バグDバトル、ファイト!! ~正真正銘「言ったもん勝ち」カードゲーム~ 作:龍川芥/タツガワアクタ
「
「ああ、そこまでで大丈夫」
「……」
駅前のカフェのバックヤード、そこでの面接中のこと。
オレ、
けれどそれは、彼が冷たい人間であることを意味しない。
だって、店長はがたりと音を立てて椅子から立ち上がり――。
「堅苦しいのは抜きにしてさ……やろうよ、バグDバトル!」
そう言って『Dフォン』、つまりバグDが住める現代のスマホを構えたのだから。
屈託のない笑顔を湛えた店長は、Dフォンを構えながら高らかに語る。
「相手の事を理解したいなら、言葉よりもまずバグDバトル! 相手の戦術、ガッツ、バグDとの向き合いかたを見れば、キミがここで働くに足るかどうかすぐに分かる! さあ、いざ尋常に勝負だ!」
そうやって、ずびしとDフォンを突き付けて来た店長に対し。
残念ながら、オレは頭を下げざるを得なかった。
何故なら――。
「……すいません。オレ、バグD持ってないんです」
数秒後。
頭を上げたオレが見たのは、ツチノコでも見つけたかのように愕然と目を見開く店長の姿であった。
カラン、と退店を意味するベルが鳴る。
件のカフェを後にしたオレの足取りは重かった。
「また駄目だったかぁ……」
オレの名前は拓条ファイト、愛望高校1年生の15歳。別に世界の命運を背負ってたり何かのプロだったりもしない、いたって普通の高校生男子だ。
そんなオレがバイトの面接に落ちるのは、けれど今に始まった事ではない。
何故なら。
『ごめんねぇ、ウチは面接はバグDバトルでやるって決めてるから……バグD持ってない子は、ちょっと』
そんな店長の言葉通り、今のご時世「バグDを持っていない」というのは、それだけでハンデなのだから。
そう、オレはバグDを持っていない。
その一点だけが、オレの普通の高校生とは違う部分。個性になってしまう程の欠点。
それは一昔前の「携帯/スマホを持っていない」と肌感は近いか。今やなんでもそれありきの社会が形成されていて、そうでない者の肩身は非常に狭い。
バグで
あらゆる電子機器やプログラムの『
人々はバグから生まれた
それは例えば、単純に重いものを運んでもらったり。
バグDの力で発電している街もあると聞くし。
それこそバグDバトルで共に戦ったり、とか。
その傍ら、バグDはDフォンを通して元来不安定な自己の存在を安定させ、人間との交流を通して自我や感情を育んでいくのだ。
まあこういう感じで、バグDと人類の距離は非常に近い。
なんなら今周囲を見渡しても、バグDを召喚したまま道を歩く人が大半だ。
そんな街の中では、バグDを持たぬオレこそが異端な存在と言えた。それこそ古いだの落ちこぼれだの言われても、何も言い返せないくらいには。
そんなこんなで背を丸めて歩いていると、そんな背に声を掛けられた。
「ファイトっ」
「ん? ……ああ、紗奈か」
振り向けば、そこに居たのは
オレとはいわゆる幼馴染という関係だ。
可愛い、と言い切るには表情筋が硬すぎる紗奈は、オレの顔を見るや否やぽそりと言う。
「浮かない顔、だね……」
「はぁ? どこが?」
「……もう、強がり屋」
自分では平気な顔をしているつもりだったのだが、紗奈は呆れたように頬を膨らませた。もっとも他のやつが見れば、変わらぬ無表情にしか見えない程小さな変化だったけど。
そして少し考える素振りを見せて、紗奈は言う。
「……もしかして、バグDのこと?」
……どうやら隠し事は無駄らしい。
「まあ、そんなカンジだ」
「そっか……」
それで紗奈は閉口した。
眉尻がほんの少し、数ミリの単位で下がっている。それが彼女の見せる心痛の表情であるとオレには分かる。ほんとうにコイツは、オレのことでオレより悲しむのだから始末が悪い。
オレがなんと返すか困っていると、紗奈が再び口を開いた。
「なんか、悔しいな。だってファイト、本当は誰よりもバグD思いなのに」
「……」
流石に、何も言えなかった。
オレの沈黙をどう取ったか、紗奈は珍しく口数を増す。
「ねえファイト、今からでも他のバグDを――」
「まあ、そんなのどうだっていいだろ。また明日な」
続きを言わせないよう強引に話を切って、オレは紗奈に背を向けた。
そのまま1人で帰路に着く。
オレの事情を知っている紗奈は、追いかけては来なかった。
別に、バグDが嫌いな訳じゃない。
バグDバトルだってそうだ。
でも……オレにとっては、この
そんなこんなで、いつもより少し速足で帰路を行く最中。
不意に
「なんだ? 紗奈のやつか?」
画面を確認すれば、そこにあったのは。
『【緊急】このメールを開いて!!!!!!!【絶対】』
……切羽詰まったと言うには半端な、怨念すら感じる余りにも怪しい
そしてイマドキ珍しいDメールという形態に、見覚えのない送信元。
即ち。
「うわ、迷惑メールかよ……」
思わずそう呟いて、オレはDフォンをポケットに元通りに突っ込んだ。
そして思う。
次こそバグDを持って無くても働けるバイト先を探そう、と。メールのことなどすっぱり忘れて。
ああ、その時のオレは。
この平和で退屈な日常が、この日を最後に脆くも崩れ去ることになるなど、とうてい知る由も無かったのだ――。