ーーそこは、何も無い空間だった。
物も、音も、色も、光も……。
何も無いはずの空間に自分は居た。
いつから此処に居たのか分からない。
自分が何であるかも分からない。
分かる事は1つも無いが、知りたいと思うことも無い。
唯、自分は漂うことしか出来なかった。
無が広がる空間に自分は存在していた。
自ら動くことも、声を出すことも出来ない。
きっと自分は永遠に、この何も無い空間で、ただ漂い続けるか、何れ消えて無くなるだろう。
考える事は出来ないが、その運命を感じることは出来た。
そこに希望は無い。だが、絶望も無かった。
「ーあら?此処は私以外は誰もいないはずの場所ですが……」
無の空間に変化が訪れた。
「私に無断で入って来た?……いや、或いは元から此処に存在していたかもしれませんわね」
そこには一人の少女の姿があった。
その少女は人の姿をしているが、その容姿は何処となく人とは違う気配を放ち、その瞳に至っては、獣すら凝視されては逃げ出すような深く、恐ろしい妖気を含んでいた。
その少女の姿をした人物は妖怪であった。
「此処は、万物の境界の中。普通、境界に対して『中』というのはおかしいわね。だって、境界というのは、例えれば地平線。線に対して線上と言っても、中とは言わない。そんな在りもしない場所に存在できるのは私だけなのです。」
「…………」
その少女の姿をした妖怪は自分に語りかけてくるが、反応は無い。することが出来ない。
しかし、こんな何もすることが出来ないはずの自分は、この妖怪の話を聞くことが出来た。何も出来ない自分に出来ることが見つかった。
「……ふむ、見たところ貴方は何かしらの魂の様ですね」
その妖怪は自分に出来ることを増やしてくれただけでなく、自分は何であるかも教えてくれた。
「私以外、存在できないはずの場所に貴方はいる。これは私にとって重要な意味を指しているのかしら?……それとも、貴方にとってかしらね。」
「…………」
相変わらず反応を返すことは出来ない。だが、この妖怪は自分にとって、非常に重要な存在であることを感じることが出来た。
「そうね。これは何かの縁ですし、私は貴方に対して貴方が存在する意味を与えましょう」
「…………」
「貴方は今、魂として此処に存在しています。それがどんな意味を指すか、私にも貴方にもまだ分かりません。けれども魂というのは本来、器と一緒に生まれてくるものです。貴方のように魂だけとして存在しているものは、大体が死を迎えた後に器を失い、魂だけとなり転生を待つものです」
そう、魂というのは本来、器と共に生まれるものである。例外として、九十九神は器が既にある状態で、そこに魂が生まれる。だが、魂が器より先に生まれることは無いのである。
「もう1つ、あまり見られない現象として、、器から幽体離脱している場合というのがあります。本来収まるべき器から一時的に離れている状態のことを指します」
この妖怪が本来可能性が低い例を「もう1つ」と提示したのには、理由がある。
魂は自ら、自然と波長を出している。その波長は千差万別で、その魂独特のものになる。
この魂から放たれる波長はどことなく、この妖怪がよく接している人物から放たれる波長と類似していた。
まさかと思ったが、妖怪はもしかしたらと思い、その例を提示したのだ。
「何であれ、魂だけとして存在しているものには意味というのを持っていない。ただそこに在るだけ。しかし、本来あるべき姿として存在するためには意味を持つことが必要です。死を迎え入れた器と魂は意味を無くす。意味を無くした魂は何れ、存在するための意味を持って、再び新しい器と共に生まれ変わる。これが転生の仕組み」
「…………」
「もし、貴方が本来納まるべき器から離れていたとしても、意味を持つことによって再び還ることが出来るでしょう。ここで出会ったのも何か特別な縁でしょう。私がそのお手伝いをしてさしあげることにします」
この妖怪は自分を転生、若しくは本来あるべき器へと戻してくれると言ってきた。
それが何の魂であるかも分からないのに、ここまでしようとする妖怪に自分は『興味』を持った。
「これから貴方は、この境界から、ある『物語』を見ることになります。とある脆く儚い世界の、常に騒がしい、誰も知らない物語を。……その世界の名前は『幻想郷』と言います」
「…………」
-『幻想郷』
その名前に自分はどこか親しみを覚えた。
「物語とは、例えれば1つの歴史書。これは他の誰も見ることが出来ない、私と貴方だけが見ることが出来る歴史書。貴方はただ見ているだけでいい。感じているだけでいい。何れそこから意味を見つけ出すことが出来ると私は予感しています」
自分はそれに対して反応することは出来なかったが、妖怪はその魂から了承をするような波長を感じ取ることが出来た。
「此処は万物の境界の中。本来なら私以外存在できない空間。それ故、この空間には時間すら存在しない。貴方が此処にどれだけ居たとしても、何れ、転生や本来在るべき場所へと戻るとき、貴本は本来在るべき時間へと行くことが出来ますので心配は必要ないですわ。これから見る物語も、貴方が本来居た時間から、過去かもしれないし、現在かもしれない、或いは未来かもしれない」
これから見ることになる物語は、常に一定の時間軸で進むとは限らない。未来を見たかと思えば、過去を見ることになるだろう。
考えることが出来ず、ただ感じるだけの自分にこの物語を知ることが出来るのかは分からないが、自分はそれを全て見ることに意味があるのだろうと感じた。
「それでは行きましょうか。物語の舞台へと。貴方は此処から、ただ見ているだけですわ」
「…………」
「そうそう、言い忘れてましたわ。私の名前は『八雲 紫』よ。それじゃ、失礼するわね。私もこの物語の役者ですので」
「……」
自分はその名前に特別な何かを感じた。
その妖怪は自分の名前を告げると、その空間から居なくなった。
誰も居なくなったこの空間で、自分は『物語』を見続けることにした。ーー
ー『東方常騒禄』開宴ー
この様なところまで読んで頂き、有り難うございます。
この小説は、私が人生で初めて作成したものになります。
文法の誤りや、誤字等々あるかもしれません。
もし、お目を通していただき、感想を頂けたら今後の参考にさせて頂きたいと思っていますので、どうかよろしくお願いします。
内容が全然出てきてないのに判断できねぇよという方、すみません、もうしばらくお待ちください。