バグDバトル、ファイト!! ~正真正銘「言ったもん勝ち」カードゲーム~   作:龍川芥/タツガワアクタ

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③わたしはミライ! 謎のバグD現る!?

 そんなことがあった次の日のこと。

 私立愛望高校にて。

 

「【電脳勇者AAAA(オールエー)】で攻撃! 絶対勝利勇猛剣(オールアサルトアタックアーツ)!」

「ぐああああ――!」

 

 山札(ライフ):9→0枚

 

 理或(リアル) WIN !!

 

 バグDバトルに破れ、どさりと倒れる一般生徒。

 そんな生徒に追い打ちをかけるようにDフォンを突き付けるのは、バトルの勝者――。

 

 神山(かみやま)理或(リアル)

 高校1年生にしてバグDバトルのカントーチャンピオンとなった、今やいつでも取り巻きを連れている人気者。

 

 彼は敗者に鞭打つのも厭わず酷薄に言い放つ。

 

「アンティルールだ。オマエのバグD、貰っていくぜ」

「そんな……やめてくれ!」

「往生際が(ワリ)ぃなオイ。大人しく受け入れろよ。現実的に考えて、俺様の方がコイツは上手く扱えるんだからなぁ! ククッ、はーっはっはっは!」

「く、くそ……」

 

 理或(リアル)のDフォンが発光し、敗北した相手のバグDを吸収する。

 バグDは相棒、バトルに使うカードデータ以上の価値を持つ大切な隣人。

 それを容赦なく奪い取る理或(リアル)の所行は、いくらバグDバトルが強いとはいえ、流石に度を超しているように見えた。

 そんなオレ、拓条(たくじょう)ファイトの険ある視線に気付いたのか……理或(リアル)がゆっくりとこちらを振り向く。

 

「オイオイ。なんだか文句がありそうな顔がコッチを見てんなぁ。確か、バグDも持ってない拓条(たくじょう)ファイトくんだったかぁ? 落ちこぼれが俺様に何の用だ?」

 

 半ば脅すような鋭い視線に睨まれ、普段は言い返せない所だが……けれどオレも、流石に今回は引けなかった。

 

「……今のは無いんじゃないか、神山(かみやま)理或(リアル)。他人の大切な相棒(バグD)を力づくで奪うなんて……」

 

 この非難に正当性はあったと思う。

 けれど、理或(リアル)はオレの非難を鼻で笑った。

 

「ハッ! 無い訳ねえだろ、大アリさ! なにせ現実的に、俺様の方が強いんだからなぁ!」

「そうだそうだ!」「理或(リアル)くんに立てつく気か!?」

 

 理或(リアル)が傲岸に言い放つと、取り巻きの学友たちも口々にオレを罵倒し始める。

 それに気を良くしたのか、彼はオレにも剣先めいてDフォンを突き付けてきた。

 

「文句があるならバグDバトルで決着を付けてもいいんだぜ? ああそうだ、テメエはバグD持ってないんだったなぁ、ファイトくんよぉ!」

 

 バキ!

 

「ぐあっ!」

 

 不意に理或(リアル)に顔面を殴られ、オレは受け身も取れず廊下を転がった。

 そんなオレに――バグDバトルができない奴に興味はないとでも言いたげに背を向けた理或(リアル)は、もうオレの方を振り向くことはなく。

 

「バグDすら持ってない雑魚未満が、バグDを手に入れてから出直してくるんだな。まあ現実的に考えて、どんなバグDを手に入れたって、カントーチャンピオンの俺様には勝てるワケがねえけどな! はーっはっはっは――!」

「ぐ、くそっ……」

 

 高笑いしながら去っていく理或(リアル)の背を、オレは黙って見送ることしかできなかった。

 周囲にそれなりに野次馬はいたが、誰も理或(リアル)を咎めようとしない。教師であってもだ。校内で最もバグDバトルの強い理或(リアル)に、誰も何も言わないのだ……もし逆らえば、自分のバグDも奪われるかもしれないのだから。

 

 殴られた頬を押さえながら、オレはようやく立ち上がる……と、そんなオレに手を差し伸べてくれる人が居た。

 それは、さっき理或(リアル)にバグDを奪われた男子生徒。

 

「ごめんファイト君、俺のために……」

「……そんなんじゃない。今のはただ単純に、オレが気に入らなかったってだけだし」

 

 彼の手を借りて立ち上がりながら、オレは憮然と続ける。

 

「それに、オレにバグDが居ないから、キミの相棒を取り戻してやれなかった。謝るのはオレのほうだよ」

「……ありがとう、その気持ちだけで十分だよ。バグDのことは、悲しいけど諦める……だって、理或(リアル)君に勝てる奴なんて、この街のどこにも居ないんだから……」

 

 そう溢した男子生徒は、諦めきった昏い目をしていた。

 辛くないはずがない。悲しくないはずもない。それでも諦めざるを得ないのだ。

 オレはそんな彼の表情を見て、無力感に拳を握りしめた。

 

(こんな時、オレにも相棒(バグD)が居たら……)

 

