7月下旬、個性把握テストから始まり、雄英襲撃事件に体育祭、職場体験や期末試験などあまりに濃密だった前期は、最後に色々あったものの無事に終了した。
そして夏休みに入った俺様たちは今……
雲の上にいた。
「ん」
(楽しみだね)
「そうだな」
俺様たちは今、母方の祖父が所有するプライベートジェットで『I・アイランド』に向かっていた。
『I・アイランド』は世界中のヒーロー関連企業が出資し、【個性】の研究やヒーローアイテムの開発などを行うために造られた人工都市だ。
「んん」
(それにしても大きいね)
「一万人以上の科学者が暮らしているらしいからな」
俺様はプライベートジェットの窓から見える『I・アイランド』を、眺めて目をキラキラさせている唯を、微笑ましく思い質問に答える。
「……心操も来ればよかったんだかな」
「んん?」
(ヒーロー科編入に向けて、相澤先生直々に特訓を見てもらってるんだよね?)
「あぁ、心操からそう聞いてる。……近いうちに彼奴とともに授業を受ける日が来るのだろうな」
「ん!」
(楽しみだね!)
『当機はまもなくI・アイランドへの着陸態勢に入ります』
唯と会話を楽しんでいると、機内アナウンスが流れる。
「先にコスチュームに着替えてきたらどうだ」
「ん」
(わかった)
雄英から許可を得て戦闘服を持ってきた俺様たちは、順番に着替えることにする。
唯がケースを持って更衣室に入ったのを見送ると、窓の景色を眺めながら、なぜ俺様たちが『I・アイランド』行くことになったのか思い返す。
「火鳥……唯ちゃんと最近どうなんだ?」
両親が俺様たちが暮らしている静岡の家に来た日、母さんと唯が席を外したタイミングで、親父がニヤニヤしながら俺様に聞いてきた。
「いきなりなんだ、気色悪くて拳が出そうになったぞ」
「やめて!?火鳥の力で殴られたらお父さん死んじゃうよ!?」
「はぁ……それでいきなりこんな話題を出したのには理由があるのだろう?」
親父のハイテンションに溜息をつき、話を聞かないとこの寸劇がまだ続くのだろうと思い俺様は話の続きを促す。
そんな俺様の言葉を待ってましたと言わんばかりに、親父は懐から封筒を取り出した。
「火鳥『I・アイランド』って知ってるか?」
「世界中から優秀な科学者を集めて【個性】に関する研究をしてる移動学術都市だろ」
「正解!ちゃんと勉強してるようで安心だよ」
「世辞はいいから本題に入れ、母さんたちが戻ってくるぞ」
「おっとわりぃわりぃ……話を戻すがその『I・アイランド』に俺の会社も出資してるんだよ」
親父は頭をかきながら舌を出して笑うと話を戻すのだが、衝撃映像を見せられた俺様は一瞬フリーズする。
40代の実の父親がテヘペロをする光景など何処に需要があるのだろうか……いや思ったより
「それでその話が唯との進展にどう繋がる」
「今度、その『I・アイランド』で個性技術博覧会『I・エキスポ』が開催されるんだ。そこでこれだ」
親父は先程の封筒の中身を俺様に見せる。
中にはチケットが2枚封入されていた。
「このチケットはその『I・エキスポ』への招待状だ。それもプレオープンのな」
「あぁ、この前雄英に俺様宛の招待状が届いていたな」
「既に持ってるんかい!?」
親父は椅子から転げ落ちる。
「今、すごい音したけど大丈夫?」
「大丈夫!ちょっと虫に驚いただけさ!」
廊下から母さんの声が聞こえると親父はすぐさま立ち上がり無事だと言うと、俺様に封筒を渡してくる。
「まぁ……このチケットもやるよ。唯ちゃん以外にも連れていきたい子がいれば誘うといい」
「その言い方だと俺様が女たらしに聞こえるが?」
「実際そうだろう、小中と何回告白されたんだよ」
「別に何もしてないんだがな」
「ほらそういうこと言う奴に限って女沼らせるんだよ。俺の同級生にもいたよ、結局修羅場になって刺されてたけど」
「……無事なのか?」
「嫁さんと仲良くしてるってさ」
「ん」
(おまたせ)
「似合っているな」
『I・アイランド』に行くことになった経緯を思い出していたら、唯がコスチュームに着替え終わったようだ。
今日、初めて唯のコスチュームを見たが特徴的な色合いだがとても似合っていた。
「ん」
(ありがと)
「では俺様も着替えてくる」
「ん」
(わかった)
俺様もコスチュームに着替えるため更衣室に向かう。
「それにしても彼奴らはちゃんと来れるのだろうか」
コスチュームに着替えている最中に親父から貰った招待状を渡した二人について考える。
俺様と唯は、体育祭優者とその付き添いとして『I・エキスポ』に参加するが、残った親父から貰った招待状を誰に渡すか悩んでいた。
最初は心操に渡そうとしていたが、夏休み中は相澤に特訓を見てもらうようで断られてしまった。
クラスメイトにしようと考えたが、確実に戦争が起きる予感がして話題にすら出していなかったが、1人だけ適任がいた事を思い出し、其奴と近くにいたもう一人にチケットを押し付けたのだ。
「まぁ彼奴がいるから嫌でも連れてこられるだろうな」
チケットを渡された当人は案の定キレていたが、もう一人が宥めて絶対に行くと言っていたので大丈夫だと判断する。
俺様はコスチュームに着替え、座席に戻ると唯と談笑しながら、着陸を待つのだった。