ー正式に異変発覚とされる7時間前。博麗神社にて。
「なんだよ、もう知ってるのかよ。なら、どうしてお前は動いてないんだよ」
「尻尾も掴んでないのに、どう動けって言うのよ」
此処は幻想郷の中でも西の端に位置すると言われている博麗神社。
幻想郷にある唯一の神社である。
唯一の神社でありながら其処はいつも閑散としており、あまり神社として人気は無いように見える。
しかし、神社に住んでいる巫女は数少ない妖怪退治を稼業としている人物の一人であり、人里に住む人々からは大きな信用を得ている。
では何故、神社が閑散しているかというと、その理由は2つある。
1つは、神社が人里から離れており、道中には妖怪が出るなど一般の人では神社に行くことが危険であること。
もう1つは、この神社にはよく妖怪が訪れることである。傍から見れば妖怪の集まる神社であり、そんな危険な場所に人々は近づきたくないのである。
「尻尾もなにも、月が紅くなる異変なんて犯人が絞られてくるじゃないか」
「まぁそうなんだけどねぇ。行ってみてそれが無駄足だったら嫌じゃない?もう少しちゃんとした情報が入ってこないと」
「それこそ、こんな誰も来ないような神社でお茶を飲んでいるぐらいなら情報集めに人里に行くってのが手っ取り早いと思うけどな」
「誰も来ないような神社とは失礼ね、現にアンタが来てるじゃない。誰も来ないなんて語弊よ。」
これは日常風景。
神社の縁側に座ってお茶を飲みながら会話をする、紅白の巫女服を纏う『博麗 霊夢』と、魔法使い独特の三角帽子とその雰囲気を醸し出す黒をベースとした服装の『霧雨 魔理沙』の二人。
霊夢は常に周りに対して興味が無い様子でありながら、自分を隠すことはせず、常に正直なことを口にする。そんな性格である。これは、誰に接する時にでも変わることない。それが例え、人間であっても、妖怪であっても、亡霊であっても。そんな性格だからこそ、誰からも好かれるタイプだが、本人はそのことに自覚があまりない様子である。
魔理沙はと言うと、こちらは自分の欲望に正直であり、それが例え相手に危害を加えることになったとしても、実行するという周りからしたら煙たがれる性格をしている。雰囲気はとても明るく、誰に接するときでも遠慮がない。それ故に、好かれるところもあるが、前述の癖があるため、嫌われることの方が多い人物である。
そんな二人はよく、この神社の縁側に座ってお茶を飲みながら会話をする。
時には、妖怪退治や異変解決に共に繰り出すこともある。とても仲が良いように見えるかと思うと、よく口論をし、時にはには対立して闘ったこともある。
そんな変わった仲だが、これをきっと人は腐れ縁と呼ぶのだろう。
そんな日常風景の中から聞こえてくる会話の内容には、日常とは少し違ったものが聞こえてくる。
「少なくともだ霊夢。昨日の夜、また人里の人間が行方不明になったって話は耳に入ってるだろ?もうこれで何人目だよ。被害がこれだけ出ている以上、そろそろ動くべきだろ」
「えぇ、だから今夜にでも動こうと思ってたんじゃない」
「お前さっき、どう動けっていうのよって言ったばかりじゃないかよ」
「それは今までの話。私だってこれ以上、指を咥えてみている訳にはいかないわ。博麗の巫女として」
二人は、1週間程前から人里で囁かれている噂について話をしていた。
その噂とは、月が出ている晩に限って、人里から離れた夜道を歩いると、突然それまで夜の闇を彩っていた夜空が紅く染まり、異様な空気に包まれるというものである。
既に目撃者が人里の人間だけでも10名以上出ており、中にはその異変の最中に妖怪に襲われ、二度と帰ってこなかった人もいるそうだ。
無事であった人間もその大半は、周辺の妖怪に襲われ怪我を負ったという。
妖怪が人を襲うことは、幻想郷では何ら珍しいことではないが、紅く染まった夜空と、その最中に妖怪に襲われることは何かしら関係があると言ってもおかしくは無かった。
実害が出ているため、すぐにでもこの異変を解決するために博麗の巫女である霊夢が動くかと思われた。
これまでに起きた異変のほとんどは、犯人の目星を付ける前に異変解決に動き出していた。
しかし、今回霊夢は、異変解決に動くことなく情報を集めるだけにとどまっていた。
何故なら、これまでの異変と今回の騒動では、決定的に欠けている情報があったからだ。
それは、周囲の妖精の様子である。
妖精とは、非常に感受性の高い種族であるために、人間や妖怪などが気づかない小さな異変を感じ取ることができる。
異変を感じ取ると妖精たちは騒がしくなり、それが周りの妖精たちに波及していき、異変が起きている場所を中心として、どんどん妖精たちが騒がしくなっていく。
そのため、これまでの異変で霊夢たちは、異変を起こしている犯人の目星を付ける前に、妖精の異変を感じ取りその方角に向かって異変解決に動き出すということが出来た。
しかし、今回は妖精の様子が幻想郷全体で騒がしく、これまでの手法が使えなかった。
また、夜空が紅く染まるという異変の目撃情報は幻想郷のあちらこちらで出ており、発生場所の共通性を見出すことが難しかった。
唯一分かることは、人の集まる場所では目撃例が無いということぐらいだった。
「それなら」と魔理沙はこれまで異変を起こした者の中に、月に関連した異変を起こした者がいたため、そいつらから当たっていけばいけば良いんじゃないかと提案したが、霊夢はそれを頑なに拒否をしていた。
