ネタが出てきます
それから、ベヨネッタと別れたボクは、ヴィグリッドの街を、宛もなくふらふらと歩いていた。ルカという男の事も気になるし、何より、ここで何かが起こる気がしたのだ。暫くすると、空から岩が降ってきた。大方、ベヨネッタや上級天使共の仕業だろう。まるで何かの映画のように、隕石が降ってくる。それによって、街の地面には亀裂が入り、溶岩が噴き出した。三次被害として、建物が色々と倒壊。まあ、実際はこんなに被害が出ているのだから、はた迷惑な奴らだと思う。
暫く避けていると、溶岩の被害は被らなさそうな、高い崖を見つけた。頂上には、コロシアムらしき物が立っている。
「…行くか。どうせ、ここにいても溶岩は来るしな」
そう言って、ボクは崖を登り始めた。幸い、ボクは鎖を引っ掛けて登る事が出来る。中には洞窟もあるようだが、こっちの方が遥かに楽だろう。
数分くらい経った頃、頂上に着いた。そっと様子を窺うと、先程会ったベヨネッタが、コロシアムの方へ向かっているのが見えた。何故目的地が被るんだ。それはともかく、自分も向かう予定だし、尾行してみよう。何をするのか、というのは気になる所だ。
ベヨネッタにバレないよう、崖だったり柱だったりに隠れて進んだ。コロシアムの内部へ着くと、そこには、滅茶苦茶に大きな人間の生首に竜の頭と手足を取っつけたような、今までで一番奇妙で、気持ちの悪い見た目の天使がいた。天使が人の顔で喋りだす。
――魔の物と神、双方と因縁のある我らには興味深い話だが……奴らが辿り着かねば無駄に終わろう。
耳障りな、乾いたような声が響く。およそ、普通の人間が話す言語ではない。恐らくはエノク語だろう。神の言語として人間によって作られた言葉だ。そう考えると、天使が話しているのは中々に皮肉だ。そんな声を聞いて、ベヨネッタはその天使へと話しかける。
「久しぶり、よっぽど縁があるのかしら?」
それを聞くと、その天使は漸くベヨネッタの方を向いた。何故だか分からないが、ニヤニヤと言うか、ニンマリというか、そんな笑顔を浮かべている気がした。
――これは、探す手間が省けた。ベヨネッタとやら。それに…今度は余計な連れまでいるようだ。
そして、その天使はこちらを見た。それを視認すると、ベヨネッタは天使を睨み、銃を向けた。
「…何ですって?」
それすらも無視して、天使はボクに話しかけてきた。大した度胸である。
――そこにいるだろう、ソルーナの巫女よ。名を名乗れ。
完全にバレている。面倒くさい。ベヨネッタもこちらを向いた事だし、流石に姿を現さないとマズイか。そう思って、ボクは隠れていた柱から姿を出した。
「…なぁんだ、バレてたのか。それにしても、礼儀がなってない奴だな。名前くらい自分から名乗れよ」
眉を顰めながら、腕を組んで登場すると、流石に天使も、ボクの機嫌が悪いことは察したようだ。もう少し早く気がつけ、と思う。多分、人間社会にいたら滅茶苦茶生きにくそうな性格だ。いや、天使全般がそうか。
――それはそれは…大した持て成しもせず、失礼したな。
天使はボクの機嫌が悪い事に気が付きつつも、それを黙殺して笑う。最後の言葉はベヨネッタにも向けられた言葉のように思えた。
「今度こそ、私が満足するまでお持て成ししてくれるんでしょうね?」
ベヨネッタがそう睨むと、軽く笑って、天使は語る。ボク達人間には計り知れない、天界側の話を。
――魔女狩りを逃れ、天に楯突く女がいると聞く。そして、その血縁である神の力の一端を持つ女も…いずれ、闇に喰われる不憫な女達だ。それがお前達の事ならば、今ここで……。
その言葉を聞いた途端、ベヨネッタが天使に銃を向けて発砲した。その後銃を下ろし、小馬鹿にしたような口調で話し始める。
