切り落とされた右腕を認識するよりも先に激痛が俺様を襲う。
「ゔあぁぁぁ!!!」
おびただしい量の血液が地面を赤く染めていく。
右腕を押さえて叫ぶ俺様を堕落は見下す。
「それが王の姿かよ」
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「ハハ……情けねぇ」
堕落は俺様を蹴り倒し、肘から下がない右腕を踏みつける。
痛みで叫ぶ俺様を見て堕落は嘲笑う。
「もう死ねよ」
堕落は拳に蒼炎を纏わせ、俺様の心臓に向かって貫手を放つ。
「……ひ……いと……」
心の中でもう駄目だと諦めていたその時、唯の声が聞こえた。
その目は俺様を救けようとするヒーローの意思が宿っていた。大怪我を負っているのに、俺様を救けようと這いずりこちらに向かう唯の姿が、諦めかけていた心に喝を入れる。
貫手が俺様に突き刺さるその瞬間、爆炎が二人を包む。
“火鳥・火刻苦”
「ッ!?今更悪あがきか!?」
「あぁ……そうだ!ここで諦めたら俺は唯の隣に二度と立てなくなる!!」
「鬱陶しいんだよ!!いいから俺の薪になれぇ!!!」
何度も倒れても立ち上がる俺の姿に堕落は怒り、全力で殺し来る。
俺は堕落を迎え撃つために走り出す。
その時不思議な事が起こった。
堕落を倒すために振り上げた右腕に爆炎が集まり腕を形成していく。
炎が骨を肉を肌を再生させる。
ここまでならいつもと同じだった。
爆炎が消えると、俺の失った右腕は人と鳥が混ざりあった異形になっていた。
肘から下が黒く分厚い皮膚になり、全体的に赤い羽根が覆い、指には獲物を切り裂く鋭利な爪が生える。
超常以前に流行っていた、昔のヒーロー番組に出てくる怪人のようなものに変わっていた。
「【フェニックス】……行くぞ!」
禍々しい外見だが、腕を通して【フェニックス】が力を貸してくれたことを理解し、そのまま突き進む。
「鳳ィ!!火鳥ォ!!!」
「堕落ゥ!!!」
互いの拳が顔面に向かって進んでいく。
俺は姿勢を低くして堕落の拳を回避する。
今出せる全力で堕落の顔面を粉砕する。鼻が砕け顔面にめり込み、前歯が折れ、鮮血が散る。
俺の拳を受けた堕落は勢いよく俺たちを包む炎のドームを突き抜けて木々を薙ぎ倒しながら吹っ飛ばされていく。
「はぁ……はぁ……ッ!?」
堕落を殴り飛ばした右腕から黒い煙が立ち、分厚い皮膚がひび割れていく。
焼け爛れたように皮膚が焦げ焼け落ちると、中から元の腕が現れる。
腕が戻ったのを確認すると、限界を迎えたのか膝から崩れ落ちる。
何度も体を再生して体力が底を尽きた、右腕を再生させた時点で俺の体は指一本動かすことができないほど消耗していたはずだ。
それでも動けたのは唯のおかげだ。
「……唯……あり……がと……う……」
地面を這いずり唯に近づく、傷を治すために体に力が入らなくても意地で体を動かす。
唯が伸ばした指先に微かに触れる。
その瞬間、緊張の糸が切れたのか俺は意識を失った。
「痛ってえなぁ……」
意識を失った鳳を堕落は見下ろす。
鳳に殴られた顔は酷い有様で、すぐに再生したものの怒りは収まらないようだ。
今ここで鳳を殺すことも出来るが、堕落は見下ろすだけに留めている。
かろうじて機能しているインカムから声が聞こえる。
『開闢行動隊!目標回収達成だ!』
『短い間だったがこれにて幕引き!!』
『予定通りこの通信後5分以内に《回収地点》に向かえ!』
「……ッチ」
堕落は舌打ちし、先程切り飛ばした鳳の腕を回収すると、スマホを取り出し電話をかける。
「俺だ……頼まれてたブツは回収した……転送してくれ」
堕落は誰かに必要最低限のことだけを伝えると通話を切る。
数秒後、堕落の口から泥のようなものが溢れ全身を包み込んでいく。
