/*/ 『ベンガル星 ― 砂塵の幻戦士』 /*/
ベンガル星の風は、焼けるように熱い。
砂が肌を削るほど吹き荒れる荒野の中で、俺とコブラはバイクを止めた。
火山灰と鉄砂が混じる風の向こう――竜たちの戦場があった。
竜。
二足で歩き、黄金の鎧を纏った貴族のような連中。
だがその貴族ぶりは、どこか歪んでいる。
骨と金属を組み合わせた竜車の上で、彼らは王侯を気取り、
幻の舞台を眺めていた。
ひときわ大きな竜が片手をかざす。
鱗の隙間から光が漏れ、砂の上に少女が形をとる。
白い肌に薄布一枚、瞳は蒼く輝いていた。
――幻戦士。
竜の精神が生み出した“化身”だ。
「……半透明なんかじゃねぇな」
コブラが口笛を吹く。
「まるで人間だ。こいつら、自分の理想像を具現化してんのか?」
「理想像、ね……ずいぶん皮肉な理想だ」
俺は双眼鏡を下げ、戦場を見渡した。
上半身裸の戦士たち――まるで蛮族。
鎖で締め上げた筋肉、斧や槍を振るう腕。
“コナン・ザ・バーバリアン”そのものだ。
全員が竜の精神が具現化した幻戦士。
だが、血を流し、倒れ、死ぬ。
そのたびに、遠くの竜の額から黒い煙が上がる。
――リンクしている。
幻戦士が死ぬたびに、創造主の竜が苦しむ。
別の部族が襲ってきたらしい。
あちらの幻戦士も同じだ。
赤銅の鱗を持つ竜が咆哮し、十数人の戦士を同時に生み出す。
砂塵が上がり、鉄のぶつかる音が荒野を満たした。
竜たちは自ら戦わず、幻戦士を駒のように操っている。
「……おい、コブラ。見ろよ」
「ん?」
「竜ども、戦争を“芝居”にしてやがる。
あの竜車の奴――観劇でもしてるみたいだ」
実際、黄金の竜は葡萄の房を口にし、笑っていた。
竜車の内部には幻の少女たちが控え、
彼の頬を撫で、酒を注いでいる。
まるで貴族の愛妾。
だが全員が幻。
精神の贅沢、狂った貴族趣味だ。
「なるほど……滅びるわけだ」
俺は吐き捨てた。
「戦いを遊びに変えた種族に、未来なんざねぇ」
コブラは黙ってライターを弾き、葉巻に火をつけた。
「……それでも、妙に綺麗だな。
死んでも消えない夢みたいでさ」
「お前、詩人にでもなったつもりか」
「違ぇねぇ。俺たちも似たようなもんだろ?
自分の戦いを幻みたいに繰り返してる。
でも……その幻が、誰かを救うこともある」
「綺麗事だな」
「綺麗事じゃなきゃ、神も光も出てこねぇよ」
……その時だった。
砂嵐の中、風が裂けた。
黒い覆面に兜を被った、細身の幻戦士が立っていた。
上品な身なり。だが、その剣の構えは鋭い。
ごうん、ごうん、と風が唸り、竜巻が彼を中心に巻き上がる。
剣が振り下ろされた瞬間、砂が光った。
その一撃が、まるで星の光のように真っ直ぐで――
俺たちの胸の奥に、シルバー・ストーンの共鳴が走った。
「おい、レオ……見えたか?」
「ああ。あの光だ。導きの……!」
竜も幻も、まとめて巻き上げられ、空へと吹き飛んだ。
次の瞬間、地平の向こう――
ベンガル星の空に、巨大な光の紋章が浮かび上がった。
それはシルバー・ストーンの紋章。
神々の導きか、それとも滅びの印か。
――俺には、まだ判らなかった。