バグDバトル、ファイト!! ~正真正銘「言ったもん勝ち」カードゲーム~   作:龍川芥/タツガワアクタ

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⑩ミライ覚醒! 希望を繋ぐ絆の力!

 BUG-Dx(バグデラックス)ミライブライン:ATK 25*1

 

 (フィールド)に現れしは、バグDからバグDx(デラックス)へと変貌したミライ。

 

 金の髪は翼のように、長さを伸ばしひとりでに広がる。

 全身の服は武装を増し、スカートの横には加速装置(ジェットスラスター)。青い瞳は加速に備えたバイザーで覆う。

 そして頭頂と双肩の上には、フキダシを模したのか、円形の一部が突き出した光輪(ヘイロー)が浮かんでいた。

 ああ――変貌し美しささえ増したその姿は、どこか地上に降臨した天使を思わせて。

 

 Z(ゼット)エンドが放つ闇の魔力、それに覆われた(フィールド)にて。

 絶望という闇に立ち向かうように、ミライは強い光を帯びて立つ。

 

 その変化――変身というべきか――に対し、驚いたのは敵である理或(リアル)だけではなかった。

 ミライの主であるファイトもまた、テキストの無かったバグDの変身に驚愕と困惑を思わず漏らす。

 

「ミライ……? その姿はいったい――」

『はい、これはバグDx(デラックス)――強い絆を条件に封印(リミッター)を外した、わたしの本来の姿。マスター、アナタを希望の未来へ導くための形態です!』

「バグDx(デラックス)……!?」

 

 聞いた事のない単語に、ファイトの困惑は強まるばかり。

 だが、ミライはそれ以上詳しく語らなかった。

 代わりに、彼女は高らかに叫ぶ。

 

『さあ! 恐れずカードを引いてください、マスター!』

「!? どういうことだ、ミライ――」

『どうか信じて! わたしと、絆と、アナタの「未来」を!』

 

 先程までの――何の効果も持たず威勢だけだったミライとは違う、芯のある強い言葉。

 それを受けて、ファイトはデッキトップに、そこにおいた自らの腕に意識を向ける。

 何が何だか分からないが……この勝負(バトル)に勝たなければいけないという現実は変わっていない。そしてその為には、恐怖に打ち勝つだけの勇気をもってこのカードをドローするのが最低条件。

 

 ぎちり、鎖の音を幻聴する。

 過去の誓いは、捨てれぬ絆は、未だにその体を縛り付けている。

 それでも、ソレを否定するのではなく。

 抱えたままで未来へ行こうと、そう言った彼女の言葉ならば――。

 

「……ああ、分かった! ミライ、おまえを信じる!」

 

 言って、ファイトはドローする姿勢で固まった腕に力を籠め。

 その想像以上の軽さに、彼はようやくそのことを理解した――ミライのお陰で、理解できた。

 

 

 ああ、そうか。

 この腕に巻き付いた鎖は、過去から伸びた、オレを縛り付ける呪いではなく。

 オレの心の底から生まれ繋がった、アイツを忘れない為の祈り。

 オレはあいつとの絆を失ったんじゃない……あいつはずっと、(ここ)に居たのだ。

 ならさ――カッコ悪いとこ、見せれないよな……!

 

 

 ぐっ、とカードにかけた指に力が入るのと、ミライが叫ぶのは同時。

 

『行きます、ミライ☆アクセス! 今一番必要なカードを、マスターの手に!』

 

 瞬間、デッキトップのドローカードが光り輝き――。

 

「――オレのターン、ドロー!」

 

 空に鮮やかな軌跡を描いて、拓条ファイトはデッキから希望をその手に引き抜く――!

 

 

 ▶TRUN 06

 ファイト 手札:0→1枚

      山札(ライフ):2→1枚

 

 

 ファイトはドローカードを横目で確認し……目を見開く。

 

「! このカードは――」

 

 だが、彼の正面に立つ理或(リアル)の余裕は崩れない。

 それは自身の圧倒的優位を確信しているがゆえ。

 

「ハッ、手札1枚で何ができる! 今更バグDがちょっと変わろうが、俺様の勝利は揺るがねえ! テメエの現実は絶望だと決まってんだよ、ファイトォ!」

 

 ファイト 山札(ライフ):1枚

      手札:1枚

      場 :【BUG-Dx(バグデラックス)ミライブライン】ATK 25

 

 理或(リアル)   山札(ライフ):12枚

      手札:1枚

      場 :【電脳魔王Z(ゼット)エンド】ATK 30*2

 

