紛れも無く奴に会いたくない   作:ぶーく・ぶくぶく

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ごめんなさい。どうにも気に入らなかったので全面書き直しました。
21:15に再度アップしたので、その前に読んだ人は読み直してくれると嬉しい。




 

 

/*/砂塵の観測者

 

 

 通信にノイズが走り、戦車の外装を覆う迷彩膜がゆっくりと砂色へ変化していく。黄砂が吹き荒れるガロン星第七発掘区域。

 俺は遮光ゴーグル越しに遠くの発掘現場を見据えた。――ギルドの連中は、結局あの後深追いしてこなかった。代わりに地元管理局の許可証を偽造し、正式な派遣チームとして登録、まるで考古学者のふりをして掘削を続けている。

 

 「思ったより馴染んでやがるな」

 《観測結果:擬装率97%。現地管理局も気付いていません》

 「芸が細けぇ。まあ、こっちが荒らした後だ。今さら出るもんなんかねぇよ」

 

 光学迷彩を纏う思考戦車《ドロセラ》は、砂丘の稜線を這うように滑っていく。

 数百のセンサーが地下をスキャンし、古代構造体の残響を拾っていた。

 ――だが今回の目当てはそれじゃない。“鍵”はもう別の場所にある。

 

 《異常波形、発見不能。周辺は静穏》

 「そうか。じゃあ、そろそろ奴らが来る」

 

 その時、空が焼けた。

 黄砂を裂き、白い閃光が二条――一直線に降下してくる。衝撃波が空気を叩き、砂丘が震える。

 真紅のスーツを纏う男、コブラ。そしてその後ろに続く青銀のジェットスーツ――ドミニク・シークレット中尉。

 

 彼女の背のスラスターが青白く輝き、脚線のラインが閃光に濡れた。

 「……やっぱり来たか。物語通りだ」

 《目標確認。ドミニク・シークレット中尉、携行ケースを保持。質量二・一五キロ、魔導金属反応あり》

 「“鍵”だな」

 

 二人は渦巻く砂煙の中を滑空し、坑底へ着地した。

 「ドミニク、位置を確保しろ。こいつが求めてるのはそれだ」

 「了解。落とすんじゃないわよ」

 ケースが彼女の腕の中で光を放つ。まるで内部の金属が呼吸しているようだった。

 

 

/*/墜落と溶解

 

 

 空の向こう、黒い影が現れた。翼竜型戦闘機《ブラックボーン》。女性パイロット、コードネーム〈エクリプス〉。

 漆黒の装甲が陽光を吸い込み、翼端の反応炉が青白い尾を曳く。

 「ターゲット確認、ブラックボーン接近。距離一一〇〇」

 《彼女の任務パターン、監視および強奪行動》

 「やっぱり“鍵”狙いか」

 

 ドロセラの砲塔が静かに回転する。照準は翼竜の離脱ライン。

 発射音。榴弾が空を裂き、ブラックボーンの右翼を抉る。

 黒煙、爆光、そして墜落。翼が砂丘に突き刺さり、反応炉が悲鳴を上げる。

 

 「命中確認。損傷率八二パーセント」

 俺は息を整え、ホログラムに映る影を見つめた。墜落した機体のコックピットが、なお微かに脈動している。

 その時――坑底から青白い光が弾けた。

 

 ドミニクが持っていた携行ケース。その中の“鍵”が共鳴している。

 「コブラ! これ、動いてる!」

 「離せ! 反応してやがる!」

 

 しかしその瞬間、墜落したブラックボーンの胸部ハッチが開き、砲門がこちらを向いた。

 「やめろッ――!」

 遅かった。女パイロット〈エクリプス〉が光線銃を引き抜き、まっすぐドミニクの腕の中へ照射する。

 

 閃光が砂を焼き、空気が溶ける。

 携行ケースごと、“鍵”が白く輝き、次の瞬間、金属が音もなく融けていった。

 まるで存在そのものが消滅したかのように、跡形もなく。

 

 「クソッ! あの女、撃ちやがった!」

 《エネルギー反応消失。“鍵”の残留素子、検出不能》

 「……やっちまったな。奴は証拠ごと消すつもりだった」

 

 コブラとドミニクは砂をかぶりながら後退し、墜落機を睨む。

 ブラックボーンは煙を吐きながらも、まだ息がある。

 「AI、再照準。操縦席、破壊」

 《ロック完了。射角安定》

 引き金を引く。榴弾が突き刺さり、機体が静かに沈黙した。

 

 

/*/止めと収奪

 

 

 砂煙の中、機体のコックピットがわずかに動いた。女パイロットが、生きている。

 俺はハッチを開き、外装アームで操縦席を引き剥がした。

 中にいた彼女は血に濡れ、顔に油と砂を付けている。それでも瞳は鋭く、光を失っていなかった。

 

 「……上等な腕だな」

 「……“鍵”は、渡さない……あれは……誰にも……」

 「もう渡すもんなんてねぇ。お前が溶かしたろう」

 「……それでいいの」

 《心拍数低下。危険水準》

 

 俺は端末を起動し、ドロセラのケーブルを機体の情報端子に差し込む。

 「データを抜け。機体ログ、通信記録、全部だ」

 《転送中……暗号解除進行》

 

 女は苦笑した。「……データを奪っても、あの金属の式は読めない。お前たちの言葉じゃ、解析できない」

 「それでも拾う。形がなくても、痕跡は残る」

 《転送完了。暗号破片解析中……進捗八〇》

 

 ホログラムに浮かぶ通信ログの断片。

 “任務目的:ドミニク・シークレット中尉が保持する遺構鍵の無効化”

 「やっぱりそうか……破壊任務か」

 

 リサ――〈エクリプス〉は微笑んだ。

 「彼女が“鍵”を持っている時点で、もう均衡は崩れてたの。どちらが手にしても、星は落ちる……だから、焼いた」

 「理屈はわかるが、手段が最悪だ」

 「最悪でなきゃ、生き残れない星よ……」

 

 息が途切れた。

 《脅威消滅。データ転送完了》

 

 俺は一度だけ視線を落とした。機体の中で黒い煙が揺れている。

 「ドロセラ、データ暗号化。記録保持」

 《了解》

 

 風が砂を巻き上げ、遠くでコブラとドミニクが言葉を交わす声が微かに聞こえる。

 “鍵”はもうない。だが、この星の物語はここで終わらない。

 情報は残り、火は次の戦場へ燃え移る――。

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