「失礼。私がアンタ達を狩る理由、話したかしら。その顔がどうしようもなくムカつくからよ」
ムカつくからよ、の部分は語気が荒げられていて、感情が一番込められていた。それだけあの顔が嫌いなのだろう。その言葉に便乗して、ボクも天使を詰る。ムカついているのはボクも同じだ。
「話がクソ長いってのも追加だな。毎回そんなに喋って飽きないのか?」
ふん、と鼻を鳴らして言うと、天使はそれがさも可笑しな事のように嘲笑って、終いには少し呆れたような口調で話しだした。
――闇と時の力で、我らに歯向かうと?いつの時代も、人類は…。
その言葉を聞いて、ベヨネッタは二度目の銃を発砲。今度は連射だ。その連射が終わった後、ベヨネッタは髪を広げてこう言った。
「黙りなさい、トリ頭!」
成程、トリ頭は的確だ。そう考えつつ、ボクはコロシアムの柱の上へと登った。この柱には足場が取り付けられていて、戦うには最適だ。
ベヨネッタもその足場へと乗ってきて、いよいよ天使が攻撃を仕掛けてきた。赤い飾りを付けた竜の頭が噛みついてくる。それをボク達は軽々と避け、ベヨネッタはウィッチタイムを、ボクはタイムオーダーを発動して攻撃を繰り出した。同じタイミングで避けたからか、互いの姿がはっきりと見える。
「頭の悪い子はお仕置きしてあげるわ!」
「竜だかなんだか知らないが、その頭を持つならば巻きついてくるとかしたらどうだ?」
両方がそう言いながら、竜の頭に次々と攻撃を当てる。ベヨネッタは脚で回し蹴りを繰り返した後に銃で撃つ。ボクは刀を振り回し、竜の頭を切り刻み、最後に飾りの部分に突き刺す。この一連をやり終わるか終わらないかで、ウィッチタイムとタイムオーダーは解除された。だが、大きなダメージを与えられたのは確かだろう。竜の頭から火の玉を吐き出してボク達の動きを制限してくる。恐らく、あの隕石はこの天使が原因だろう。まあ、いくら火球が飛んでこようと、そんなの関係ない。全部避けるか、跳ね返せばいいだけだ。今度は青い飾りを付けた竜の頭が噛みついてくる。それも同じように避け、攻撃を繰り返した。
これと似たようなやり取りを数回繰り返した後、漸く攻撃のバリエーションが増えた。足場が破壊され、ボク達は下へ降りざるを得なくなった。下の地面は破壊され、マグマが噴き出している。これでは移動が面倒だな。
「…中々考えたじゃあないか」
そう呟き、天使に向き直る。後ろには竜の尾のような物が付いていたようで、その尾で、ボク達を自身に近づけまいと振り払っている。だが、ベヨネッタがそれを避け、瓦礫の上にある砂時計のような物に触れた。その瞬間、この場所の時が巻き戻り、マグマは跡形もなく消え去った。それに焦ったのか、その天使は竜の頭を両方使って、ベヨネッタに向けて突進させた。ベヨネッタはそれを避けて、竜の頭を掴んだ。そのままぐるぐると回し、ボクの方ににぶん投げた。ボクは、倒れた天使の竜の頭の赤い一方を掴み、ベヨネッタと同じようにぐるぐると回した。そのままベヨネッタの方へ投げつけると、ベヨネッタもまた回転の速さを上げ、こちらに投げつけた。ボクも繰り返そうと思ったが、その前に赤い竜の頭がポロリと取れ、魔界へと連れて行かれた。
「…あ〜あ」
落胆に溜息を吐くも、すぐに気を取り直して戦闘を続ける。さっきまでのパターンが一回だけあり、そのパターンを軽々とこなした。ちなみに、ベヨネッタに投げられた天使は速攻でボクの方へ向かう。ボクに何か恨みでもあるのか。
竜のもう一つの頭がポロリと取れ、魔界へと連れて行かれる。その瞬間、天使は先程の火の玉を、今度は人面の口から吐き出してきた。ボク達ではなく、地面に。それにより地面は吹っ飛び、その欠片がボクに当たりそうになった。それをすれすれで避けると、またタイムオーダーが発動した。ベヨネッタも同じなようで、二人でアイコンタクトを交わし、頷いた。浮き上がった地面を飛び石のように使って渡り、先に辿り着いたベヨネッタが、地面に向かって天使を叩きつける。ボクはそれに先回りして、落下地点に待ち構える。天使が来たら、鎖を使ってぐるぐると回し、上へと放り投げた。ベヨネッタはその天使を、人形の悪魔を召喚して殴りつける。
