紛れも無く奴に会いたくない   作:ぶーく・ぶくぶく

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 /*/ 惑星ダスト・赤錆のステーション /*/

 

 

 数時間後。

 砂嵐の止んだダストの地上では、さびついたステーションの制御棟に灯りがひとつ、またひとつと戻っていた。

 

「メイン・コンバータ、再起動良し。ゴミ軌道デブリ受け入れライン……オンライン」

 

 レオが古びたコンソールを叩きながら、淡々とチェックしていく。

 薄いホログラム表示の上を、流れ星のようなアイコンが軌道から降りてきては、処理プラントへ流れ込んでいく。

 

「ドミンゴが上から横取りしてた“ゴミ”も、これで元のコースに戻る。

 資源ごと独り占め、ってわけにはいかなくなったな」

 

「ゴミとは言うが」

 ホークが窓の外を見ながら肩をすくめる。

「スクラップもガスも、ここでは全部が宝だ。あいつは宝ごと星を縛ってたってわけか」

 

 ターミナルのスピーカーから、再起動したステーションAIの乾いた声が響いた。

 

『軌道要塞からの違法接続は消失。ゴミ受け入れシステムは、銀河パトロール規格に基づき標準運用モードに復帰しました』

 

「聞いたか?」コブラが煙草をくわえながら笑う。

「おイタしてたお貴族様の線は全部切れたってさ」

 

 レオは小さく頷くと、別のチャンネルを開いた。

 

「……銀河パトロール宛の自動通報も発信済み。

 後はあいつらがやってきて、残った海賊どもの帳簿を燃やしてくれるさ」

 

「おっつけ来るだろうな」

 ホークがあくび混じりに言う。

「この星も、やっと普通の“辺境のクズ鉄置き場”に戻るってわけだ」

 

 

/*/

 

 

 ステーション前の広場には、ささやかな人だかりができていた。

 ボロボロの防具を着たゲリラたちと、顔に砂埃をつけた子どもたち。

 その中に、ミスティーの姿もある。

 

「で!」

 ミスティーはタートル号のタラップの前で、勢いよく振り返った。

「結論! あたしも一緒に行く!」

 

「はいはい。想像通りの結論だな」

 レオが額を押さえる。

「だがな、お前、まだ十四だろ」

 

「年齢で差別するの?」

「戦力には数える。そこは否定しない」

 レオは真面目な声で続けた。

「ただし、それはそれ。勉強もやってもらうからな。

 航宙力学と基礎数学、それから銀河共通語の文法。テストもする」

 

「えー……」ミスティーの顔が一気に曇る。

「なんか急に行くのやめたくなってきたなぁ……」

 

 その時、列の後ろから杖をついた老人が前に出てきた。

 ミスティーの祖父だった。

 

「お嬢さん……じゃなかったな」

 皺だらけの手で帽子を脱ぎ、コブラたちに深々と頭を下げる。

「孫を……どうかよろしくお願いします」

 

「おじいちゃん!?」

 ミスティーが振り返って叫ぶ。

 

「この星では、もうまともな教育も受けられない」

 老人は静かに続ける。

「機械を触る腕はいい。あとは頭の中に、外の世界を入れてやってほしいんだ」

 

「ちょ、ちょっとおじいちゃん!?

 勝手に話まとめないでよ! あたし、そんな……勉強とか……」

 

「嫌か?」

 レオが少しだけ意地悪そうに笑う。

「宇宙一の電気娘《でんきむすめ》になるチャンスだぞ。

 計算もできて、本も読めて、機械もぶっ壊せる、フルセットの」

 

「……“ぶっ壊せる”は余計じゃない?」

 ミスティーは頬を膨らませたが、視線だけはちらりと空を見上げた。

 さっきまで戦場だった空。今はただ、薄く雲が流れているだけだ。

 

 祖父がそっと背中を押す。

「行っておいで。ここは、もうお前一人が背負う場所じゃない」

 

 ミスティーはしばらく黙っていたが、やがて大きく息を吸い込んだ。

 

「……分かったわよ。行く。

 その代わり、レオ!」

 

「なんだ」

 

「あたしがテストで満点取ったら、その日は宿題なし! 約束!」

 

「交渉が強気だな」

 レオは肩をすくめ、手を差し出した。

「いいだろ。満点ならな。六十九点とかでゴネるなよ?」

 

「ふふん。後悔しないでよね!」

 

 ミスティーが勢いよくその手を掴む。

 祖父は安心したように目を細めた。

 

 

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 タートル号のエンジンが唸りを上げる。

 ステーションの通信塔では、銀河パトロールとのリンクランプがひとつ、またひとつと点いていった。

 

「じゃあ、あとはお役所仕事に任せるとするか」

 コブラが操縦席に座り、軽く操縦桿を揺する。

「ドミンゴのツケは、きっちり銀河パトロールが回収してくれるさ」

 

「俺たちは、いつもの通り“一番面白い部分だけ”いただいて次の星ってわけだ」

 ホークがニヤリと笑う。

 

 ミスティーはまだタラップのそばで、名残惜しそうに地上の人々に手を振っていた。

 その背中に、レオがぽつりと言う。

 

「――ミスティー」

「なに?」

 

「船に乗ったらまず最初にやることを教えてやる」

「ブリッジの見学? エンジンルームの案内?」

「教科書選びだ。厚いやつをな」

 

「やっぱ行くのやめようかなぁぁぁ!!」

 

 悲鳴混じりの叫び声と共に、タートル号はゆっくりと浮かび上がる。

 窓の外で、小さくなっていくステーションと人々。

 やがてそれらは、赤茶けた砂の大地と一緒にひとつの点に溶けていった。

 

 だが、その上空にはもう、海賊ギルドの旗も、ドミンゴ伯爵の影もない。

 

 あるのは、銀河標準規格で再起動した、ただの“辺境ステーション”と。

 そこからいつか宇宙へ飛び出すかもしれない子どもたちの、ささやかな未来だけだった。

 

 

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