夢を失い途方に暮れていた俺は、屋上から病室に戻る。
これからの事を考える気にもなれず、明日からどうすればいいのか分からなくなる。
「珍しいな……火鳥がそんな顔すんの」
「親父……」
「話しくらいなら聞くぞ」
ラフな格好で俺様の見舞いに来た親父は、社長業で忙しいはずなのに、本社がある島根から長野まで半日程かかるのに親バカにも程がある。
「母さんは?」
「唯ちゃんのご両親と一緒だよ。唯ちゃん……酷い怪我なんだってな。二人ともすごい憔悴してたからな……母さんに任せた」
親父の言葉が俺の胸を突き刺す。
それを感ずかれないように振る舞う。
「母さんの人柄と【個性】なら大丈夫だな」
「……俺さ……お義父さん程じゃないけど知り合いが多いんだ」
「急になにを言って……」
「林間合宿で唯ちゃんを襲ったの……お前の偽物だったんだってな」
いつもヘラヘラと笑う親父から笑みが消え真っ直ぐ俺様を見つめる。
親父は俺や母さん、友人の前ではおちゃらけた姿を見せるが、実際は自身の会社を十数年で上場企業にまで成長させた優秀な人だ。
普段の様子から手放し尊敬できないが、俺が初めて凄いと思い憧れた人は親父だ。
そんな親父が真面目な様子で俺を見るということは、そういうことなのだろう。
「あぁそうだ……唯を傷つけたのは
今の親父に嘘をついても意味が無い。
俺は正直に合宿で起きたことについて話す。
自身を堕落と名乗る俺の偽物が唯を襲ったこと。
堕落の誕生に俺が関わっていること。
唯を傷つけた責任が俺にあること。
先程、唯に拒絶され……夢を失ったこと。
俺の今の状況含めて全て話した。
「なるほどな」
親父は俺の話を聞くと、椅子から立ち上がり俺に近く。
俺は咄嗟に頭を腕で守る。
親父がそんなことをするわけがないと分かっているのだが、夢を失った今の俺は怯えていた。
ゆっくりと伸びる親父の手に俺は目をつぶりその時を待つ。
「よく頑張ったな」
「え?」
親父は俺の頭を撫でた。
【個性】のせいか人より体が大きい親父の手は俺の頭を優しく撫でる。
「頑張ったんだな」
「なんで?」
「唯ちゃんが怪我で済んだのはお前が守ったからだ」
「それでも……」
「お前は凄いよ。自分の偽物が急に現れて、大切な子を襲って……普通なら戦うことなんてできないと思う」
親父は合宿での一件を褒め続ける。
親父の言葉は心が折れた俺にスッと入ってきて涙が溢れてくる。
「きっと……唯ちゃんもそう思ってるから、自分を否定して責め続ける火鳥を見たくなかったんじゃないか?」
「そんなはずは……」
「俺には分からないよ。だからちゃんと話すんだ……お前の気持ちも含めてな」
「話せると思うか?」
「王になるんだろ?これくらいできなきゃ話になんないぜ」
親父はそれっきり何も言わなかったが、俺の頭を撫でて胸を貸してくれた。
この病室に俺たちしかいないこともあり、俺は泣いた。
ずっと堪えてきたものを全て出すように泣き続けた。
「……親父……さっきのことは誰にも言うなよ」
目を赤く腫らした俺は親父から顔を逸らしながら言う。
親父はカラカラと笑うと、また俺の頭を撫でる。
「ハハ!お前が泣くなんて幼稚園以来だからな!母さんにポロッと言っちゃうかもな!」
「言ったら覚悟しておけよ」
「おぉ怖い怖い……お気にのシャツを涙と鼻水でデロンデロンにされたんだ、これくらい許せよ」
「俺のイメージが崩れるだろうが」
「ハハ……調子戻ってきたみたいだな」
「かもな…………ありがとう……父さん」
「ん?何か言ったか?」
「なにも言ってない」
まだまだ親父には敵わないなと思い、スッキリとした頭でこれからの事を考える。
まずは唯ともう一度話すことから始めよう。再び王を目指すのそれからでいい。
