴の表面から霜が吹き出す。得意げな奴の自信と現実の温度差が美味いくらいに見える。

 

表面が急速に凍り付き、次の瞬間には関節がカクカクと固まって動きが鈍る。俺は迷わず自慢の454カスール・カスタムオートマチックを抜き、止めに入る。トリガーを引く音は静かだが、効果は雄弁だった。凍り付いた身体を撃ち抜くと、冷気の膜がはじけて血液が蒸気になって消える。もげた首が床をコロコロ転がり、こっちを恨めしそうに見上げる。顔は機械じみているのに、視線は人間くさいのが気味悪い。

 

「列車じゃ冷凍ミカン派なんだ」俺は思わず余計なことを呟く。突っ込みを入れたかったんだ、仕方ない。

 

ミラールは震えながらも、冷静さを保とうとしている。血まみれの場面でも礼を忘れない。流石だ。

 

「だいじょうぶか?」と俺。つい、俺の獅子頭がわずかに傾く。ミラールは目を大きく見開いた後、小さく頷いた。

 

「ありがとう、レオ。あなたは…」ミラールが言いかけて、部屋の中を見回す。

 

「まだ終わってない。あいつらの信号がどこかで鳴ってるはずだ。仲間が来る」俺は即座に部屋の隅にある通信機を蹴飛ばして切り、壊せるものは壊す。時間を稼ぐのが先決だ。

 

「私に怪我は…」ミラールが心配そうに胸を押さえる。幸い軽い擦り傷だけだった。

 

俺は拳を軽く握って余裕ぶって見せる。「いいか、心配すんな。獅子は猫かもしれないが、今日は子猫の真似はしねぇ。さっさとここから安全な場所へ移すぜ」

 

ミラールがふっと笑う。笑顔は無垢で、それでいて何故か重みがある。「レオ…あなたは本当に、悪い人には見えないわね」

 

「悪い狼かもしれないぜ」俺は相変わらず真顔で返す。ミラールが一瞬眉をひそめた後、やがて微笑んだ。「ふふ、猫なのに?」

 

「獅子だよ」俺は胸を張る。獅子頭の誇りを見せつけるつもりで。だが心の中では一つだけ計算している――次に来るのは本物の地獄だってことを。

 

窓の外で金属音が鳴り、遠くで列車の構成員が集結している気配がする。時間はない。俺はミラールの肩に手を置き、低い声で囁く。

 

「立てるか?こっから先はもっとヤバい。だが俺がいる」

 

彼女の手が俺のをぎゅっと握った。確かな重さが伝わる。信頼か、それとも絶望か。どちらにせよ、俺はもう引かない。

 

「よし、行こう」俺はミラールを支え、窓際の非常ハッチへと向かった。獅子の一歩は、大抵の場合で人を安心させるらしい。少なくとも、今日の俺にはそのつもりだ。

 

 

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