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スクラップの平原に、重い地鳴りが響いた。
錆びた装甲板の山を押しのけるようにして、奴らは姿を現す。
巨大な石像――いや、石像の“ふりをした”機動兵器。
モアイ型の機動兵器。
無表情な顔面を前に突き出し、ずん、と一歩踏み出すたびに、
足元のキャタピラが鉄屑を噛み砕き、火花を散らす。
腰の部分に旋回砲塔、両腕には多目的マニピュレータ。
肩のあたりから、ミサイルポッドがゆっくりと開いた。
「お出ましってわけか」
スクラップの丘の上から、コブラがサイコガンを構えた。
まだ喉の調子は万全じゃないが、目だけはいつも通りに笑っている。
「ドミンゴ伯爵の趣味も変わってねぇな。
でかい顔して、やることはコソ泥まがいだ」
その隣で、ホークが剣を抜く。
鞘から抜け出した刃が、砂まみれの光を静かに弾いた。
「レオ。右側面を頼む。俺は正面を崩す」
「オーケー。コブラは遠距離から“演出”頼む」
「任せな」
モアイ部隊の前列が砲塔を下げる。
その瞬間――ホークの姿が、ふっと掻き消えた。
次に見えたときには、すでにモアイの足元だった。
砂煙の中を駆け抜ける、その軌跡。
剣が一度、軽く振られた。
モアイの片脚が、音もなく“すっぱり”と切断された。
巨体がぐらりと傾き、そのまま横倒しになる。
電撃火花と油煙が噴き出し、中から慌てた叫び声が漏れた。
「おいおいおいおい!」
レオは思わず目を白黒させた。
「知ってたけど、目の前で見ると“斬鉄剣モード”ってレベルじゃねぇな、おい!」
ホークの剣筋は、まるで線を引くように滑らかだった。
二機目のモアイが右腕を振り下ろす前に、その肘から先がスライドして落ちる。
三機目は胸の装甲を“真一文字”に割られ、内部のコックピットをさらけ出した。
コブラのサイコガンが、そこに青い閃光を叩き込む。
指先から放たれた光線が、コックピットの奥の制御核を正確に撃ち抜いた。
モアイの目が一瞬だけ赤く点滅し――次の瞬間、完全に消灯する。
「一丁あがり」
コブラが指をぱちんと鳴らす。
「さーて、何体倒したらドミンゴのお坊ちゃんが顔真っ赤にして出てくるかな」
「カウントは後でいい。今は数を減らす!」
レオはビームライフルを構え、携行型チャージャーのトリガーを引いた。
腰に装着したチャージャーが低く唸り、
エネルギーパックからライフルへと、白い光のラインが走る。
銃身側面のインジケーターが、ゆっくりと赤く増えていく。
(あと三秒……二……)
その間にも、モアイの砲撃が飛んできた。
砕けた装甲板が炸裂し、スクラップの雨が降る。
レオは身を翻して鉄骨の影に飛び込み、
チャージ完了の瞬間、角から飛び出した。
「――はい、チャージ完了!」
至近距離。
モアイの腹部ユニットと、レオのライフルの銃口がほぼ接触する。
「悪いな。装甲の隙間、覚えちゃってるんだわ」
引き金を引く。
灼熱のビームが、装甲プレートの継ぎ目から内部に突き刺さる。
次の瞬間、モアイの胸部から爆炎が噴き出し、
巨体がのけぞるように後方へ倒れ込んだ。
チャージが切れたライフルを背負い直すと、
レオはすぐさまバハウザーM571――アーマー・マグナムを引き抜いた。
「チャージ中は――お前の出番だ、アーマーマグナム!」
別のモアイが、殴り潰そうと腕を振り下ろしてくる。
レオは足元へ滑り込み、そのわき腹に銃口を押し当てた。
二〇ミリの徹甲榴弾(APHE)。
「議論は一発で終わらせる主義でね」
引き金。
凄まじい反動とともに、モアイの側面装甲が内側から破裂する。
衝撃で機体が横転し、近くの同型機を巻き込んで倒れた。
「レオ、左!」
「分かってる!」
ホークが叫び、コブラのサイコガンが別方向で閃く。
ミスティーの電撃が時折、モアイのセンサーを焼き、狙いを狂わせていた。
一瞬、戦場の流れがこちらに傾いた――そのとき。
「くそ、こいつら手強い。潜れ! 地中から攻撃だ!」
スピーカー越しの怒声が平原に響いた。
ドミンゴ伯爵か、その直轄指揮官だろう。
次の瞬間、モアイたちの足元が、ずぶずぶと沈み始めた。
「おい、まさか――」
レオの予感は当たった。
モアイの胴体部分がぐぐっと沈み、ごつい“顔”だけが地面に残る。
その顔さえ、やがてガラクタと砂に飲み込まれた。
スクラップの平原が、不気味な静寂に包まれる。
次の瞬間――
地面のあちこちが、ぼこぼこと膨らみ始めた。
潜航モードに移行したモアイたちが、地中を掘り進んでいるのだ。
巻き上げられた砂と鉄粉が、渦を巻く。
小さな竜巻のような砂柱が、いくつも立ち上る。
「くそ、竜巻が!」
視界が奪われ、足場が不安定になる。
ホークの敏捷な動きですら、一瞬だけ鈍った。
「この状態で地中から奇襲されたら厄介だな……!」
レオは歯噛みし、周囲を見回す。
地表の微かな盛り上がりが、こちらに向かってくるラインを描いていた。
(このままじゃ、“モグラ叩き”にされる)
足元の砂が不気味に震えた。
一機がすでに、彼らの真下に迫っている。
「レオ!」
「分かってる――!」
レオは自分の靴を見下ろした。
“仕込み”のある、戦闘靴。
「任せろ! その為のサウンド・ウェーブ・ボンバーだ!」
彼は地面を強く踏みしめる。
靴のかかとから、金属の起振子がガシャリと飛び出した。
次の瞬間、それを地面に叩きつける。
ドンッッ!!
