/*/ 『ベンガル星 ― 砂塵の幻戦士』 /*/
夜の風が冷たい。
焼け落ちた城の頂で、ホークはひとり立っていた。
下界には炎の名残。
砂の上に竜の死骸が転がり、まだ赤熱を帯びている。
風が吹くたび、覆面の下で乾いた血が剥がれ落ちた。
その感触で、ホークは己がまだ“生きている”ことを確かめる。
――生きている、か。
だがそれは、どれほど確かなことだ?
俺たちは幻だ。竜の精神が生み出した模造品。
記憶も感情も、主人の意識の残り香にすぎない。
戦場では、死ぬのは怖くなかった。
斬り結び、血を流し、敵を倒す。
その果てに死ぬのなら、それは戦士の本懐だ。
だが――
“幻として消える”ことだけは、恐ろしかった。
肉が燃え尽きるように、記憶も、誇りも、誰の中にも残らず消えていく。
存在が風のように溶け、最初から何もなかったかのように。
それが、幻の死。
それだけは、受け入れられなかった。
「戦士として死ぬのは怖くない。だが、幻として消えるのが怖い……」
誰に言うでもなく、ホークは呟いた。
声は砂に吸われ、夜の闇へ溶けた。
竜の支配者は、幻戦士を“道具”と呼ぶ。
だが、道具が思考し、恐怖を知る時、それはもはや“物”ではない。
ホークは己の胸に手を当てた。
そこに鼓動はない。
それでも、確かに“熱”がある。
それは生命の残滓か、それとも幻の錯覚か。
「レオ・ゴルドン……」
その名を呟く。
“外の空”から来た男。
支配者を持たず、誰にも従わない旅人。
あの男の目の奥には、確かな光があった。
幻ではなく、“自らの意志で燃える光”だ。
ホークはゆっくりと膝をついた。
焼けた石の上に、血が一滴落ちる。
その血は黒く、やがて砂に吸われて消えた。
それでも、痛みがある。
痛みがある限り、俺は“存在している”――そう自分に言い聞かせた。
「竜に造られ、戦うためだけに生まれた者。
だが、戦いの意味を選ぶのは自分だ」
ホークは立ち上がり、夜空を見上げた。
星々が瞬く。
かつて竜たちが“幻の戦場”を投影するために使った衛星の残光が、今はただの星に見える。
「死すならば、戦いの中で。
だが、その戦いは“竜のため”ではない。
己が信じる何かのために」
覆面の下で、唇がわずかに歪んだ。
笑ったのか、それとも泣いたのか、自分でも分からない。
だが、確かに感じた。
“幻”であっても、意志は持てる。
その意志が燃える限り、幻はまだ“生きている”。
――そして、彼の誓いは風に刻まれた。
やがて来る戦いの夜明けに向けて。
幻の中に“心”を見出した戦士として。