 理或(リアル)の言う通り、状況は正に絶体絶命。

 正真正銘山札(ライフ)1枚……つまり次の自分ターンを迎えられないファイトが勝つには、このターンで決着をつけるしかない。

 だが()()1()()()()、進化しパワー25となったミライでも、パワー30のZ(ゼット)エンドを乗り越えた上で12枚の山札(ライフ)を削るのは到底不可能だろう――。

 

 けれど、ファイトは笑った。

 諦念という絶望ゆえではなく、勝機を見出した希望のために。

 そして、彼は言う。

 

「――()()()()()1()()()()()()()()()?」

「何ィ?」

 

 その言葉に、理或(リアル)は片眉を吊り上げる。

 

「ここに来てドロー系カードか? 間抜けヤロウが、テメエの山札(ライフ)はあと1枚! いくら手札が欲しくても、それを失えばテメエの負けって現実なんだよぉ!」

 

 指摘は事実。ファイトにはこれ以上のドローは許されない。

 だが、彼は絶望しない。

 

「いいや! 山札からドローはしない!」

「ハァ? なら何を――」

 

 ここで、ファイトはたった1枚の手札を掲げた。

 彼は今しがた山札から引き抜いたばかりの、希望のカードを発動する――!

 

「これがミライが繋げてくれた――いや、未来に繋がる希望のカード! S(サポート)カード発動、不屈の再投(リツイクル)*3! 自分の墓地(トラッシュ)のカード10枚につき1枚、墓地(トラッシュ)のカードを回収する! オレの墓地(トラッシュ)にあるカードは38枚……つまりオレは、3枚のカードを手札に回収する!」

「――! そうか、墓地回収カード……!」

 

 理或(リアル)は歯噛みする。なぜその可能性に思い至らなかったのか、と。

 

 ――バグDバトルは(ライフ)たる山札(デッキ)を削り合うバトル。その仕様上、必然的に墓地(トラッシュ)にカードが溜まることになるし、切り札が使えないまま墓地(トラッシュ)に送られるなんてのもざらにある。

 故に、必須とされるのが『墓地回収カード』。墓地(トラッシュ)のカードを手札に戻せるそのカードたちは、当然理或(リアル)もデッキに入れている。

 そして墓地回収カードの中には、墓地のカードを複数枚回収できるものもある――。

 

 ファイトの墓地(トラッシュ)から3枚のカードが飛び出し、その手札に回収される。

 

 ファイト 手札:1→3枚

 

「手札、3枚だと……!」

「ああ、それもただの3枚じゃない……オマエが削ったオレの山札(ライフ)、つまり大量の墓地(トラッシュ)から、オレが選んだ3枚だ!」

 

 こうして、墓地のカード3枚はファイトの手札に戻った。

 即ち、過去と現在は繋がった。

 そして、主従は前を向く。

 燃える決意、硬い絆、ひとつの心で未来を目指す――。

 

「行くぞミライ!」

『はい、マスター!』

「オレは【BUG-Dx(バグデラックス)ミライブライン】で、【電脳魔王Z(ゼット)エンド】を攻撃!」

 

 BUG-Dx(バグデラックス)ミライブライン:ATK 25

 電脳魔王Z(ゼット)エンド:ATK 30

 

 今現在、ミライの方がパワーは低い。

 だが、ミライは一切の衒いなくファイトの指示に従い攻撃姿勢に入る。

 それは、未来を信じているから。

 ファイトがその手札を使って状況を好転させるという、希望を――。

 

 その信頼に応えるように。

 ファイトは3枚の手札のうち、1枚目のカードを切る。

 

「そして再びの発動だ、大炎上!(バズバーン)*4! 魔王ってだけで火種は充分、【電脳魔王Z(ゼット)エンド】を『炎上』させてパワーダウンだ!」

 

 それは、ミライが【電脳勇者AAAA(オールエー)】を撃破したときに使ったカード。

 理或(リアル)の脳裏に苦い記憶が蘇り、彼はそれを嚙み潰すように歯を剥き出して叫ぶ。

 

「ぐッ、またそのクソカードをッ……だが忘れてんじゃねえぞファイトぉ! 手札1枚をコストに、Z(ゼット)エンドは相手のS(サポート)カードを模倣(コピー)できる現実の事をなぁ! Z(ゼット)エンドがパワーダウンするなら、テメエのバグDだって同じ効果でパワーダウンだァ! 全能絶技(ゼウス・オーラ)ァ!」

 

 電脳魔王Z(ゼット)エンド 効果発動

 理或(リアル) 手札:1→0枚

 

 ファイトのSカードから『炎上』の火が放たれる。

 同時、理或(リアル)の命を受けたZ(ゼット)エンドが黒い魔力を用い、その火を模倣し鏡写しのように放つ。

 