霊夢は、魔理沙に「無駄足だったら嫌」と告げたが、実際に霊夢の中では、虱潰しに見当の付く者から当たるという手法に対して抵抗を感じていたのだ。
しかし、ここまで被害が出ている以上、霊夢も見逃すことが出来なかった。
里の評判のこともあるが、何より人の命が掛かっていることに霊夢は大きな責任を感じていた。
「博麗の巫女として、ねぇ」
「何よ?何か文句でもあるの?」
「いや、別に。ただ……やめた、何でもないさ」
「気色悪いわね、まぁいいわ」
「それより、いつ出るんだ霊夢?」
「一緒に来るつもり?いいわよ、私一人で行くから」
「水臭いな。私と霊夢の仲だろ?」
「そう言って、アンタは面白そうだから来るだけでしょ?」
「そんなことないぜ?私だって早くこんな辛気臭い異変を解決したいと思ってるんだよ」
「ほんとかしらね?まぁ、それには概ね同意だけど」
魔理沙はその性格上、周りからはまず疑いの目を持たれるということが多く、それは腐れ縁であろう二人の間でも変わりは無かった。
「何はともあれ、今夜にでも出る予定よ」
「お、ようやく『博麗の巫女さん』が重い腰を上げますか」
「茶々を入れないでくれるから?二度とアンタにお茶を出さなくするわよ」
「これは失敬、失敬」
キッと魔理沙を睨む霊夢。
ニヤニヤと笑う魔理沙だったが、内心では「この冗談は今後やめよう」と誓った。
「それで、何処を当たってみるつもりなんだ?」
「そうね、情報通りなら月が関係している可能性が高いと思うから、永遠亭に当たってみるつもりよ」
「やっぱりか、この前異変起こしたばかりのところだからな、まだ懲りてないかもしれないぜ」
「そうね。まぁ、とりあえずあそこの姫様にはもう一度痛い目に遭ってもらう必要がありそうね」
「違ったらどうするんだよ?」
「その時はその時よ。ホントは嫌だけど、そろそろ動かないとね。好き勝手されっ放しじゃ虫の居所が悪いわ。それにもし違ったとしても、こちらが動いたという事実を犯人が察知することによって、向こうからボロを出すかもしれないじゃない?」
「逆に隠れるというパターンもあるがな」
「それこそ、その時は静かすぎるところを当たってみるわ」
「結局、虱潰しになるわけか」
「はぁ……。そうなるわね」
結局こうなることを予感はしていたが、先のことを考えると大きなため息が出てしまう。
「まぁ、そう気を落とさず行こうぜ?そんなんじゃ当たったところで返り討ちに合うぞ」
「アンタに心配されるとはね。こりゃ何か起きそうだわ」
「もう既に『何か』が起きてるじゃないか」
「そうね、たった今アンタが口にした煎餅は私のやつだったんだけど?これは私に対する挑戦状かしら?」
「私が言いたかったのはそっちじゃなくて!あぁ、すまんかった!謝るからその札をしまってくれ!」
今日も神社は、いつもと変わらない日常が繰り広げられていた。
しかし、これは束の間の日常。
脆く、儚い幻想郷の中の日常はさらに脆く、儚い。
いつ崩れるか分からないバランスを幻想郷は今日も保っていた。ー
~会話終了時の時刻:14時13分~
ー異変発覚から2日経過。刻は夜。紅魔館エントランスホールにて。
「っち!あいつは何してるんだ!」
そう叫んだのは、紅魔館の主である吸血鬼。『レミリア・スカーレット』であった。
その容姿は幼い子どもの様に見えるが、吸血鬼としての身体能力は非常に高く。並みの妖怪を凌駕する。
しかし今、そんな彼女の姿はボロボロに打ち負けており、敗者そのものであった。
「……どうして?……どうして貴方がこんなことを?」
「さぁ?私にも分からないわ。もし貴方の考えが正しければ、それはもう一大事ね。幻想郷の」
ーー時は15分程前に遡る。
美しい夜空に照らされて、妖しい雰囲気を醸し出していた洋館を突如、紅い月が照らしだした。
その直後、エントランスの窓が割られ、一人の人物が侵入してきたのだ。
いつもなら、直後この館のメイド長が迎撃に出るはずなのだが、運悪く不在だったために、館の主であるレミリアが直々に、その来客のおもてなしをすることになった。ーー
時は現在に戻る。
丁重なもてなしをするはずだったレミリアだが、相手は妖怪退治を専門としており、しばらく戦闘を行ってこなかったレミリアは本来の調子を出すことが出来ず、苦戦の末、地に膝をつけることになってしまった。
「……この異変の犯人がまさか貴方だったとはね。そりゃ誰も気づかないはずだわ」
そうレミリアが呟く。
膝をついたレミリアが見上げた視線の先には、妖怪退治を専門とする巫女。
『博麗 霊夢』がそこに居た。ー
~会話終了時の時間:21時02分~
この様な所まで読んで頂き有難うございます。
ようやく内容を載せることが出来ました。
とは言っても、まだまだ話が全然進んでないですね、すみません。
さて、この話はプロローグの通り、ストーリーの時間軸がその都度変わっていきます。
読む側としては負担を掛けるような構成になっていますがご了承を。
また、今回は二人の主人公の視点から話を書きましたが、以降二人以外の視点も入ってくることになります。
次回は誰視点にしようか悩んでいる所です。
今回はここまで。
恐縮ではありますが、感想や指摘等を頂けると助かります。今後の参考にさせて頂きたいと思います。
それでは、今回はこれにて失礼します。