紛れも無く奴に会いたくない   作:ぶーく・ぶくぶく

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/*/ 神殿内部 包囲 /*/

 

 

 澄んだ結晶音が、広間の空気を切った。

 

 クリスタルボーイは、祭壇の上で指先を揃え、淡々と告げる。

 

「歓迎しよう。――お前たちの到着は、想定内だ」

 

 声は丁寧だ。

 だが、その丁寧さは“配慮”じゃない。

 無菌室の説明みたいに、冷酷に整っている。

 

「コブラ。ミスティー。ホーク。

 ここで終わりにするぞ。抵抗は自由だが――時間の浪費は好まない」

 

 その瞬間だった。

 

 床、壁、柱――黒結晶の継ぎ目が、微かに“開いた”。

 

 まるで棺が割れるみたいに、結晶の中から人影が押し出される。

 重装歩兵。ギルド親衛隊員。

 

 無機質な黒い装甲。

 息も足音もなく、囲むだけの動きで円を作る。

 

「……出てきた」

 

 ホークが低く吐く。

 

 ミスティーは背中の荷物――レオに半ば無理やり背負わされた超電導バッテリーの固定具を、ぎゅっと握った。

 

「ほんっと、重いのよこれ……!」

 

 愚痴の次に、目の光が変わる。

 

「でも――使えって言ったの、あんたでしょ。レオ」

 

 バッテリーの警告ランプが、青く点滅した。

 

 ミスティーが掌を開く。

 

 次の瞬間、空気が裂ける音がした。

 

 バチィィ――!!

 

 白青い稲妻が円を描き、親衛隊の装甲を舐めた。

 熱ではない。電荷だ。関節、センサー、内部回路を一気に焼く。

 

 黒い装甲の列が、同時に硬直する。

 神殿の空気に、オゾンの匂いが広がった。

 

「……動けないでしょ!」

 

 ミスティーが一歩踏み込み、もう一度、放つ。

 

 バチバチバチッ!!

 

 結晶の床に電光が走り、親衛隊員の足元から火花が吹き上がる。

 装甲の表面に霜のような白い焼け跡が浮かび、無機質な兵が、音もなく崩れた。

 

「よし」

 

 ホークが踏み込む。

 

 剣が抜かれる音は小さい。

 だが――その後の“切れる音”は、広間に硬く響いた。

 

 スッ。

 

 スッ、スッ。

 

 ホークの刃は、動けない親衛隊を“処理”するみたいに正確に断っていく。

 血はほとんど出ない。結晶化した装甲と内部が、砕けるように崩れるだけだ。

 

 コブラはその間、サイコガンを祭壇へ向けたまま、視線だけを動かした。

 

「……クリスタルボーイ。お前、部下を捨てるのが早いな」

 

「合理的だ」

 

 クリスタルボーイは、淡々と答える。

 

「彼らは時間稼ぎ。お前たちの手札を測る道具にすぎない」

 

 言い切った瞬間――床の結晶が、別の震え方をした。

 

 重いエンジン音。

 

 轟音ではなく、“硬い”音だ。

 結晶が共鳴して、空間の奥から増幅されてくる。

 

「……バイク?」

 

 ミスティーが顔を上げる。

 

 次の瞬間、広間の脇の回廊から、戦闘バイクが突っ込んできた。

 

 機体名――トマホーク。

 

 車体は鋭い楔の形で、前部に衝角のような装甲のモノバイク。

 火炎林でも神殿でも速度を落とさない、侵攻用の暴力。

 

「コブラァ!!」

 

 ホークが叫ぶ。

 

 コブラは反射で跳んだ。

 だが、トマホークの突進は“跳ぶ”のを読んでいる。

 

 軌道が、少しだけズレた。

 

 肩から――ドン、と衝撃。

 

「ぐっ……!」

 

 コブラの身体が宙で回り、結晶床に叩きつけられた。

 サイコガンが一瞬、照準を外す。

 

 トマホークは減速しない。

 追撃のために、車体を振り向ける。

 

「コブラ!!」

 

 ミスティーが電撃を放とうとした――その瞬間。

 

 神殿の壁際。

 

 “石”が、鳴った。

 

 いや、石じゃない。

 結晶と同化した封印の塊が、内側から拳で叩かれたように割れた。

 

 ゴキリ、と嫌な音。

 割れ目から、眩しい銀色が覗く。

 

「――ここは……神殿?」

 

 低い、だが凛とした女の声。

 

 石の檻を破って飛び出したのは、アーマロイド・レディだった。

 

 装甲は古いが、ただ古いんじゃない。

 戦うための形が、最初から完成している。

 肩、胸、腰――関節ごとにライブメタルが、彼女の動きに合わせて“目覚め”ていく。

 

 彼女は、状況を一瞬で理解した。

 

 突進するトマホーク。

 床に転がるコブラ。

 祭壇の上のクリスタルボーイ。

 

 そして――自分が何者として呼び出されたか。

 

「……遅れたみたいね」

 

 アーマロイド・レディが、地を蹴った。

 

 重い装甲が、軽い。

 跳躍が、速い。

 

 トマホークの衝角へ、真正面から拳を叩き込む。

 

 ドガンッ!!