地面に叩きつけられた天使は、最後の足掻きとでも言うのか、力を使って、コロシアムの建っている地面ごと宙に浮かび上がらせた。
「おっと…」
すぐに浮き上がった地面に着地し、すぐに繰り出された火球を避ける。ベヨネッタを見ると、落ちたキャンディを拾いに行っていた。そんなに美味しいのだろうか。そんな呑気な事を考えつつ、タイムオーダー中に、天使に出来るだけ攻撃を行う。刀を両手で何度か振り、人面の部分を切断する。その時点で、ベヨネッタがこちらへと向かって来た。
「ラスト、行くわよ」
「足手まといになるなよ!」
二人で目を合わし、笑う。まるで互いの実力を試すように、企んでいるような鋭い目で。同じタイミングで天使の方へ生き、突進してきた天使を避ける。人面を斬りつけ、仮面のようなその殻を破壊していく。
ある程度破壊しただろうか、ベヨネッタが飛び退いて、ウィッチタイムを解除した。それを視認すると、ボクも巻き込まれないように退避する。地面を乗り移り、攻撃が届かない所まで移動した。ベヨネッタは、ウィッチタイムを発動し、崩れて破片となった地面を天使に向かって投げつけた。その場所から、ボクは刀を投げて天使の顔の目にぶっ刺す。すぐに刀を鎖で手繰り寄せ、手に持った。それと同時に、地面だった岩が天使へと降り注ぐ。それに当たった天使の顔には風穴があいた。それを見て、ベヨネッタは満足げに笑う。
「あら素敵。いい男になったじゃない」
それには同意する。あの趣味悪い顔よりも、この風穴が空いた顔の方が余程見れる。そう思って頷いた。
「さっきの気色悪い顔より数倍マシだな」
そう言うと、ベヨネッタはボクを横目で見て微笑んだ。ボクもベヨネッタを見る。
「趣味合うわね」
そっと視線を外し、天使を見る。風穴の空いた顔でも、長話の続きをするように喋り続けた。往生際の悪い天使だ。
――これほどとは…噂通りだ。
噂、とはなんだろうか。ボクは有名になった覚えはないし、ベヨネッタの事か。
「噂?何のことかしら」
しかし、ベヨネッタにも分からないらしく、首を傾げている。勿論、笑った表情は崩さずにだ。
――このフォルティトゥード、喜んで礎になろう!主神ジュベレウスの祝福あれ!
そう叫んで、天使は魔界へと完全に連れ去られた。ちなみに、あの天使はフォルティトゥードというらしい。意味は勇気だったか。まあ、ある意味度胸はあったが、それで負けていたら世話ないな。そう思いつつ、ボクはベヨネッタへと視線を移した。正直、あの天使の行く末など興味がないのだから。
ベヨネッタは、今まさに飛び降りようとしている最中だった。何か、失われた記憶の鍵になりそうだと、直感でそう思った。そのため、ボクはベヨネッタに着いていくことにした。ベヨネッタに近づいた途端、三十から四十代くらいの男の声が、頭の中で聞こえた。
――愛する娘達よ、恐れる事はない。私が見守っているからね。さあ、進みなさい。
脳の中で響くようなその声に不快感を覚えつつも、ベヨネッタに問う。何か知っているかも知れないし、そうでなくても、ベヨネッタはこの声を知らないという事を知る事が出来る。ボクは軽く笑みを浮かべながら問いかけた。
「誰の事だ?」
そう聞くと、ベヨネッタは落ちながら首を傾げ、笑って言った。
「さあ?記憶にないわね」
その仕草は、妙に脳裏に引っ掛かった。
今日の一言
天使って絶対に、人に混じれなかった人間が成った物だと思うんだ。