/*/ 『ベンガル星へ ― スロットルの哲学 ―』 /*/
シルバー・ストーンが、夜空で淡く脈打っていた。
あれが“光明神の導き”だという。
俺とコブラは、その光を目印にベンガル星の地平を走っていた。
闇に沈む荒野を、二つの流星が切り裂く。砂塵が光の尾を引き、燃えるように風が顔を叩く。
先頭を走るのはコブラ。
赤いジャケットを風にたなびかせ、愛用のエアバイクを操っている。
フレームには《HONDA》の刻印。――まったく、らしい選択だ。堅実で、信頼性第一。
だが、その安定した姿勢がどうにも癪に障る。
「なあ、レオ。お前のバイク、またエンスト気味か?」
「悪かねぇ。最高の調子だ。……SUZUKI製だからな」
「まだそんなこと言ってんのかよ。宇宙でバイク宗派論争なんざ聞いたことねぇぞ。」
「宗派じゃねぇ、信仰だ。
SUZUKIは魂で回るんだよ。数字や理屈で測るもんじゃねぇ」
コブラが笑った。
「ハハハッ、魂で動く機械か。そいつはメンテが大変そうだな」
「手間がかかる方が愛せるんだよ。
お前のそのHONDA、AI制御で勝手にバランス取るんだろ?」
「当たり前だ。命預けるなら、信用できるメーカーに限る」
「バカ言え。命を委ねるんじゃねぇ、支えるんだ。
エンジンは人間が制御してこそ心臓になる」
「……勇士の理屈か」
コブラがニヤリと笑い、左手の義手を月光にかざした。
白く光る義手の中に、あの時の“印”がまだ残っている。
彼はゆっくりとスロットルを開きながら呟いた。
「そう言われちゃ、説得力あるな」
「俺だって神を信じちゃいねぇよ。
だが走る時くらいは、信じてもいい気がする。
エンジンの鼓動ってのは……祈りみてぇなもんだからな」
「ハハッ、いいね。じゃあ、祈り比べといこうか」
「上等だ。負けた方が酒を奢れ」
二台のエアバイクが並ぶ。
HONDAは静かに鋭く、SUZUKIは野太く吠える。
夜を裂いて疾走する姿は、まるで銀河に解き放たれた二匹の獣のようだった。
遠く地平に、ベンガル星の太陽が姿を見せる。
薄紅の光が砂の海を染め、シルバー・ストーンの輝きが強まった。
胸の奥の印がうっすらと熱を持つ。――運命の警鐘か、それとも祝福か。
「なあ、レオ」
並走するコブラが声を上げる。
「俺たち、また運命に巻き込まれてんのかもな」
「だろうな。だが――悪くねぇ」
「なんでだ?」
「道がある限り、走り続けるだけさ」
ストーンの光が流星のようにのび、俺たちの進路を照らした。
HONDAとSUZUKI、神話と機械、信仰と悪態。
全部ごちゃ混ぜで、最高に気持ちいい夜だった。