今日は水曜でどうでしょう!?
Yes/No
/*/足の用意/*/
ミラールに案内されて、聖堂に併設された駐車場へ向かう。
目の前には光沢のあるスポーツカーが停まっていた。
「やけに早そうだな……」
俺は自然と目を細める。ミラールの私物か、はたまた来客用か。いずれにせよ、なかなかの趣味だ。
だが、俺の視線はその先の異彩に吸い寄せられた。
場違いな大型トレーラー――ただのトレーラーじゃない。幾つかの細工が施され、まるで戦車のような威圧感を放っている。
「レオ、何をしてるの?」
ミラールの声が背後から届く。眉をひそめて、俺の行動を疑っている。もっともな反応だ。
「ふふ、獅子は狩りの準備を怠らないものさ」
俺は肩を軽くすくめ、タイヤやボディに手を伸ばす。細工はまだ途中だ。
ミラールが首を傾げるのを見て、少し微笑む。
「……?」
俺の視線は駐車場の隅々を走る。獲物を想定して、どの角度から来ても対応できるように確認する。
「今日の相手は、手強い。だから準備も、万全にしておかないと」
指先は迷わず動き、細工は確実に進む。手応えがあるたび、心が静かに高鳴る。
ミラールの背中が一瞬硬くなったのを感じ、俺は少しだけ笑う。
「……あなた、本当に油断ならないですね」
振り返ると、ミラールの視線が俺を捉えていた。
「獅子の狩りは、いつだって静かに始まるものさ」
言葉と同時に、胸の奥で興奮がざわめく。用意を整えるだけで、心が躍るのが分かる。
俺の目には、これからの戦いを待つ獲物を前にした獅子の光が宿っている。
そして俺は、静かに牙を光らせたまま、次の一手を思案する――
/*/ハイウェイ/*/
ハイウェイを疾走するスポーツカーの中、ミラールが声を張り上げた。少し怒り気味で、しかしその瞳には鋭さが宿る。
「説明してくれるわね。ここがサラマンダーの海賊ギルドの基地だなんて!! わたしにはさっぱり……」
俺は視線を前に戻しながら、落ち着いた声で答える。
「前々から俺も不思議だった点があるんだ。海賊ギルドってのは、一つにまとまった組織じゃない。銀河系の何万という惑星に点在してる。まとめようにも方法がなかった」
言葉を区切り、息をつく。ミラールの表情が強張るのがわかる。
「ギルドのボスたちは勝手気ままに動いていたわけだが……」
アクセルを軽く踏み込みながら続ける。
「しかし、サラマンダーという男が現れて、ギルドを一つの巨大な組織にまとめあげた」
「だが、各地のギルドをまとめるには完璧な連絡網が必要だ」
ミラールの呼吸が止まったのがわかる。
「ま、まさか貴方は…」
「そう。エルラド教会がギルドの連絡網なのさ」
ルームミラー越しに彼女の目が見開かれる。
「エルラド教会は銀河系各地に支部教会を持つ……教会への出入りは誰でも自由……まさにうってつけの連絡場所だ」
アクセルを踏み込みながら、俺はさらに言葉を重ねる。
「それに、君の父親サドロン・ジェドが亡くなったのは3年前……ちょうどサラマンダーが現れたのもその頃だ」
ミラールの唇がわずかに震える。
「それじゃ、父は…!」
「多分、サラマンダーがエルラド教会の実権を握るのに暗殺されたんだろう」
車内に、痛々しい沈黙が落ちる。
だが、その静寂を突き破るように、ルームミラーに異常な光が映った。
灰色の巨大なトレーラーが、ハイウェイを疾走して迫ってくる。
駐車場で細工を施したあいつ――俺の仕込みが、今、効果を現している。
タイヤの重低音が車体を振動させる。
「来たか……」
心臓が高鳴る。冷たい汗が背を伝う。
俺は即座にステアリングを握り直し、車の挙動を完全に掌握する。
「ふふ……さあ、狩りの始まりだ」
ハイウェイを疾走する二台。俺のスポーツカーと、追撃してくる灰色の巨体――獅子と獲物のゲームが、今、銀河の光の中で幕を開ける。
