/*/
レオは船の下甲板で黙々と装備を整えていた。
金属の匂い、オイルの匂い、そしてどこか清々しい戦前の緊張感――
彼はそういう空気が好きだった。
まず戦闘服に腕を通し、防弾プレートを胸にぴたりと合わせる。
動きを妨げないよう微調整を繰り返し、各ポーチには手榴弾、閃光弾、予備マガジンを詰め込んでいく。
指先が勝手に動く。慣れた所作が、彼の平常心を形づくるのだ。
いつもの相棒、454カスール・カスタム・オートマチックを手に取り、
スライドを引いて薬室を覗く。
次に取り出したのはバハウザーM571――アーマー・マグナム。
銃身を覗いて弾種を確認する。二〇ミリの「徹甲榴弾(APHE)」だ。
どんな装甲相手でも議論を一発で終わらせる弾丸。
レオはわざと軽く、肩越しに呟いた。
「おいおい、戦争でもするつもりか……てな、俺」
背後から足音。
ホークがやって来て、肩越しにレオの装備を眺める。彼はいつだって冷静だ。
「惑星ダストは紛争地域だ。ドミンゴ伯爵とゲリラの小競り合い。
準備は、それなりどころか“過剰”なくらいでちょうどいい」
レオはブーツを履き替え、ソールに仕込みの起振爆弾発射砲――
“サウンド・ウェーブ・ボンバー”を差し込む。
見た目はごく普通の戦闘靴だが、踏み込めば起振子が飛び出し、地面に衝撃波を叩きつける。
足で話をつける――それが、彼の得意スタイルだ。
「靴も武器になるって、いいよな」
そう自嘲気味に笑い、指先で手袋の手首を軽く叩く。
「ロシナンテを呼べれば楽だが、あいつは別件だ。
思考戦車が一台あれば、交渉も口火も全部吹き飛ぶんだがな」
レオはそう言って、低く笑う。
慎重にマガジンを装填し、銃口を上に向けて安全確認。
金属音が一つ、下甲板の空気を引き締めた。
「呼べるなら呼びたいが、今は俺ら三人で十分だ。
弾と根性、それにコブラの無茶でなんとかなる」
そんな言葉は、決して根拠のない自信だけではなかった。
だがホークは、腰の剣の鞘に指をかけたまま、短く警告する。
「気を抜くな。ゲリラ戦は何が起きるか分からん。
戦車一台の存在は、戦術以上に“心理”が大きい。
無理なら、最悪を想定して動け」
レオは肩越しにコブラを見やり、片目を細める。
「心配すんな。俺は“演出家”だ。
乱戦の中でも、観客――つまり敵が一番盛り上がる瞬間を作れる。
ルシアやドミニクに迷惑かけない程度にな」
コブラはかすれた声で笑い、かすかな頷きを返した。
「頼むぜ、マヴ。惑星ダストは笑いを取る場所じゃねぇが……
面白くなりそうだ」
船外ハッチの方から、遠くタートル号の軌道調整音が響いてくる。
三人の影が長く伸び、甲板のランプが冷たく揺れた。
レオは心の中で装備をシミュレートする。
モアイ型の機動兵器。硬く重い装甲。
八九ミリロケットランチャーは欲しいが、デカい。
サイコガンは頼れるけど、自分では火力が出ない。
コブラのサイコガンなら対物もいけるが、それは彼の仕事だ。
自分は機動性で勝つ方がいい――だから、454とアーマーマグナム。
最後にバッグを開け、軽い決断を下す。
ビーム(荷電粒子)バズーカは重い。
だがオプションの携行型チャージャーと、小口径ビームライフルをセットにすれば、
中距離での“説得力”は確保できる。
結局、手にしたのはビームライフルと携行型チャージャー。
胴に密着する徹甲弾。荷重と機動性の折衷案だ。
「――行くか」
そう呟いて、レオはハッチへ向かう。
外ではタートル号が、惑星ダストへと落ちてゆく。
風が甲板を撫で、彼の心臓が静かに高鳴った。
準備は整った。
あとは、道が示す方へ走り出すだけだ。
/*/
リビングの入り口では、コブラが風邪気味のだるそうな姿で腰掛け、
目だけで二人を追っていた。
義手の白い光がかすかに震え、あの“印”がまだ残っているのを、レオは見逃さない。
「コブラ、本当に風邪のままで良いのか? 注射が嫌なら座薬もあるぞ」
レオが肩越しに声を掛けると、ソファにもたれたまま、コブラは眉間に皺を寄せた。
「……やめろ、物騒な提案は」
かすれた声で咳払いし、それから苦笑を浮かべる。
「ホークの風邪薬で悪酔いしてるんだ。
これ以上なにかをぶち込むのは勘弁してくれ」
「調合どんだけキツかったんだよ、あれ」
レオが呆れたように笑うと、ホークは少しだけ視線をそらした。
「効き目はある。……多少副作用もあるだけだ」
「多少でああなってんのかよ」
軽口が飛び交い、下甲板の空気にかすかな笑いが混じる。
それでも、準備の手は止まらない。