前期が終了し夏休みに入って一週間。
あまりにも濃すぎる一週間はあっという間に過ぎ去り、暦は八月に変わった。
今日から林間合宿が始まる。
「え?A組赤点ギリギリがいたんだ?えぇ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なはずなのに!?」
「あれれ~!?」
合宿先に向かうバスのまえに集合していると、隣に並ぶの物間が、水を得た魚のように俺様たちを煽り始める。
「喧しいぞ物間。B組唯一の赤点らしいが……随分余裕があるな」
「なんで知ってるのかなぁ!?」
「俺様の幼なじみが誰か知ってるだろ」
「ん」
(いぇい)
「小大!?君はどっちの味方なんだい!?」
あまりにもしつこかったので、物間が赤点であることを晒し黙らせた。
物間はクラスメイトからの暴露で逆に煩くなったので、あまり意味はなかった。
なお物間に名を呼ばれた唯は、いつもと変わらない表情のままピースをしていた。
「物間がごめんな」
結局、拳藤が物間に手刀を喰らわせ意識を刈り取りバスに乗せた。
「物間怖」
「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まぁよろしくねA組!」
「ん」
(改めてよろしく)
物間以外のB組はそこまで、俺様たちA組を敵視していないようで、気軽に挨拶をしてくれた。
それは男子の方も同じようで合宿を共に頑張ろうと声をかけてくる。
ひとつ問題があるとすれば……
「よりどりみどりかよ……!!」
「お前ダメだぞそろそろ」
「お前たち、もし峰田になにかされたら俺様を呼べ。すぐに対処してやる」
「OK頼りにしてるね」
初対面のB組にいつもの調子でアクセル全開な峰田を切島が苦言を呈する。
その横で俺様が峰田になにかされた場合すぐに呼んでくれと声をかける。
「ん」
(ふーん)
B組女子の取蔭切奈と峰田について話ていると、後ろから冷たい視線を感じる。
振り返ると唯が普段より目を細めて俺様を見ていた。
「いや違うんだ」
「ん」
(火鳥ってギャルがいいんだ)
「違うぞ、どちらかといえば清楚な方が」
「ん」
(今度、髪染めようかな)
「それだけは待ってくれ!」
唯が自分の髪を撫でながら染めようかなと呟くと、俺様は叫んでいた。
おしゃれは本人の自由だ、俺様もよほどのことがない限り、唯がどんな服を着ようが褒めはするが否定はしなかった。
だが髪だけは待って欲しい。唯の綺麗な黒髪がブリーチで傷むのはどうにも見過ごせない。
唯の黒髪が好きな俺様にとってもそれだけは何としてでも止めなければならない。
「ん……んん」
(声デカ……冗談だからそんなに必死にならなくても)
「言っていいことと悪いことがあるぞ」
「ん」
(そんなに)
「……兎に角だ。俺様はそういう意味で取蔭と話したわけじゃない」
「ん」
(知ってるよ)
「じゃあなんで」
「ん」
(ちょっとからかってみただけ)
「んん」
(それにしても、火鳥って私のことを大事に思ってくれてるんだね)
「当たり前だろう……大切な幼なじみだからな」
「……火鳥」
「……唯」
「……」
「……」
「……ひょっとして今、私ダシにされた?」
一連の流れを隣で見ていた取蔭が、俺様たちの世界に割り込み現実に引き戻す。
「そこのリア充さっさとバスに乗れやァ!!」
集合場所に峰田の絶叫が響いた。
「バスは一時間後に一回止まる。その後はしばらく……」
「音楽流そうぜ!夏っぽいの!チ〇ーブだ!チ〇ーブ!」
「バッカ夏といやキャ〇ルの夏の終わりだぜ!」
「終わるのかよ」
「おかしちょうだい」
「席は立つべからず!べからずなんだ皆!!」
「しりとりしようよ!しりとりのり……竜宮城!」
「ウン十万円!」
「おかしちょうだいよ」
相澤がこの後の予定を話すが、皆はテンションが上がり全く聞いていなかった。
バス内は混沌を極めていた。
「騒がしいな」
「……まぁいいさ。わいわいできるのも今のうちだからな」
「……そうか」
人数の関係で、俺様は相澤の隣に座っている。どうせならAB混合で唯と座りたかったが、こういう学校行事での移動は基本的にクラスごとに別れているので仕方ないとわりきる。俺様は先程の相澤との会話の意味を考えながら、時間を潰すことにした。
「……眠る速度もプロ級か」
バス内がこれほど騒がしいというのに、ほんの少し目を離した間に相澤は、目を閉じ意識を手放していた。
本で読んだが5分以内の寝落ちは体が限界に近づいているサインと書かれていたが、相澤はちゃんと体を労わっているのか少し心配になった。
一時間後
相澤に促されるように俺様たちはバスを降りる。
皆はパーキングかと思っていたようだが、そのようなものはなく、山々が一望できる絶景スポットのようだった。
「……つーかここパーキングじゃなくね?」
「ねぇアレ?B組は?」
「ト、トイレ……」
約一名を除いて、皆も何かがおかしいことに気づき始めたようだ。
皆が相澤に質問しようとした時。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
「今回お世話になる。プロヒーロー《プッシーキャッツ》の皆さんだ」
俺様たちの後ろから派手な名乗りとともに現れた二人組と小学生くらいの男の子。
相澤から猫をイメージしたコスチュームの女性たちはプロヒーローで、俺様たちの合宿でお世話になる人たちだと紹介される。
「連盟事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!」
「山岳救助等を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年でもう12年にもなる……」
「心は18!!」
あまりヒーローに詳しくない俺様がわかるように、緑谷が早口で解説を始める。最初は良かったのだが、キャリア……つまり年齢の話になった瞬間、ピクシーボブが緑谷にアイアンクローを喰らわせ、心は18と圧をかけた。
「ここら一帯は私たちの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」
「遠っ!!」
緑谷がピクシーボブに圧をかけられている横で俺様たちは、マンダレイから説明を受けていた。
「え?じゃあなんでこんな半端なところで……」
「いやいや……まさかな?」
「バス……戻ろうか……な?早く」
皆も状況を理解し、バスに戻ろうと踵を返すがマンダレイは気にすることなく説明を続ける。
「今が9時30分、早ければ……12時前後かしらん」
「ダメだ……おい……」
「戻ろう!」
「バスに戻れ!!早く!」
俺様以外の皆がバスに向かって走り出す。
そこに緑谷を解放したピクシーボブが口を開いた。
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
「悪いね諸君」
ピクシーボブがしゃがみ地面に触れると、土が盛り上がり次々に皆を呑み込んでいく。
「合宿はもう始まっている」
地面がうねり皆が崖下へと投げ出されていく。
下へ落ちていく皆にマンダレイが声をかける。
「私有地につき【個性】の使用は自由だよ!」
「今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!」
「この『魔獣の森』を抜けて!!」
俺様たちの林間合宿が幕を開けた。