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/*/ 金星宙域 報道電波チャンネル“ガラクシーニュース7” /*/
「ビーナス号、未だ行方不明! 一か月前、金星政府が地球連邦に寄贈した純金二十トンを積載した宇宙貨客船《ビーナス号》が消息を絶ちました。当局筋は隕石衝突、または突発的ワームホール現象との関連を――」
モニターの中で、ニュースキャスターの声が途切れる。
その横で、デイジーが足を組み替えた。
スタイル抜群の美女。
だが、何故か――顔には世界一有名なネズミのディフォルメ・マスク。
それでいてボディスーツは身体の曲線を容赦なく描き出している。
このギャップが、彼女の性格そのものだった。
「金塊、二十トン……欲にまみれた星なら一つ買えるわね」
デイジーが軽口を叩く。
俺――レオ・ゴルドンは、苦いコーヒーをすすった。
「欲にまみれた奴らが群がるには、ちょうどいいエサだ」
俺は元・殺し屋。
今は探検家を名乗ってるが、過去の血の匂いはそう簡単に消えない。
銀河の果てを掘るのも、俺にとっては地上での殺しと同じ――
“探す”“奪う”“生き延びる”。
それだけのことだ。
その俺たちのもとを、ある日訪ねてきたのが――そばかす顔の少女だった。
年端もいかない、と思った。
だが、制服のエンブレムを見てすぐ悟る。
――銀河パトロール、秘密調査部。
少女は姿勢を正し、名乗った。
「中尉、ルシア・ロドック。ラスベガス・ステーションでの調査を依頼します」
ラスベガス・ステーション。
金星と地球を結ぶ中継拠点であり、銀河最大のカジノ・ステーション。
その軌道上で、ビーナス号は最後に通信を絶っていた。
「おいおい、銀河パトロールがカジノの泥棒探しか?」
俺がそう言うと、少女は静かに答えた。
「いえ。内部汚職の疑いがあります。ドミニク・シークレット中尉から、貴方の名を伺いました」
ドミニク――コブラの相棒であり、戦場を共にくぐった女だ。
俺の名を口にした? あの口止めの約束はどうなった。
「……おいおい。報告書に俺の名前は書かないって話じゃなかったのかよ」
思わず、カップの縁を叩いた。
デイジーが笑う。
「もうバレてるってことよ、レオ。あんた、地獄の底でも目立つタイプだもの」
ルシアは淡い笑みを見せた。
「ドミニク中尉は“彼なら掘り出す”とだけ言っていました」
その言葉の重みで、俺の胸の奥の“職業病”が疼いた。
掘り出す――真実か、金塊か、それとも地獄か。
「……ビーナス号の航路データは?」
「消去されています。けれど、ラスベガス・ステーションの裏ルートから何か掴めるはずです」
俺は煙草を咥え、火を点けた。
「いいだろう。調査費は金塊の一%。現物払いで」
デイジーが口笛を吹く。
「また危ない橋を渡るのね」
「橋がなきゃ、飛び越えりゃいいさ」
外では、金星の黄雲が宙を覆っていた。
行方不明のビーナス号、そしてその影に揺れる“黄金の男”の噂。
コブラの名前が、またどこかでちらついている気がしてならなかった。
――黄金は人を狂わせる。
だが、狂気こそが宇宙を動かす燃料だ。
俺の次の目的地は決まった。
ラスベガス・ステーション。
そして、“黄金の男”の真相だ。
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