 

 金属が潰れる音が、神殿に響いた。

 トマホークの前部装甲がへこみ、車体が横へ吹き飛ぶ。

 

 バイクは結晶柱に激突し、柱ごと砕け散った。

 破片が雨のように降る。

 

「……君にしちゃ出方が派手だな」

 

 コブラが、息を吐きながら立ち上がる。

 

 アーマロイド・レディはコブラを見ない。

 視線は、祭壇の上だけを刺していた。

 

「――クリスタルボーイね」

 

 クリスタルボーイは、その光景を見ても表情を変えない。

 ただ、丁寧に結論を口にする。

 

「なるほど。封印を破ったか」

 

 冷えた声。

 

「――六人の勇士、揃ったか」

 

 

/*/ 神殿外周 砲撃 /*/

 

 

 その台詞と、ほぼ同時だった。

 

 神殿の外から、“異質な光”が突き刺さった。

 

 荷電粒子砲。

 

 ロシナンテの主砲。

 改造で積んだ、貫通と破壊だけに特化した一撃。

 

『……撃て!!』

 

 レオの声が、外の爆音越しに響く。

 

 白い閃光が神殿内部を裂き、祭壇の上――クリスタルボーイを直撃した。

 

 爆発が、広間の空気を押し潰す。

 結晶の床が波打ち、柱の表面が粉を吹く。

 

 だが。

 

 煙が薄れたとき、そこに立っていた影は――崩れていなかった。

 

 クリスタルボーイは、無傷だった。

 

 埃すら落ちていない。

 ただ、彼の背後に“暗い揺らぎ”が、ゆっくりと消えていく。

 

 光を喰ったみたいな闇。

 

 暗黒神(アーリマン)の力。

 

「……興味深い」

 

 クリスタルボーイが、整った声で言う。

 

「お前たちの総力は確かに脅威だ。だが――この場で俺を倒すには、まだ足りない」

 

 ミスティーが歯を食いしばる。

 

「今の直撃で……無傷!?」

 

 ホークが低く吐く。

 

「……厄介だな」

 

 コブラは笑った。

 悔しさの笑みじゃない。闘志の笑みだ。

 

「いいね。ようやく“本物”って感じがしてきた」

 

 アーマロイド・レディは拳を握り、前へ出る。

 

「逃げるつもり?」

 

「逃げるのではない」

 

 クリスタルボーイが、丁寧に訂正する。

 

「この場は引く。――勝つために、な」

 

 彼が指を鳴らす。

 

 チィン。

 

 その音に応えるように、神殿の黒結晶が“生き物”みたいに盛り上がった。

 

 結晶が伸び、組み上がり、骨格を作る。

 装甲が貼られ、艦橋が形成され、砲塔が生える。

 

 親衛隊の重戦艦(バトルシップ)ブラックシープ。

 

 黒い艦体が、神殿そのものから再生されていく。

 まるで神殿が“脱皮”して、戦艦になるみたいに。

 

「なっ……!」

 

 ミスティーが叫ぶ。

 

 外周からも、レオの声が飛ぶ。

 

『中の連中!! 神殿が――崩壊する! 出ろ!!』

 

 ブラックシープの艦体が持ち上がると同時に、神殿の天井が割れた。

 柱が折れ、床が沈み、結晶の壁が崩落する。

 

 逃げ道が、崩れていく。

 

「チッ、派手に壊す気かよ!」

 

 コブラが叫び、サイコガンを撃つ。

 だがライブクスタルは、弾道を歪め、まともに通らない。

 

 アーマロイド・レディが即座に動いた。

 

「こっち!」

 

 彼女が結晶柱を拳で砕き、通路を作る。

 ホークがミスティーの腕を引き、ミスティーはバッテリーを背負ったまま走る。

 

 コブラが最後尾で、振り返る。

 

 祭壇の上。

 クリスタルボーイは、崩れる神殿の中でさえ姿勢を崩さず、淡々と告げた。

 

「次は――お前たちの“守るもの”を割ろう」

 

 そして、ブラックシープが完全に艦体を成す。

 

 推進器が点火し、結晶の破片を噴き上げながら、神殿を破壊しつつ“外へ”抜けていく。

 

 崩落。

 

 轟音。

 

 火炎林の赤が、割れた天井から覗いた。

 

 外へ飛び出した四人の背後で、神殿が崩れ落ちる。

 だが敵は倒れていない。

 

 クリスタルボーイは引いた。

 重戦艦(バトルシップ)ブラックシープを再生し、火炎林の空へ逃げた。

 

 そして――六人の勇士は、揃った。

 

 次の戦いは、もう“逃がさない”ための戦いになる。

 

 






Every day is Wednesday 終了!

見ろよ。ヒューッ!
ぶーく・ぶくぶくの奴、空気の抜けた風船みてぇだぜ!
ぺしゃんこの上にカラカラに干からびてやがる。
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