獅子の俺と、狡猾な獲物の駆け引きが、今まさに幕を開ける。
/*/ハイウェイ・空中追撃戦/*/
飛行艇となった灰色のトレーラーが、こちらの動きを察するかのように翼を広げ、ハイウェイ上空を滑る。
「よし……奴の軌道を読め!」
ステアリングを握る手に力が入り、アクセルとブレーキ、そしてブースターを駆使して車体を微妙に傾ける。カーブでは横Gを計算し、わずかな振動も見逃さずに修正を加える。
ルームミラー越しにソフィアの姿を確認する。褐色の肌に銀髪、ハリウッド女優のような微笑みを浮かべ、俺にウィンクしてくる。
「……嬉しいが今はそれどころじゃねぇ!」
爆弾を狙うタイミングを計算し、車体を一瞬だけ飛行艇に接近させる。
「行け……!」
小型爆弾が作動し、灰色の飛行艇のコックピットに直撃。爆発音とともに閃光が空を裂き、ソフィアの姿は吹き飛ぶ。
「これで……止められるか?」
だが、爆破の衝撃で飛行艇は制御を失い、翼を大きく揺らしながら不規則な軌道でこちらへ迫ってくる。
「くそ……避けるしかない!」
ハイウェイ上の水路の存在を咄嗟に思い出し、ブースターを最大出力で噴射。車体を左右に振り、回避行動を試みるが、巨大な飛行艇の質量と速度はあまりにも大きい。
次の瞬間、制御を失った飛行艇が車の進路に突っ込み、衝撃が体に襲いかかる。
「――うおっ!」
銀色の風と金属の衝撃音。車体と飛行艇は弾かれるように、水路へと落下する。冷たい水しぶきが顔にかかり、車のボディが水面に叩きつけられる感触。
視界が揺れ、ハイウェイの光は水面に反射して乱れる。
水の抵抗に体が包まれ、浮力と慣性が混ざり合う。
「……まだ、終わってねぇ……!」
だが、濁流の中、車と飛行艇は絡み合うように沈み、銀色のスリルは一瞬にして水の中に溶けていった。
水面に跳ねる飛沫と衝撃音だけが、荒れた戦いの痕跡を残す――。
/*/水中脱出・排水逆流/*/
冷たい水が全身を包み込み、衝撃で耳をつんざく。水流は予想以上に強く、車と飛行艇の残骸に絡め取られるように押し戻される。
「くっ……この流れ、強すぎる!」
ミラールが水中で目を大きく見開いているのが分かる。
「大丈夫、俺に掴まってろ」
腕を差し伸べ、彼女をしっかり抱き寄せる。
小型のオキシキャンディを取り出し、口に含ませる。
「舐めろ、酸素を補給するんだ」
ミラールは頷き、キャンディを口にしてゆっくり呼吸を整える。水中でも呼吸を確保できる、この小道具は頼もしい。
排水の勢いは依然として強く、逆流は難しい。しかし俺には手段がある。靴の踵に仕込んだスクリューを起動させる――水中推進機能だ。
「よし……一気に流れを逆流させる!」
俺はミラールを抱えたまま、スクリュー全開で水流に逆らう。水圧が体を押し戻そうとするが、俺の筋力とスクリューの力で徐々に流れを制御できる。
水流の抵抗を感じつつ、排水口の口に差し掛かる。視界には排水管が光を反射し、先には打ち上げ基地の入り口がかすかに見える。
「これが出口……いや、侵入路だ」
スクリューの振動を全身で感じながら、勢いを維持する。排水の流れを逆手に取り、水中を押し上げるように進む。
「行くぞ……!」
水の圧力が体を締め付けるが、ミラールの背を抱きながら、俺は一気に排水を駆け上がり、打ち上げ基地へと侵入する。
水流が背後で渦を巻き、静かな圧迫感を残す中、俺たちはようやく基地内部の安全な空間へと滑り込んだ。
「ふ……生きて着いたな」
水中戦を制した達成感とともに、冷たい水滴が髪や衣服から滴り落ちる。
振り返れば、排水口はまだ激しく水を吐き出している。あの勢いを逆流させて突破した自分たちの力を、俺は小さく噛み締めた。
「さて……次は、基地の奥だ」
基地内は打ち上げ準備に慌ただしかった。
たしか打ち上げは一か月後と言ってた筈……うそつきめ。知ってたけどな。