腹の底にまで響く衝撃が、大地を駆け抜けた。
スクラップと砂利が跳ね上がり、細かい鉄片が空へ舞う。
地中を掘り進んでいたモアイたちの機体に、凄まじい揺れが直撃した。
構造材がきしみ、潜航ユニットが悲鳴を上げる。
姿勢制御を失った数機が、地中でバランスを崩した。
耐えきれなくなったモアイが、一機、二機――
地面を突き破って、無様に飛び出してきた。
「今だ、ホーク!」
「了解!」
ホークが空へ跳んだ。
剣に、風が巻きつく。
彼の周囲の砂塵が巻き上がり、一本の巨大な“竜巻”が形を取る。
ホークが剣を振るうたびに、切り裂かれた空気がうねり、
飛び出してきたモアイたちをまとめて巻き込んだ。
「――っ!」
竜巻の中心で、モアイたちの機体がぶつかり合い、装甲が軋み、砲塔がもがれ飛ぶ。
風圧と砂嵐に晒されたセンサーがブラックアウトし、内部の操縦士たちの悲鳴が混じる。
「まとめて撃破する!」
ホークが竜巻の頂点から剣を突き立てた。
風が一瞬、収束する。
次の瞬間――
竜巻の内部から、モアイたちの胴体が、紙細工のようにばらばらに切り裂かれて飛び出した。
そのまま地面に激突し、黒煙を上げる。
「いいカットだ、ホーク! 絵として完璧!」
レオはサウンド・ウェーブ・ボンバーを解除しながら笑う。
残りのモアイが、地中から飛び出しそこねて地面に半身を晒していた。
その頭部に、コブラのサイコガンが静かに狙いを定める。
「じゃあ、仕上げといきますか」
青白い閃光が連続して走り、モアイの“顔”に穴が空く。
内部で火花が散り、光が消えた。
砂とスクラップの嵐が、少しずつ静まっていく。
風の音だけが残った戦場で、ホークが息を整えながら剣を払った。
「……ふう。数は多かったが、質はそこまでではなかったな」
「いやいや、地中に潜りながら竜巻サービスとか、
こっちとしてはお腹いっぱいなんだけど」
レオは肩を回しながら笑う。
「にしても――」
彼は自分の靴を見下ろし、かかとを軽く鳴らした。
「サウンド・ウェーブ・ボンバー、いい仕事したな。
“モグラ叩きの逆”って感じで」
「ま、あんたの足技にはいつも助けられてるよ」
コブラが肩を竦め、サイコガンを煙草代わりに軽く振る。
「さて。顔だけの連中は片付いたが――
問題は、その顔の持ち主だな」
遠く、スクラップ山の向こう側で、低く不気味なエンジン音が響いた。
今までのモアイとは、明らかに質の違う重い足音。
地面が、さっきの衝撃波とは別種の振動で震える。
「……お出まし、か?」
レオが呟く。
ミスティーの声が、背後の通信機から飛んできた。
『ねえレオ。すっごい“嫌な電気”が近づいてる。
ドミンゴ伯爵、本気モードっぽいよ』
「上等」
コブラが笑う。
「だったら、こっちも本気で“演出”してやろうじゃねぇか」
三人は視線を交わし、スクラップの風下へと向き直る。
惑星ダストの戦いは、まだ開幕したばかりだった。
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