「それにしてもお前がそこまで思い詰めるなんてな」
「まだ続けるのかその話」
俺の様子を見て大丈夫だと思った親父は、先程の話に戻る。
「そりゃそうだろ。大事な息子の偽物が悪さしてるんだ許せるわけねぇよ。それだけじゃない唯ちゃんやお前を傷つけたんだ……俺だって怒ってるさ」
「……俺は必ず彼奴を止める」
俺は堕落についてどうするかは既に決めていた。
今まで王になることに固執していたが、それはもうやめる。
再び王を目指しはするが、それと同時に新しい目標ができた。
「……」
「昨日、オールマイトに言われたよ。俺は悪くないって……悪いのは俺を利用して彼奴を造った奴だって」
「でも……だからと言って俺は関係ないんだって開き直るつもりはない。……俺は彼奴を止める」
「ヒーローとして」
親父は俺の言葉を聞くと笑顔を向け、また頭を撫でる。
「いい顔になったな!母さん似て可愛いの顔なのに立派な男……いや、ヒーローの顔になった!」
「親父」
「まさかヒーローに興味がない奴がここまで言うようになったとはな。……だったら俺もサポートしてやる。お前が言っていた理想を形にしてみせる」
そう言ってジャケットのポケットから何かを俺に手渡す。
「これは?」
「
俺の手に握られたそれはブレスレットのようなものだった。
「まだまだお前の最高火力には耐えられないし、エネルギー変換効率も悪い……でもお前の思いは確かに聞き届けた。だからこそ必ず理想を実現してやる」
「頑張れよ」
ブレスレットを装着する。
俺が二度触れるとブレスレットは発光し手首から指先を圧縮されたスーツが覆う。
ピッチリと素肌を覆うスーツにはオレンジ色のラインが引かれ、掌には同じくオレンジ色の円状のポインターがある。
「そのラインは掌についてあるポインターが炎の熱を変換して生成したエネルギーをスーツ全体に送る機能がある。名前はまだ決めてないが……ヒートラインとかどうだ」
「……俺の名を勝手に使うな……使用料取るぞ」
「お前の名前をつけたのは俺だ。当然権利はこっちにある」
照れ隠しに俺は親父と軽口を叩き合う。
スーツをブレスレットに戻すと、親父に返却する。
しかし、親父はそれを受け取らず記念に持っていて欲しいと言うので帰ったら部屋に飾ることにする。
「それじゃ俺も唯ちゃんの様子でも見てこようかな」
「親父が行っても嬉しくないだろ」
「いーや嬉しくて泣いちゃうね!母さんはそうだった!」
「母さんと唯が同じだと考えるな」
親父は空気を変えるようにふざけながら病室を出ようとするが、外から誰かが走ってくる音が聞こえる。
親父にも聞こえているようで、扉から離れ近づいてくる音が誰なのか気になっているようだ。
「二人とも!テレビ着けて!」
「オールマイトが!」
慌てて部屋に入ってきた母さんは、病室のテレビを指差して電源を入れるように言う。
いつも穏やかな母さんが声を張り上げて言うものだから、俺も親父も何かあったと思い電源を入れる。
「はぁ……はぁ……今やってる生放送を見て」
オールマイトが大変だと言う母さんの言葉に従い、チャンネルを切り替えると、そこに映っている光景に俺たちは驚愕する。
「まじか……」
「オールマイトが……萎んでる」
俺は既に知っていたが、知らない親父と母さんはオールマイトの変わり果てた姿に絶句した。
オールマイトをここまで追い詰めた相手に俺は怒りを露わにする。
何故ならば、オールマイトをここまで追い詰めることが出来る相手など、本人が言っていた彼奴しか存在しないからだ。
「AFO……お前が……」
画面に映る巨悪……唯を傷つけた俺の偽物を生み出した張本人。
オール・フォー・ワンの姿がそこにあった。