紛れも無く奴に会いたくない   作:ぶーく・ぶくぶく

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 スクラップの地平線の向こうで、金属の山が「盛り上がった」。

 

 さっきまでただの瓦礫の丘だった一角が、ぐわり、と持ち上がる。

 つられて崩れ落ちるジャンクの滝の中から、それは現れた。

 

 モアイ――

 だが、さきほどの機動兵器とは比べ物にならないサイズだった。

 

 十数メートル級の機体が、廃棄戦車やコンテナを肩に乗せたまま、ゆっくりと立ち上がる。

 顔の“額”部分には、ドミンゴ伯爵の紋章をあしらった派手な金メッキ。

 胸から下は、重装甲の多脚砲台と一体化していた。

 

「うわ、なにあれ。“顔付き移動要塞”?」

 

 レオが思わず口にする。

 

「いや、あれは――」

 

 ホークが目を細める。

 

「モアイ級重機動砦《モアイ・フォートレス》、か」

 

 ドミンゴ伯爵の声が、平原に響き渡った。

 

『我が名はドミンゴ・ド・バルバロッサ!

 よくもまぁ、そこまで好き勝手に暴れてくれたな、小さな海賊ども!』

 

 モアイ・フォートレスの口元にあたるスピーカーから、

 ねっとりとした怒声と笑い声が入り混じった声が迸る。

 

『この惑星ダストは、わたしの庭だ。

 そこで、わたしの玩具を壊すとは――実に良い度胸だ』

 

「お世辞は要らないな!」

 

 コブラが叫び、サイコガンを構える。

 

「で、そのでかい顔を撃ち抜いたら、いくらの懸賞金が上乗せだ?」

 

『フフフ……せいぜい足掻いてみせろ。

 せっかくの処分予定スクラップだ。お前たちの墓ぐらいに使ってやろう』

 

 モアイ・フォートレスの両脇から、塔のような砲台がせり上がる。

 肩部ミサイルランチャーが展開し、背面からは大型ビーム砲身がゆっくりと持ち上がった。

 

 低く、嫌な振動が足元に伝わってくる。

 

「いやな“電気”だねぇ、まったく……」

 

 ミスティーの声が、通信機越しに唸る。

 

『あれ、全周シールド張ってるよ。

 普通のビームやミサイルは、表面の“膜”で弾かれる』

 

「じゃあ、どうする」

 

 ホークが問う。

 

『シールドにはリキャストがある。

 一度フルパワーで防御すると、数秒だけ“素”になる時間がある。

 そのタイミングで、中身をぶち抜くしかない』

 

「その“フルパワー”を引き出すのが、こっちの仕事ってわけか」

 

 コブラがにやりと笑った。

 

「上等だ。派手な花火は得意分野でね」

 

 モアイ・フォートレスの足元から、複数の砲撃が走った。

 スクラップの山が次々と吹き飛び、鉄屑の雨が降り注ぐ。

 

 レオたちは散開し、爆炎の合間を縫うように走る。

 

「レオ、チャージ……」

 

「分かってる!」

 

 レオはビームライフルを背中から引き抜き、チャージャーのスイッチを叩いた。

 

 腰のユニットが低く唸り、エネルギーラインが真紅に光る。

 だが、モアイ・フォートレスの装甲は、さきほどの小型機とは比べ物にならない厚さだ。

 

(真正面から撃っても、表面を焦がすのがやっとだな……)

 

 ドミンゴの砲台が、レオを捕捉する。

 警告音が短く鳴り、レオは飛び退いた。

 

 さっきまで彼がいた場所を、ビームの奔流が削り取る。

 金属と砂がガラスのように溶け、黒く光るクレーターが残った。

 

「おいおい、本気で“墓標”作る気じゃねぇか!」

 

『逃げ回るだけか? 口ほどにもない!』

 

 ドミンゴの嘲笑が降り注ぐ。

 