 こうしてお互いのバグDは、『炎上』の火に包まれた。

 Z(ゼット)エンドは赤い炎に。

 ミライはそれより暗い色の炎に、それぞれ全身を包まれ。

 そうして悪罵の火は猛り、両者のパワーが低下する――。

 

 だが、ファイトはそれに待ったをかけた。

 そして残った2枚の手札、その片割れをここで切る。

 

「この瞬間! オレは次なるS(サポート)カード、華麗なる複製(パーフェクト・ツインズ)*5、発動! 相手の墓地(トラッシュ)S(サポート)カードの効果をコピーし、このカードの効果として適用する!」

 

 それは、ファイトが【渾身の一投(オールイン・ポスト)】を発動するために墓地(トラッシュ)に送っていたS(サポート)カード。

 その効果は、奇しくも。

 

「何ィ!? テメエも相手のカード効果をコピーするだと……ッ!? そんな高度な効果、雑魚のテメエに使いこなせるハズが……!」

「ないかどうかはこれで分かるさ! オレが効果を複製するのは――オマエの墓地(トラッシュ)S(サポート)カード、禁忌作戦:増減反転(オーバーフロー・グリッチ)*6!」

「な……そのカードは、俺様がカントーチャンピオンを勝ち取った――!」

 

 そのSカードこそは、理或(リアル)が教室でさんざん自慢したカントー大会、その決勝での決定打となったカード。

 ゆえに。そのカードの存在は、同じ教室内に居たファイトも知っていたのだ。

 

 ファイトとミライが決死で削った――あるいは理或(リアル)自身の慢心が削った山札(ライフ)の中にあったそのカードの効果により、ミライの体を包む炎に変化が生じる。

 暗い炎の色は、黄色に近い明るい色へ。囂々と猛る悪罵の声は、ミライを応援する声援へ。

 

「これにより『炎上』で下がるハズだった数値が反転し、そのぶんミライのパワーが上昇! オマエが放った絶望は、これで希望へと反転した!」

 

 BUG-Dx(バグデラックス)ミライブライン:ATK 25→30

 電脳魔王Z(ゼット)エンド:ATK 30→25

 

 単純にパワーの減少効果を受けたZ(ゼット)エンドと、その効果を反転させて自身をパワーアップしたミライ。

 ここに両者の(パワー)関係は逆転した。

 だが、理或(リアル)の残り山札(ライフ)12枚を削り切れるほどではない。

 

 なればこそ。

 最後、3枚目の手札にして正真正銘のラストカードを、拓条(たくじょう)ファイトは発動する――!

 

「そして、これで最後だ――渾身の一投(オールイン・ポスト)*7、発動!」

 

 それは、【大炎上!(バズバーン)】と一緒に使用された、理或(リアル)にとっては不愉快極まりないカード。

 なればこそ、理或(リアル)はそのカードの効果を覚えていた。

 

「――バカが、最後の最後に詰めを誤ったなァ! ソイツは確か、山札(デッキ)からカードを1枚墓地に送って発動するカードのハズ! テメエの残り山札は1枚、ソイツが墓地(トラッシュ)に送られた瞬間、テメエは敗北って現実だ!」

 

 土壇場での鋭い指摘。彼もまた地方を統べる程の猛者。

 だが――それでもファイトは不敵に笑い、言う。

 

「いいや、それはどうかな!」

「な、なんだと……ッ!?」

 

 そうして、ファイトは叫ぶ。

 自身が発動したS(サポート)カード、その効果テキストが許す『特例』を。

 

「【渾身の一投(オールイン・ポスト)】は本来ならデッキからバズりそうなカードを墓地に送りバグDの魅力に上乗せするけど、今回はその必要はない! だって――ミライは既に『炎上』っていう、物凄い注目を集める(バズれる)状態なんだからな――!」

「なァ――テメエッ、『炎上』を逆手に取って――ッ!?」

「ああ! それもただの『炎上』じゃない、【禁忌作戦:増減反転(オーバーフロー・グリッチ)】で反転させた好意の『炎上(バズ)』だ! そのパワーアップ量は、通常時を遥かに上回る!」

 

 そうして、ファイトの言葉が現実となるかのように。

 ミライの全身を包む炎が、金色となって天を衝かんばかりに燃え盛った。

 その炎は希望の光となって、ミライのパワーを大幅にアップさせる――!

