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俺たちは一列になり、匍匐前進で爆弾キノコの地雷原を進んでいた。
俺はナイフで草を少しずつ掻き分け、安全なルートを探す。
後ろの三人は息を殺し、ただ俺の背中を追っていた。
「……俺が先頭かよ」
ぼやきながら俺はナイフを握り直す。
「やれやれ、命懸けの開拓作業だぜ」
汗と緊張で体がびしょびしょになりながら、匍匐前進を続けることどれくらいだっただろう。
ようやくキノコの群生を抜け出したとき、目の前に現れたのは――茨の森だった。
無数のトゲを持つツタが絡み合い、壁のように道を塞いでいる。
視線を落とすと、地面を這う巨大な芋虫がうごめいていた。
「……行き止まりか」
俺は立ち止まり、慎重に観察する。
「なんだよ……虫一匹にビビって止まったのか?」
目が呆れた声で言う。
「いや、そうじゃねえ」
俺は低く答え、近づく芋虫を睨みつける。
「ありゃ芋虫じゃない。茨に擬態した肉食虫だ。触ったら丸ごと飲まれるぞ」
バックパックからデイジー製の爆弾を取り出す。
「ちょっと待ってろ」
俺は慎重に、茨の森に向かって次々と投げ込む。
ドゴォン! ドゴォォン!
連鎖する爆発に森が揺れ、擬態した巨大な虫どもが悲鳴を上げながら爆ぜ飛ぶ。
煙と土の匂いが鼻をつく。
「ぐわっ、目がいてぇ!」「耳が!」
目と耳が叫ぶ。どうやら爆風で土煙が目に入ったらしい。耳は耳を押さえた。
デイジーの爆弾は市販品より強力だ。
「ああ、すまんすまん」
俺は軽く手を挙げて謝る。
「すまんじゃねぇ! 俺たちごと吹き飛ばす気かよ!」
鼻が怒鳴りつつも、額の汗を拭っている。
死骸と煙の向こうに、ようやく道らしき隙間が見えた。
――だが、胸の奥では分かっていた。
――この先に待つものは、さらに危険だと。
俺はナイフを握り直し、背後の三人に目配せする。
「行くぞ。気を抜くな」
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トゲだらけの壁を爆破して中に踏み込むと、そこに広がっていたのは――異様な光景だった。
闇の中、点々と人面を持つ若木のマンドラドが生えている。
どれも目を閉じ、眠るようにざわざわと揺れている。気味が悪い。
そして中央――。
太い根が絡まり合い、巨大な球体を抱えている。
表面には不規則なぶつぶつがびっしりと並び、今にも脈動しているかのようだった。
「……あれが、マンドラドの種子か」
思わず息を呑む。
その瞬間、背中に鋭い痛みが走った。
「ぐっ……!? な、何をする!?」
振り返ると――ナイフを突き立てていたのは耳だった。
「耳!? やめろ!」
「へへ……悪いな、レオ」
耳の顔は欲に歪んでいた。
「こんなお宝を目の前にして、手間賃だけで済ます馬鹿がどこにいる? こいつは全部……俺たちのもんだ!」
「耳、お前正気か!?」
目と鼻が同時に叫ぶ。
だが耳は笑みを浮かべ、種子に手を伸ばす。
「誰にも渡しゃしねぇ……俺が一番に――!」
その瞬間、ボンッ!
種子の表面が弾け飛び、無数の繊維質の破片が耳の胸に突き刺さった。
「ぎゃああああああッ!!!」
耳は絶叫し、床に崩れ落ちる。
だが、苦しむ間もなくその胸部が異様に膨れ上がり、内部から何かが成長し始めた。
ぶくぶくと音を立て、皮膚が裂ける。
そこから伸び出したのは――マンドラドの若木だ。
つぼみがぐんぐん開き、やがて「顔」が露わになる。
「……耳の顔だ」
鼻が青ざめた声を漏らす。
「こいつ……人間に寄生して花を咲かせるのか」
目も顔色を失っている。
俺は冷たく吐き捨てた。
「だから言ったんだ。欲に呑まれるなってな」
マンドラドの人面花が、耳と同じ口で笑い声をあげた。
その響きが、洞窟全体に不気味にこだまする。
――この瞬間、俺たちは理解した。
マンドラドは、人の欲を利用して繁殖する植物なんだ――。
背筋に氷のような寒気が走る。