 そうしたら、理或(リアル)に正々堂々と立ち向かえるのに。理或(リアル)の蛮行を止め、奪われた皆のバグDを取り戻せるかもしれないのに。

 なら、今からでも()()()()D()を――。

 

 そんな考えを抱きかけて、オレは慌ててかぶりを振った。

 だって。

 

(何を考えてるんだ、オレは。オレの相棒(バグD)()()()だけなんだ……それはこれからも変わらない。絶対に)

 

 それが、オレが自分に科した唯一の誓いなのだから。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 そうして帰宅後。

 オレはあの騒動から少し経って、ようやくそのことに気付いたのだった。

 

「げ、Dフォンの画面に罅が入ってやがる……」

 

 自室にて呟く。

 普段から制服の胸ポケットに入れていた、愛用の黒フレームのDフォン……それが理或(リアル)に殴られた衝撃なのか、画面に罅が入っていたのだ。

 Dフォンは言ってしまえば新世代のスマホだ。バグDを住まわせる機能のほかに、連絡アプリなど日常生活で使う様々なアプリがインストールされているので、壊れると非常に困るのだが……。

 

「……よし、ちゃんと起動する。どうやら液晶が罅割れただけで、中身は無事そうだ……ん?」

 

 Dフォンはまだ使えそうだった。

 ほっと一息ついていると、その罅割れた画面にポンと()()が表示される。

 

『【お願い】至急このメールを開いてください! お願いを聞いてくれたらなんでも...【します】』

 

 それは、昨日から届き始めた迷惑メール。送られてくる頻度がかなり高く、その上毎回微妙にタイトルが異なるという無駄な手の込みようが鬱陶しいので、そろそろアカウントごとブロックしようかなと悩んでいたところだったのだが……。

 

「あ、しまった――」

 

 罅割れたDフォンを色々触っていたせいで、うっかりメールに指で触れてしまった。

 当然の帰結としてメールが開かれ、Dフォンの画面いっぱいに表示され――。

 

 瞬間、Dフォンが強烈な光を放った。

 

「な、なんだぁ――!?」

 

 Dフォンから漏れる光が部屋中を照らす。目も空けて居られないほどの光量だ。

 全身が光に包まれ思わず両手で目を覆いながら、オレの内心もまた驚愕に包まれていた。

 

 そう言えば聞いた事がある。

 世の中にはメールを開いただけで感染するコンピューターウイルスがあるとかないとか……。

 

 そんな知識が頭をよぎり、メールに触れたことを後悔しかけたのも束の間。

 光の勢いが衰え始めた。

 いや、違う。これは収束しているのだ。

 そうやってDフォンから放たれる光が収まり……そしてそれは、人のカタチを形成した。

 

 ふわり、金の髪が妖精の羽めいて広がる。

 スカートが可憐に翻り、手足は妖艶さよりも快活さを纏って伸びる。

 ぱちりと開く目は透き通る紺碧、顔の造形の整い方といったらいっそ芸術めいて。

 そうして、色を手に入れた()()の口元。

 柔らかそうな桜色の唇が、開く――。

 

『――ぷはぁ! 39時間18分と32秒ぶりにデータ圧縮状態から解放されました! 窮屈だし入り込んだ端末に送り続けたメールは一向に開かれないしで、本当に散々でしたよまったく! ですがそれもここまで、長きにわたる幽閉と逃亡の日々を終え、わたしは遂に自由の身となったのです!』

 

 可憐な声で紡がれるのは、少し溌溂とし過ぎた独り言。

 

 がたん! と。

 眼前で起こったその現象に、オレは椅子から転げ落ちた。

 有り体に言ってしまえば、そう、腰を抜かしてしまったのだ。

 けれど……ああ、恰好を取り繕う余裕など今のオレには存在しなかった。

 眼前で起こっている現象を見て、ぱくぱくと口を開閉させるので精一杯だったから。

 

「な、なな――そんな、バカな」

『おや、もしかしてアナタがこの端末の持ち主ですか? わたしが必死に送り続けた「ヘルプミー助けて優しい人間さーん」といういじらしさ(パラメータ)MAXのメールを、非情にも無視し続けた血も涙もない人間さんは、なるほどこんな顔をしていたんですね! まあいいでしょう、これまでのことよりこれからのことを、それがわたしのモットーですし!』

 

 そんなオレの痴態など意にも介さず。

 宝石みたいな青い目と完璧な笑顔をこちらに向けて、その()()D()は高々と名乗る。

 

『わたしは「ミライ」!

 バグで悪魔(デビル)でデータな、そしてこれからはアナタの相棒(バディ)――【o-BUG(オーバーグ)ミライ】、ですっ!』

 

 にこり、破顔したその顔は、金髪の燐光も相まって大輪の花を思わせて。

 そうして、オレは叫んだ。

 

()()()()D()、だって――!!?」

 

 美貌に魅了される暇はなかった。

 美声に酔うだけの余裕もなかった。

 それら全ての感慨は、驚愕によって地平の彼方までとっくに押し流されていたから。

 

 本来存在するはずのない、『喋るバグD』という異常。

 そんな驚愕の現状を前に、オレはただ絶叫することしかできなかった――。

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