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俺は、レオ・ゴルドン……に転生した者だ。
この世界はSF――いや、SFを超えた異星文明の世界だ。ライオンの頭を持つ異星人が街を歩き、女性は肌を露わにしたハイレグやボディスーツがデフォルト。全員、セクシーでダイナマイトなスタイルだ。思わず目を奪われるが、俺はそんな世界での騒ぎには関わりたくなかった。特に、あの主人公コブラにはもう関わりたくないと思っていた。
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「私の名はエリザベス・タッカー。探検家レオ・ゴルドン。貴方の力を借りたいの」
そう名乗った美女の左目をじっと見る。すると瞳孔の奥に、デイジーの姿が映っていた。俺が気づかないうちに、どうやらこの女の亜空間牢に捕まっていたらしい。
「探検家のヘンリー・タッカーと言えば、探検家たちの憧れだ。その奥さんが、俺に助けを求めるのか……」
この女を殺せばデイジーは解放される。だが、ここでぶっ殺すわけにもいかない。沈黙を保つ俺を、エリザベスは否定と受け取ったのか、次の手に出た。
「ふふふ、私の左目を見て。眼の中をよーく見なさい」
左目の中から、デイジーの声が直接耳に響く。
『レオ!助けて!私をここから出してー!』
……やれやれ、あれほど知らない人についていくなと忠告していたのに、こうなるとはな。
「私の左目は亜空間の牢になっているの。私以外、誰も彼女を解放できない。貴方の大事な人を死ぬまでここに閉じ込めておいても平気なの?」
肩を竦め、降参の意を込めて手を挙げる。コブラの代わりに、俺がこの女と一緒に動くのか……。
「貴方には、私と一緒にナスカ星まで行ってもらうわ」
その声に、宇宙を跨ぐ冒険の匂いと、異星文明の陰謀の匂いが混ざる。俺の心は覚悟と不安で揺れたが、逃げる選択肢はもうない。
――レオ・ゴルドン、再び冒険の渦に巻き込まれる瞬間だった。
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ナスカ星までは、エリザベスの自家用宇宙車で向かった。
クラシックカー風の宇宙船は、流線型の赤いボディにクローム装飾、革張りのシートと、まるで未来に持ち込まれた美術品のようだった。エリザベスのセンスの良さが、船の細部からも伝わってくる。
車内には俺とエリザベスのほかに、三人の男が同乗していた。
「目」「耳」「鼻」――その名の通り、視覚、聴覚、嗅覚に異能を持つ者たちだ。三人の存在だけで、宇宙の闇に潜む危険はほぼ察知できるという。
俺はふと尋ねた。
「あんたら、兄弟姉妹はいるか?」
「いる。俺たちは皆、家族だ」
「そうか……なら、身内に海賊ギルドの仕事を持ちかけられたら絶対に受けるな。特にクリスタル・ボーイの案件はだ」
三人の表情が一瞬硬くなる。警戒と理解の色が混じった視線。
「奴は、雇った者を使い捨てるだけじゃなく、報酬を払う前に殺す最低野郎だ。覚えておけ」
俺の声は冷静だが、内心では思う――まあ、このエリザベスも同じくらい危険なんだがな。
目の前で笑みを浮かべる彼女は、無邪気な冒険心と危険への好奇心で輝いている。だが、胸の奥には冷徹さも潜んでいる。俺は、その計算高さを知りすぎている。今、俺が隣にいるのは、デイジーを救うための最善策だからだ。
「目」――視覚異能者は、宇宙船の外の星々まで目に焼き付け、異常な光の変化や遠方の敵を瞬時に察知する。
「耳」――聴覚異能者は、微かなエンジン音の変化や宇宙空間の振動を聞き分け、敵の接近を事前に知らせる。
「鼻」――嗅覚異能者は、空気の微粒子や化学物質の変化から敵の存在や罠の位置を嗅ぎ分けることができる。
三人の能力が揃うことで、普通なら一瞬で襲われる危険も、この船内では完全に制御されている。しかし、それでも油断はできない。俺が知る限り、この世界で“安全”など存在しないのだから。
宇宙の黒に染まる窓の外を眺めながら、俺は小さく息をつく。
――ナスカ星への航海は、ただの冒険じゃ済まない。
――そして、俺はこの三人の異能者と、計算高い美女と共に、その危険な旅に巻き込まれている。
内心、俺は呟いた。
「まあ……面白くなりそうだな」
だがその声に、デイジーの存在が静かに重くのしかかる。俺にとって、これ以上ない理由で――逃げられない戦いなのだ。