 

 BUG-Dx(バグデラックス)ミライブライン:ATK 30→40

 

『凄い、この力なら――流石ですっ、信じてましたよマスター!』

 

 そんな、闇など寄り付くこともできない眩い光を受け。

 眼前に広がる『現実』を前に、理或(リアル)の表情が大きく歪む。

 

「バカなッ、バカなバカなバカなぁッ! だってテメエのバグDを包むその炎は、元は俺様の効果でコピーした『炎上』だろうがァ! まさかッ……ありえねえ! そんな現実がありえてたまるかぁ! ファイト、テメエ、()()()()()()()()()()()()――ッ!?」

 

 問いへの答えは、ファイトの表情が言葉にせずとも語っていた。

 即ち、正義と闘志を湛え敵を睨む、どこまでも真っ直ぐなその瞳が。

 

 その視線に焼かれるような錯覚を覚え、思わず理或(リアル)が気圧される。

 そんな彼に、ファイトは/ミライはひとつになった心で叫んだ。

 

神山(かみやま)理或(リアル)! オマエが皆からバグDを、笑顔を奪うなら……それが現実だと、未来は絶望だと言うのなら! そんなくだらない『現実』は、オレとミライでぶち壊して!」

『わたしたちの手で切り拓きます! 皆が笑える、新しい未来を――!!』

 

 BUG-Dx(バグデラックス)ミライブライン:ATK 40↑

 電脳魔王(ゼット)エンド:ATK 25↓

 

 そうして、ここに全ての手札は切られ。

 

 猛る黄金の炎を推進力とするように、ミライが自分の肉体を砲弾に変えて飛翔する。

 構えられた拳には、フキダシを模した光輪(ヘイロー)が追従し。

 剣めいたその切っ先が、今、魔王を穿つ鏃へと。

 ああ、黄金は鮮烈に闇を裂いて。

 繋がった絆が生み出す力が、ここに未来を切り開く光となる――!

 

「『これがオレ(わたし)たちの、超絶☆希望☆彗星(ミラクル・ミライ・ドライブ)――!!』」

 

 十字の閃光、闇を穿つ。

 ミライという砲弾が、全霊を乗せたミライの拳が、魔王の体を貫いて――。

 

 大爆発。

 衝撃が世界を揺らし、黄金の波動が魔王の背後にいた理或(リアル)を襲う。

 即ち、ミライとZ(ゼット)エンドのパワーの差ぶんのダメージとなって。

 

「バカなッ――この俺様が負けるなんてッ、そんな現実が――ぐ、がああああああああァッ!」

 

 理或(リアル) 山札(ライフ):12→0枚

 

 衝撃を受け、残っていた山札(ライフ)全てと共に理或(リアル)の体が吹き飛ばされる。

 どさり、廊下に叩き付けられたその男は……衝撃にか気を失っており、立ち上がって来る気配はなく。

 つまり、これは。

 

▶バグDバトル◀

ファイト WIN !!

 

 ――バグDバトル、決着。

 勝者、拓条(たくじょう)ファイト。

*1
バグDx / ATK 25 / SNSから生まれたバグD、ミライ。彼女がDリンクによって真の能力を引き出した姿――即ちモード・バグDx。電子掲示板、コミュニケーションアプリ、動画配信サイト……あらゆるSNSに由来する能力を使いこなす。未来を導く生命線の名の通り、彼女に繋げぬ未来はない。

*2
バグD / ATK 30 / 世界を絶望で染め上げた性格最悪の大魔王という設定を持つ、RPGゲームのラスボスから発生したバグD。普通に召喚することはできず、世を照らす希望が翳ったときにのみ顕現し地平を絶望の闇で閉ざす。全ての武術・魔法を使いこなすことができるが、力が強大過ぎるため制御は難しい。

*3
S / 自分の墓地のカード10枚につき1枚、墓地のカードを回収する。ただし回収可能なのは、このバトル中に自分が使ったカードか、バズりそうなカードに限る。――セカンドチャンス、ご用意します!

*4
S / バグDなど対象1体の悪評を流布し『炎上』させる。炎上した対象は基本的にパワーがダウンする。対象に問題があればあるほど効果は大きくなる。――燃え尽きるほどバーニング、です!

*5
S / 相手の公開領域にあるSカード1枚の効果をコピーし、このカードの効果として使用する。――ネットの海からサルベージ、です!

*6
S / とある世界の法則、臨界を超越した数値の増減が反転する現象を現実に再現するコマンド。乱用すれば世界線の崩壊を招くと言われている。

*7
S / 山札からカードを1枚選んで墓地に送り、そのカードの魅力の分だけバグD1体のパワーをアップさせる。パワーアップさせるバグDが素でバズれそうなら、カードを墓地に送らなくても発動できる。――みんなのエールを力に変えます!

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