 その頭上――スクラップの影の一つが、ふっと動いた。

 

 ホークだった。

 

 崩れかけたコンテナタワーの頂点から、風に乗るように飛び出す。

 

「――っ!」

 

 モアイ・フォートレスの砲塔が、一斉にホークを向く。

 

 空中で、彼は剣を構えた。

 

 風が鳴る。

 だが、砲撃のほうが一瞬早い。

 

 多数のビームと実弾が、ホークに殺到した――その瞬間。

 

『はい、シールド最大展開っと』

 

 ミスティーの声と同時に。

 

 モアイ・フォートレスの周囲に、厚い光の膜が展開された。

 外からの砲撃ではなく、“内側から”過負荷状態でシールドが膨れ上がる。

 

『ドミンゴ君、あんたのシステム、ちょっとだけ拝借したよ。

 ホークを狙ったタイミングで、シールドをフルブーストにするように

 中継塔から命令流し込んどいた』

 

『なに――ッ!?』

 

 ドミンゴの怒声が割り込む。

 

『馬鹿な、システムに侵入――』

 

『あんた、自分の庭だって油断してたろ?

 この星の電気は、半分くらいあたしの“おもちゃ”なんだ』

 

 ホークは、シールドの前で身を翻した。

 攻撃はすべてシールドの内側で激突し、膨れ上がった光の膜が大きく揺れる。

 

 メインモニターが乱れ、ドミンゴの機体内部に警告が鳴り響く。

 

『シールド出力限界! オーバーロード警告!』

 

『バカな、こんな短時間で――』

 

 その瞬間、ミスティーが叫んだ。

 

『レオ! 今! 今なら外側から丸裸だよ!

 シールド、三秒だけ落ちる!』

 

「待ってました!」

 

 レオは姿勢を低くし、チャージ完了したビームライフルを構えた。

 

 狙うは――モアイ・フォートレスの“首筋”。

 

 装甲の重ね合わせと排熱スリットが集中している、わずかな“弱点”。

 

(この構造なら、あそこが動力炉へのダイレクトラインだ……!)

 

 呼吸を一度止める。

 

 世界から、音が消えたように感じる。

 

 ドミンゴの怒号も、爆炎も、全部遠くに追いやって――

 視界の中心にある“一点”だけを捉える。

 

(ここだ)

 

 引き金を引いた。

 

 チャージ完了状態から放たれたビームは、

 細く、しかし密度の高い光の槍となって空気を切り裂く。

 

 シールドが消失しているほんの刹那――

 それはモアイ・フォートレスの首筋に突き刺さった。

 

 高熱の光が、装甲の境目に沿って走る。

 金属が白く焼け、内部から赤い光が漏れた。

 

『な……ッ!?』

 

 ドミンゴの驚愕がスピーカーから漏れる。

 

 だが、まだ足りない。

 

 重機動砦は、致命傷には遠い。

 

「コブラ!」

 

「言われなくても!」

 

 丘の上から、サイコガンが狙いを定めていた。

 

 さきほどレオが焼き切ったライン――

 そこから漏れ出した電磁ノイズが、コブラのサイコガンに“道標”を示している。

 

「そこが、お前の“芯”だろ」

 

 コブラは、指先を軽く曲げた。

 

「まとめて、神経ごと焼き切ってやるよ――サイコガン!」

 

 青白い光線が、ビームが穿った傷口へと吸い込まれるように突き刺さる。

 

 内部の制御核を直撃したサイコガンのエネルギーが、

 モアイ・フォートレスの全回路を逆流する。

 

 そのとき――

 

『シールド再展開――オーバーライド!?』

 

 ミスティーの驚いた声が通信に混じる。

 

『ちょ、待って、誰!? あたしの侵入経路、逆に辿ってきてる!』

 

 モアイ・フォートレスの“額”の紋章部分が、怪しく光った。

 

 ドミンゴ伯爵の声質と違う、平板な電子声がスピーカーから漏れる。

 