「器が完成したら殺してやるよ……鳳火鳥」
「……ここは」
俺様は目が覚めると黒く染った空間にいた。
最近ここに来たことがある俺様は少し体を伸ばすと、【奴】が来るまで待つことにした。
「久しいな鳳火鳥」
黒い空間を照らすように赤く燃える【フェニックス】が現れる。
「お前が呼んだということは、俺様は生きているんだな?」
「その通りだ。……限界以上に体力を消費したからかまだ眠っている」
「それで俺様を呼んだ要件を聞こうか」
「お前が対峙した敵……鳳堕落についてだ」
世間話をするつもりもないので【フェニックス】にここに連れて来た要件を聞くと、堕落について知っているようなので話を聞くことにする。
「まず始めに鳳堕落の【個性】……あれは元は余の力の一端であった」
「……やはりか」
「驚かないのか?」
「オールマイトからオール・フォー・ワンについて聞いた時から、保須の脳無と堕落はそうなんじゃないかと薄々思っていたからな」
「なら話が早い」
俺様がそう言うと【フェニックス】は堕落が生まれた経緯を話し始めた。
「あれはまだお前が幼かった頃だ。あの日どういうわけかあの男はお前に接触し余を奪おうとした」
「幼いお前の意思では奴の【個性】を拒むことが出来ず、余はある決断をした」
「余の一部、お前たちに分かるように言うと個性因子とやらを奴にあえて譲渡したのだ」
「なるほどな……それでAFOが俺様の【個性】を持った脳無を作れたわけか」
【フェニックス】の話を聞き疑問が確証に変わり俺様は納得する。
しかしまた新たな疑問が生まれる。
「俺様の個性因子を渡したならAFOはなぜ自分で使わなかったんだ?オールマイトとの戦いで瀕死にまで追い込んだにせよ、俺様レベルの再生力があるなら既に完全復活していてもおかしくないぞ」
「余が渡した個性因子は炎に関するものだ」
「本来の余の力は炎による攻撃と再生、余の姿に変化し身体を強化する……今のお前なら理解できるであろう」
「渡した因子は炎による攻撃を司るものだったのか」
「あぁ奴に奪われそうになった余は苦渋の決断の末、炎による攻撃を手放すことで、制御の失った灼熱を奴に浴びせ撃退することに成功した」
「だから【個性】が発現した時点での俺様の炎には攻撃力がなかったのか」
最初からそういうものだと考え、入学前の自己鍛錬で【個性】を伸ばし攻撃力を取り戻したが、それまでは再生にしか使えなかった炎について長年の疑問がついに解消された。
「方法は分からないが、奴は10年以上かけて余が切り離した因子を実戦投入可能の段階まで成長させ、堕落を生み出した」
「誰かに与えたわけじゃないんだな」
「……制御のない炎など使いこなせる奴がいるわけが無いだろう」
「だから脳無か」
「あぁ」
「そして堕落だが……恐らくだが保須での戦いで余たちに負けたことで、余と同じように自我を得たのだろう。あの体に意思はなく自我を得た【個性】自身で動かしていたのだろうな」
「面倒なことになったな」
まさかの事実に俺様は今後どうすればいいのか考えているの頭が痛くなる。
「彼奴がどこまで成長しているかが問題だ。少なくとも余の瞳に干渉し視界を阻害できるくらいには力をつけている」
「そんな事ができるのか」
「余と彼奴は元は一つだ。余の弱点と言っても良い……だが」
「それはこちらも同じか」
「その通りだ…………そろそろ目覚めの時間だ……また会おう」
「今度は死にかけじゃなくて眠っている時にしてくれ」
俺様は【フェニックス】にそう言うと、現実に戻る。
目が覚めた俺様は、見舞いに来ていたオールマイトから林間合宿について話を聞くのだが、爆豪が敵連合に連れていかれたことを知るのだった。