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/*/ タートル号・リビング /*/
宇宙を滑るように進むタートル号の船内。
リビングの照明は少し落とされ、モニターの光だけがゆらゆらと揺れていた。
その中央で、コブラがぐったりとソファに沈んでいる。
テーブルには使い捨てのティッシュと空のマグカップ、そして体温計。
「……へっくしょん!」
コブラがくしゃみをひとつ。金髪がぐしゃぐしゃだ。
レオが腕を組んで呆れたように見下ろす。
「不死身なのに風邪を引くのかよ」
コブラは鼻をかみながら、ぐったりと返す。
「おいおい、俺だって人間だぞ」
「そうか?」
「……あぁ、たぶんな」
そのとき、キッチンからホークが現れた。
片手に金属グラスを三つ、もう片方に何やら湯気を立てるボトルを持っている。
「コブラ、具合はどうだ?」
「見て分からないか?」
コブラは半眼でにらむ。
レオが肩を竦めた。
「重症だな。こっちは“良く効く注射”があるって言ってるんだがよ」
「注射は嫌だ」
レオが呆れたように笑う。
「子供か」
ホークはグラスをテーブルに並べ、得意げに言った。
「だが、安心しろ。凄い風邪薬を作ってやったぞ。秘伝の妙薬だ」
コブラは半信半疑で眉をしかめる。
「飲んでも死なないんだろうな……?」
「試してみれば分かる」
ホークがにやりと笑う。
仕方なく、コブラはグラスを手に取って一口。
「――うっぷ! なんだこりゃ!? 酒じゃねぇか!」
ホークが胸を張る。
「数々の薬草をウォッカに溶かしてある。喉に効くぞ」
「効くどころか焼ける! 俺は風邪を引いてるんだぜ!? 二日酔いにする気か!」
コブラは咳き込みながらソファに沈み込む。
レオは笑いをこらえながら肩を叩く。
「ほら、体の中のバクテリアも酔っ払って出て行くさ」
「……バクテリアだけじゃなく、俺の魂まで出て行きそうだ」
ホークは真顔でうなずいた。
「それが治療というものだ」
「お前ら、頼むから俺が寝てる間に解剖とかすんなよ……」
タートル号の静かな航行音の中、
レオとホークの笑い声だけが、船内に軽く響いていた。
/*/ タートル号・リビング 続 /*/
ホークの「妙薬」に呻きながら、コブラはソファに沈みこんでいた。
赤いガウンの襟がずり落ち、額には冷却パッド。
テーブルの上には空いたグラスと、半分以上減ったウォッカ瓶。
「……だから言っただろ、二日酔いになるって」
レオが呆れ顔でため息をつく。
「バクテリアは消えた。たぶん宇宙の果てまで飛んでったな」
コブラは声を掠れさせながら咳き込む。
そんな時だった。
リビング前方のモニターが、突如として強い光を放つ。
白金の輪が空中に広がり、まばゆい放射光が船内を満たした。
ホークが反射的に腰の剣に手をやる。
「……なんだ?」
モニターの中で、光が人の形をとる。
やがて、穏やかだが圧倒的な声が響いた。
『――惑星ダストへ行きなさい。そこにお前たちが探す“第4の戦士”がいます』
レオとホークが目を見合わせる。
コブラはティッシュを鼻に当てたまま、青ざめた顔でモニターを見上げた。
「よぉ、
そんなとこにいないで、あがったらどうだ。熱いコーヒーでも飲むか?」
返答は静かだった。
『その勇士の名は“ミスティー”。
気をつけて行きなさい』
それだけを言い残し、光はゆっくりと消えていった。
モニターは再び通常航行の星景に戻る。
ホークが唇を引き結ぶ。
「……相変わらず、前触れも余韻もないな」
レオは肩を竦め、手近のグラスをくるくる回した。
「人付き合いの悪い神様だ。説明の“せ”の字もねぇ」
コブラはマスク越しに笑みを浮かべ、かすれ声で言った。
「まぁいいさ。
次は惑星ダストか――んじゃま、行ってみるか」
立ち上がろうとしてふらつき、レオに支えられる。
「おいおい、ほんとに動けるのか?」
「だいじょーぶだ……多分な」
ホークが操縦席へ向かい、タートル号のエンジンが唸りを上げる。
外の星々が流れ、宇宙が線になっていく。
レオが苦笑しながら言った。
「風邪ひき艦長と一緒に、電気使い探しの旅ってわけか。ま、悪くねぇ」
「へっ、銀河が俺に休ませる気がねぇらしい」
コブラはそう言って、葉巻を口に咥えた。
火を点けようとして、
「……うっ、匂いで酔いそうだ」
と呻きながら、再びソファに沈んだ。
タートル号は静かに加速を続け、
その進路を――惑星ダストの方角へと向けた。