『――侵入源、特定。対抗プログラムを展開。

 電気使い個体の神経パターン取得を開始』

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよそれ!」

 

 ミスティーが露骨に焦り始める。

 

『やば。あれ、ドミンゴのじゃない。外部製のAIだ。

 “神経パターン取得”って、あたしの頭の中まで覗く気――』

 

「ミスティー!」

 

 レオが叫ぶ。

 

「無理に繋ぎっぱなしにするな! 切れ!」

 

『でも、今切ったらシールドが――』

 

 その瞬間。

 

「なら――間を持たせるのは、俺の仕事だな」

 

 ホークが、地面に剣を突き立てた。

 

 風が、吠える。

 

 スクラップ帯全体の空気がうねり、

 モアイ・フォートレスの周囲に“逆風”が発生する。

 

 砲台の狙いが乱れ、シールド再展開のためのフィールド制御が微妙にずれる。

 

「今のうちだ、ミスティー!」

 

『……っ、分かった! 一回全部切る!』

 

 ミスティーの電気が、一度“すぅっ”と引いていく。

 

 同時に、モアイ・フォートレス内部のAIプログラムが、

 一瞬、ターゲットを見失った。

 

 ドミンゴ伯爵の怒声が、その隙間に割り込む。

 

『何をしているAI! シールドを――』

 

『優先順位変更。

 新たな脅威:剣士個体・サウンドウェーブ個体・サイコガン個体。

 総合危険度評価――』

 

「おいおい、“個体”呼ばわりは感じ悪いな」

 

 レオは苦笑しつつ、チャージの再起動をかける。

 

「ミスティー。一つ提案がある」

 

『今、あんたからのプロポーズ受ける気分じゃないんだけど!?』

 

「安心しろ。そういうのはもっとロマンチックな時に取っておく」

 

 レオはスクラップの地形をざっと見渡した。

 

 半ば溶けたコンテナ群、倒壊したクレーン、

 先ほど吹き飛んだモアイの残骸――

 

(使える。全部、使える)

 

「お前の電気で、スクラップ帯全体を“一瞬だけ”震わせられるか?」

 

『……は?』

 

「サウンド・ウェーブ・ボンバーの“上位互換”だ。

 俺の足だけじゃなく、この辺一帯の鉄屑を全部“跳ねさせる”」

 

 ミスティーが息を呑む音がした。

 

『……理論上は、できる。

 各スクラップに蓄積してる静電気と、ドミンゴの残ったフィールド拾って――

 一斉に放出すれば、“鉄の波”くらいは起こせる』

 

「それを、ホークの風で“形”にしてもらう。

 巨大な波、あるいは槍。

 モアイ・フォートレスの足元をすくって、姿勢を崩す」

 

 ホークが、にやりと笑った。

 

「なるほど。風で“波形”を整える、というわけか」

 

「コブラは、その瞬間にサイコガンでさっきのラインをもう一度撃ち抜く。

 俺のビームは――」

 

 レオは、モアイ・フォートレスの額を見上げた。

 

「さっきのAIのコアに、直撃させる」

 

 コブラが煙草でも咥えるような軽さで、指を鳴らした。

 

「いいね。

 じゃあ、“鉄の津波ショー”ってことで、タイトルは任せるよ、演出家」

 

『あんたらホント、戦場で遊んでる余裕あるんだね……』

 

 ミスティーは呆れたように言い――そして、笑った。

 

『でも、嫌いじゃない。

 よし、一回きりの大技だよ。あたしの電気、フルコースで行く』

 

 ドミンゴ伯爵の怒声と、AIの無機質な警告音が、

 スクラップの空に同時に響き続ける中――

 

 レオたちは、それぞれの持ち場へと散った。

 

 惑星ダストのスクラップ平原全体を巻き込んだ、

 “鉄と電気と風と光”の大合奏が始まろうとしていた。

 

 

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