-正式に異変発覚とされる4時間前。博麗神社にて。
一刻前まで霊夢と魔理沙の会話をする声が聞こえていた神社は、魔理沙が帰宅したため、静けさを取り戻していた。
「さてと、そろそろ出ないと着くころには夜遅くになっちゃう」
魔理沙が居た時と変わらず一人になってからも縁側でのんびりとお茶を飲んでいた霊夢だが、日の傾きを見て出かける支度を始めていた。
「何があるか分からないし、それなりに準備していった方が良さそうね。」
霊夢は札の準備をするため、部屋に入り支度をし始めた。
此処は幻想郷だ。昼夜問わず、人気の無い場所ではいつ魑魅魍魎に襲われてもおかしくない。
それに、今回の騒動の主犯の疑いが掛けられているところに赴くということは、戦闘が起きる可能性が極めて高いのである。
「……あらあら。ようやく動く気になったのね?霊夢」
不意に誰も居ないはずの部屋の中で背後から話しかけられた。
境界を操る妖怪。『八雲 紫』である。
この妖怪は常に神出鬼没で、普段何処に居るのか知る者はおらず、こちらからコンタクトを取ることは出来ず、向こうからコンタクトを取ってきた時のみ会うことが出来る。
この妖怪は、万物の境界を弄る能力を持っている。極端に言えば、「出来る」「出来ない」という境界があれば、それをどちらか片方に傾けることが出来る。「出来ない」ということを「出来る」に変えてしまうことが出来る。それは万能の力を持っていると言っても過言ではない。
「紫……。逆に聞くけど、アンタは動かないの?幻想郷の住人に被害が出てるのよ?それに、あの夜の異変の時と同じように、また月が関係しているみたいだし」
「そうね。貴方の言いたいことはよく分かりますわ。でもね、霊夢、今回は今までと少し違う。それは貴方も気付いているのでしょう?」
「それもそうだけど。私が言いたいのはアンタがよくここまで我慢して動かないなと。もしかして、アンタが主犯だったりする?」
「その質問そっくりそのままお返ししますわ。貴方だって今まで動かなかったじゃない?いつもだったら動くはずの博麗の巫女が。でも貴方は動かなかった。ほら、私と一緒じゃない。それなら貴方が今、私に対して向けた質問は貴方にも向けられるものでもあるのよ」
どう聞いても答えが得られないどころか、話が一向に進まない会話が交わされる。
「もういいわ、何を言っても無駄のようだし。最初の質問の答えだけど、その通りよ。ようやく動く気になった。で?アンタは?」
「さぁ、どうかしらね?」
「アンタね!」
「どうしてそこで怒られないといけないのでしょう?私は貴方に質問をしてその答えを聞いただけ。別に答える必要が無ければ答えなければいいだけのことよ?貴方の答えを聞いたからって、私が質問の答えを返す義理なんて何処にもありませんわ」
「わかった、わかった。もう帰って頂戴。貴方と喋っていると精神が持ちそうに無いわ」
二人の様子から、この妖怪が胡散臭いと囁かれる理由が見て取れる。
しかしこの妖怪、こう見えて幻想郷を創世したと言われる賢者のうちの一人である。
力も、その能力も並外れているが、如何せんこの性格故に、誰からも信用を受けることが無いのである。
「私はただ貴方が気になって様子を見に来ただけですわ」
「どうせ、いつも隙間の中から見てるでしょうに」
「そこまで暇ではありませんことよ、では失礼。くれぐれも気をつけて。貴方がこの異変の主犯にならないように」
そう言って紫は隙間を目の前に展開し、その場から居なくなった。
「何よアイツ。結局私に毒を吐きたいだけだったじゃないの?」
これから異変の調査に出かけようとしている霊夢は出端を挫かれた気分だった。
そんな悪い気分を忘れようと、一人残された部屋の中で再び出かける支度をし始めた。
「……私が主犯か。それはそれで、どうなるか見てみたいわね」
ふと漏らした呟き。
その呟きは誰に聞かれることも無く、周囲に霧散していった。
〜会話終了時の時刻:17時03分〜
ー正式に異変発覚が発覚されて間もない頃。迷いの竹林にて。
ー夏夜に響く小さき虫達の鳴き声。そこに時より風に吹かれた木々がこすれ竹林に平穏の音を与える。
陽も完全に沈み、月夜に照らされる竹林はなんとも幻想的な風景と静寂な音色が広がっていた……つい先程までは。
「おいおい、これは噂通りと言えばいいのか?」
今夜にも永遠亭に仕掛けると言った霊夢を追いかけ、魔理沙は単独で永遠亭に向かうべく、迷いの竹林を自慢の箒に乗り飛行していた。
しかし、彼女は眼前に広がる異変に気付き、様子を伺うべく地上に降り、辺りを観察していた。
「空を見上げれば紅い月か。気象現象にしては不自然すぎる色彩だな。明らかに人工的だ」
先程までいつも通りの迷いの竹林の風景が広がっていたかと思えば、何の前触れもなく突如紅い月が夜空を支配し、その不自然すぎる紅の色彩に夜が呑まれてしまった。
「いかんな、突然の出来事に慌てて辺りの観察ばかりしていたら方角が飛んじまったな。一度上がって確認しないと」
方角を確認するため空に上がる魔理沙。
ーヒュッ
「んなっ!!あっぶな!」
空に上がろうとする彼女に目掛けて竹林の蔭から狼らしき獣が飛び掛かった。不意打ちに驚いた彼女は何とか避けることは出来たが、態勢を崩し地面に再び足をつけた。
ーグルルルッ!
「おいおい、これも噂通りかよ。ったく、犬っころは相手にしたくないんだが、完全に目が逝っちまってる様子からして心情を説いてる場合じゃなさそうだな。それに……」
ーガサッガサッ
既に彼女の周りには獣の気配が複数あった。さらに上空には興奮した妖精が飛び交っており、刺激を与えずとも今にも襲いかかってくるような危険な状態だった。
「本殿に辿り着く前に主人公ピンチだなこりゃ。だが、ここでやられる私じゃないぜ!」
突如訪れた戦場に彼女は単身、その身を投げたーー
〜会話終了時の時刻:21時17分〜
ー1年ぶりぐらいの投稿になりますね。
挫折したわけではなくて、日常が忙しくゆっくりと文章を執筆できる時間が取れず、あれやこれやと1年近くも時が空いてしまいました。
だからと言って待っていた人がいるわけでもなく、ただの独り言となってしまうわけですが……
何はともあれ、ようやく今回の異変に関わる話がほんの少しだけ出てきましたね。終わりでは魔理沙がピンチっぽくなってますがどうせ切り抜けるんでしょうね、いつも通りに。
今回もメインはいつもの二人かつ時間も前の章の続きでしたので、まぁ先が分かってしまう内容でしょうかね。
次回からはこれら以外の視点が入ってくる予定ですので考察も広がるのでは、と考えております。
時間は空いてしまいましたが、構想は頭の中でそれこそ1年ほど練っていましたので、これからも投稿していきたいと考えています。
今回はこの辺で失礼します。
こんなところまで読んで頂き感謝の極みです。もし、感想やアドバイスを頂けたら幸いです。
では次回にー