ニチアサ万歳!
/*/ ガロン星・古代遺構発掘現場 地下層入口 /*/
赤砂の大地が、星の風で舞っていた。
大気の密度が薄いせいで、空気は音を運びきれない。
だが、それでも――耳を裂くような衝撃音が、砂塵を切り裂いた。
上空から、二条の光。
一つは真紅、一つは蒼。
どちらも流星のように、一直線に地表へ突き刺さる。
スラスターの残光が消えると、そこに立っていたのは――コブラと、ドミニク・シークレット中尉だった。
「派手にやるね、相変わらず」
ドミニクが肩口のスラスターを閉じながら、赤い唇で笑った。
スーツは最新型の重力制御型〈ヴェネラ・スキン〉。そのラインは“戦場に立つ彫刻”のようだった。
コブラは左腕のサイコガンを肩越しに構え、眼下のギルド兵たちを見下ろしてニヤリと笑う。
「だって、地味に降りたら“俺”じゃないだろ?」
そう言って、迷いなく引き金を引いた。
螺旋状の光弾が空気を裂き、警備ドローンの装甲を貫く。
金属がねじ切れ、燃えた。
瞬間、閃光弾が炸裂。ギルドの傭兵たちが応戦する。
コブラは砂を蹴り、煙の中を笑いながら駆け抜ける。
――あの男、どこに行っても戦争を“遊び”に変える。
ドミニクは空を蹴った。
重力制御ユニットを展開し、槍型プラズマランスを一閃。
蒼白い軌跡が走り、敵兵の列を一瞬で弾き飛ばす。
だが、相手もタダ者じゃない。
シーカー・ドローンが蜂のように群がり、通信妨害波をばらまく。
ドミニクのHUDがノイズで埋まり、俺の通信も一時的に乱れた。
《……ぎ、……コブラ、ドミニク、聞こえるか?》
ノイズの奥から二人の声が重なった。
《聞こえてる!/こっちは問題ない!》
音声が戻るころには、俺の“相棒たち”が戦場に着いていた。
俺の思考戦車――マックスと武蔵。
センサーに映る地形データを確認しながら、俺は指を弾く。
「ターゲット、ブラックボーン・ユニット。――掃討優先。」
操縦桿を握る必要はない。思考信号で十分だ。
二両の戦車は、俺の“思考そのもの”で動く。
榴弾砲が唸りを上げ、爆風が砂丘を裂いた。
ドミニクのプラズマランスが閃くたびに、金属の匂いが風に乗って届く。
……戦場の匂いは、どこの星でも変わらない。
俺はスピーカーを開き、軽く息を吐いた。
「よーお、お二人さん。――メリークリスマス。」
コブラが肩越しに振り向き、いつもの調子で笑う。
「遅かったじゃねぇか、レオ。」
「道中で、ちょっと掃除をな。」
戦闘の残響が消えていく。
赤砂に焦げた金属の臭いだけが残る。
「教授と穴居人たちは?」
俺が問うと、ドミニクが息を整えながら答えた。
「全員無事。でも……鍵がやられた。」
そのとき――地底湖の水面が、泡立った。
黒い水が渦を巻き、巨大な“何か”が浮上する。
――人の顔をした魚。
ぬらりとした光沢の鱗、そして不気味なほど滑らかな笑み。
「わぁはっはっはっはっはっはっ! その鍵は――囮だよ!」
コブラが一歩前に出る。
「じゃあ、本物の鍵はどこにある?」
人面魚は、泡を吐きながら喉を震わせた。
「本物の鍵は……君だ。ドミニク・シークレット中尉!」
ドミニクが息を呑む。
スーツの胸部装甲が淡く光り、古代文明のエンブレムが浮かび上がった。
――まるで、彼女自身が装置の一部だったかのように。
周囲の遺構が共鳴を始め、壁面のルーンが連鎖的に点灯していく。
俺のセンサーが悲鳴を上げた。
《警告:ルーン波動、惑星コア直結型エネルギー反応を検出》
「……まさか、発掘してたのは遺構じゃねぇ。“起動装置”そのものか」
口の中が乾く。
コブラは口角を上げ、白い歯を見せた。
「面白くなってきたじゃねぇか。」
/*/ ガロン星・第七発掘区域・地下聖堂 /*/
赤砂の空洞が、まるで心臓のように脈動していた。
ドミニクの周囲を、黄金の光子が舞う。
コブラがサイコガンを下ろし、俺は戦車のハッチを開いて外に降りた。
俺の視界に映ったのは――黄金の扉。
高さ十メートル、幅八メートル。
磨かれた金属の表面には、数え切れない幾何学紋様が走り、微細な文字が流れるように光っている。
中心には人の輪郭――女性型の“窪み”。
「……見覚えがある形だな」
コブラが口笛を吹いた。
「まるで誰かの身体を型取ったみてぇだ。」
俺はセンサーを走らせる。
《生体反応パターン一致:ドミニク・シークレット中尉の身体データと99.998%一致》
「……マジかよ。つまり、“鍵”ってのは……」
ドミニクが静かに前へ出た。
赤砂を踏みしめ、黄金の光に照らされるその姿。
――彼女の身体が、門を“開ける”ために作られた完璧な鍵。
「ガロン文明は、生体構造そのものを神聖視していた。
完全な形を“鍵”に見立てて、門を閉ざしたのよ。」
扉のルーンが彼女の身体をなぞり、輪郭を描く。
ぴたりと一致した瞬間、低い唸りが地下全域を揺らした。
黄金の扉が、音を立てて開く。
砂が舞い、風が吹き抜け、光が零れる。
コブラが肩を竦めて笑う。
「宇宙一のプロポーションが、宇宙一の鍵ってわけか。洒落てるじゃねぇか。」
俺は苦笑しながら、センサーを全開にする。
「鍵穴の方も、相当な趣味人だな……中身は何だ?」
扉の奥から、金色の風が吹いた。
無数の光子が漂い、砂中に眠る古代の機構が震える。
遺構の壁が動き、巨大な歯車の列が回転を始めた。
「ドミニク!」
コブラが彼女の腕を掴む。
黄金の紋様がドミニクの肌を走り抜け、彼女の瞳が光を帯びる。
「大丈夫……これは――見える。ガロンの記憶が……!」
眩い光の中、黄金の扉が完全に開かれた。
――そこには、王の玉座。
そして、星を動かすための“古代のエンジン”。
コブラがゆっくりと銃を下ろし、唇の端を吊り上げた。
「さて、お姫様。扉は開いた。次は何が出てくる?」
俺はセンサー越しに、扉の奥を見据える。
そこにはまだ、形にならない“何か”が揺れていた。
……それが神なのか、機械なのか、あるいはこの星そのものなのか――まだ、誰にも分からなかった。