テロリストによる『I・アイランド』襲撃事件から一夜明けた。
俺様たちの活躍は、『I・アイランド』の責任者がヒーローの卵たちの将来に配慮して公表しないことになった。
人に知られることはないが、事件解決の功労者となった俺様たちはというと、オールマイトの計らいでBBQをしていた。
昨夜の事件での戦いの疲れを労うため、そして『I・エキスポ』が延期になった代わりに島に来ているA組全員に、オールマイトがご馳走してくれることになった。
俺様もオールマイトが用意した肉を食べているのだが……
「はい、あ〜ん」
「……唯」
「あ〜ん」
「一人で食べれるから大丈夫だ」
「あ〜ん」
「……はい」
どういうわけか、昨夜の戦闘で無茶したことが唯にバレてしまい。皆の見ているなかで肉を食べさせてもらっていた。
「鳳ィ!!」
「峰田落ち着け!肉食お!肉!」
「上鳴離せェ……オイラあいつだけは殺さないといけないんだ!」
「返り討ちに会うだけだっての!」
峰田は俺様に殺意を向け、血涙を流しながらこちらに近づくが、上鳴や瀬呂に止められている。
「まぁ!」
「アツアツやね」
「こーいうの待ってた!」
「……大胆すぎん?」
からかうようにニマニマと笑う男子(峰田以外)とは違い、女子は顔を赤くさせたり、手で顔を覆って指の隙間から見ていたり、なるべくこちらを向かないようにしながらチラ見したりと様々だ。
どうせなら芦戸みたいに堂々として欲しいものだ。
「……唯少し席を外す」
「ん」
(ちゃんと戻ってきてね)
「子供じゃないんだ、言われずとも戻ってくる」
唯に一言声をかけ、俺様は席を外しテラスから少し離れた公園に行く。
そこには緑谷がおり、俺様と同じタイミングでテラスを離れたオールマイトも公園にいた。
緑谷とオールマイトは話し込んでいて、俺様がここにいることに気づいていない。
「……密談中失礼する」
「鳳くん!?」
「鳳少年!?」
後ろから近づいた俺様に気づかなかった二人が声を揃えて驚く。
前々から思っているが、よく今まで秘密がバレなかったなと呆れながら俺様は口を開く。
「……あの二人について自分のせいだと思っているのか?」
「……うん。僕がもっと後継者としてしっかりしていれば……こんなことにはならなかったんじゃないかって」
「……」
「鳳くん?」
「……」
「鳳少年?」
「……正直な話、お前が責任を感じる必要はない」
緑谷の吐露した想いを聞いた俺様は言葉を選びながら、二人に向けて話し始める。
「第一にオールマイトが【ワン・フォー・オール】について話していたらなにか変わったかもしれん」
「緑谷がオールマイトと出会う前からしっかりと鍛え、100%を扱える体を用意していたら変わったかもしれん」
「だがそれらは全てタラレバの話だ。そんなことを考えている暇があるのなら、より高みに至れるよう強くなるために己を鍛えろ」
俺様は二人の顔から視線を外すと、後ろに広がる『I・アイランド』の景色を眺める。
「……そうだ。デヴィット博士だが……特別に恩赦を貰えるそうだ」
「それは本当かい!?」
「でもどうして」
しんみりとした空気を変えるため、俺様は事件の首謀者だったデヴィット・シールド博士の今後について話し始める。
あくまで関係者から聞いた話だという体で会話を続ける。
「これまでの功績から特別にだと……本人はあまり納得していないらしいがな」
俺様はそう言うと、公園を離れる。二人はさっきの話で気分が少し晴れたのか喜びを分かち合っている。
その姿を横目に俺様はある人物に連絡を入れる。
「……俺様だ……今回は助かった」
『なーに気にすることはない!他ならぬお前さんの頼みだからな!久々に張り切ったわい!』
スマホから聞こえてくる豪快な声に、顔を顰めつつ今回の件……デヴィット・シールドの恩赦を取り付けてくれた人物に礼を言う。
「今後だが、親父の会社にコンデニウムが贈られてくるだろう、それを扱う
『全く……友人が今のお前さんをみたら幻滅するんじゃないか?王様になるんだろう?』
「王とは時に非情なものだ。俺様が更なる高みへ至るために必要なんだ……ラインギリギリまでならなんだってするさ」
『あとで唯ちゃんに怒られても知らんからのう……それじゃワシはまだまだやる事があるからのう……もう切るぞ』
「あぁ……忙しいのにすまない……爺さん」
通話を終えると、俺様は昨夜のことを思い出す。
大男を倒した後、気を失った俺様だったが意外と早く復活した。
目が覚めると状況を確認するために、“王の瞳”を発動する。
「あれは……」
タワーの屋上でオールマイトが敵と戦っていた。
敵は個性因子が以上に活性化しており、時間制限もあってオールマイトが苦戦を強いられていた。
「……なるほどな」
更には敵の【個性】で操られた金属の山の中にデヴィット博士が囚われており、人質になっていた。
“火鳥・射紅流”
俺様は痛む体に鞭を打ち、タワーの頂上まで上昇し、敵に気づかれない距離から一気に突撃する。
敵の体を守る鉄クズを押しのけて、人質を解放し、二人の最後の技に繋げた。
緑谷とオールマイト、飯田たちが束になり戦っている光景を眺めながめていると、となりに座る博士が懺悔を始める。
オールマイトの【個性】が衰えている現状に焦り、自身の発明品を使って貰うために、敵のフリをしてくれる人物を募集していたらしい。
敵を撃破したことを確認すると、俺様はデヴィット博士の怪我を治し、ある取引を持ちかける。
「……このままいけば博士は犯人教唆で捕まるだろうな。……これまでの功績を加味しても無罪にはならんな」
「わかっている。覚悟は出来ている」
「博士はな……だがメリッサはどうだ?」
「なに?」
「素晴らしい父親に憧れ自分も同じ道へ実に良い美談じゃないか。しかし……博士が犯罪を犯したことで美談はバッシングに変わるだろうな。……将来有望なメリッサが犯罪者の娘だなんて可哀想だとは思わんか」
「なにが言いたい」
「こちらの条件を呑んでくれるのなら、俺様は博士を無実にしよう」
俺様の言葉に目を丸くして驚く博士。
そんなことは不可能だと博士は言うが俺様はまっすぐ目を見て口を開く。
「不可能?……俺様はできることしか口にしないんだ」
俺様の本気が伝わったのか最終的に博士は条件を呑んだのだった。
「……希少なコンデニウムをこちらに融通すること、コンデニウムの扱いに長けた者を鳳インダストリアルに派遣すること……我ながらとてつもない我儘を言ったな」
テラスに戻る道中で昨夜のことを思い出した俺様は、博士相手に結構ふっかけたと自嘲気味に笑う。
俺様がより高みに至るために利用できるものはなんでも利用する。
いつか地獄に落ちるだろうが、その日が来たとしても、俺様は王としての在り方を曲げるつもりはない。
「ん」
(遅いよ)
「唯か」
「んん」
(早くしないとお肉全部取られちゃうよ)
「あぁわかっている」
俺様の帰りが遅かったらしく唯が近くまで迎えに来ていた。
唯は俺様の顔をじっと見たあと、首を傾げながら口を開く。
「ん?」
(何かあったの?)
「なにもないさ」
「……ん」
(……そういうことにしとく)
唯はそれ以上なにも聞かず、二人でテラスまで歩いていく。
俺様たちの、ひと夏の冒険はのこうして幕を閉じたのだった。