継国の娘   作:毎日読書

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継国兄弟の一人称を原作通り”私”にしました。いままで”俺”を使っていてすいません。

また、主人公が終ノ型で残した傷を”腕の切断”から”肺の損傷”に変更しました。
そちらの方が、呼吸を使う剣士には致命的で、それでいてわかりづらい。
でも、透き通る世界を使える強者にはその傷がわかってしまう。
この設定が良い!!と思いました。



外伝:継国兄弟

 ひかりの死から、半世紀近くが経った。

 

 赤い月の夜、縁壱は立っていた。

 黒死牟――かつての兄、継国巌勝は、鬼となった姿で彼の前に現れる。

 だが、かつての威容とは違っていた。

 

 呼吸が、浅い。

 

 縁壱は、何も言わない。

 ただ、視線を落とす。

 巌勝の胸の奥――赫刀が通った痕が、鬼の再生を拒むように赫く残っているのを、透き通る世界で見て、彼は静かに目を伏せた。

 

 ――ひかりか。

 

 ひかり。

 縁壱の赫刀に届いた、唯一の技を編み出した者。

 ”光の呼吸 終ノ型  暁星・黎明”。

 その一閃が、確かに巌勝の肺を焼き払ったのだ。

 

 巌勝の呼吸は、鬼であるにもかかわらず、わずかに濁っていた。

 赫刀の焼け跡が、五十年余り経っても癒えず、肺の奥に痛みを残している。

 それは、ただの傷ではない。

 命の根に届いた、光の証だった。

 

 縁壱は、問いたださない。

 ただ、確信する。

 

 あの子が、やり遂げたのだ、と。

 

 巌勝も、何も言わない。

 ただ、静かに刀を構える。

 その構えに、かつての月の呼吸の流れはある。

 だが、肺の損傷が、わずかにその均衡を崩していた。

 

 ***

 

side : 巌勝

 

その日は赤い月の夜だった。

私は信じられぬものを見た。

老いさらばえた“弟”の姿がそこにはあった。継国縁壱。双子の弟。

最後に会ってから六十数年の時が経っていた。

人間のままの縁壱は、齢八十を超えているはずだ。

 

 「……有り得ぬ。なぜ生きている?」

 「皆死ぬはずだ。二十五になる前に。なぜお前は……」

 「なぜお前だけが」

 

私は、動揺していた。

そのとき、縁壱は涙を流し言った。

 

 「お労しや 兄上」

 

と。

 

老化した醜い姿の、かつて弟だった生き物に憐れまれた。

だが、憤りは感じなかった。

六十年前はあれ程目障りだった弟だというのに。

“兄上”と呼ぶ声は、酷くしわがれていた。

感情の僅かな機微すら見せなかった弟が、涙を流している。

その様に、生まれて初めて込み上げてくるものがあった。

 

私は、己の予期せぬ動揺に困惑した。

殺さねばならぬ。人であった頃の肉の片割れを。

全盛期を過ぎ、脆い肉体の老人を。

奴が鬼狩りである限り、刃を向けてくる者は一刀両断にせねばならぬ。

 

しかし、この奇妙な感傷も、次の瞬間には吹き飛ぶこととなる。

 

ズシン。

 

縁壱が構えた。

 

それだけで、両肩に岩を乗せられたが如く、威圧感で空気の重さが増した。

縁壱の構えには一分の隙もない。

 

 「参る」

 

縁壱がそう言った瞬間、縁壱は私の後ろにいて、私の頸が切られていた。

私は反応できなかった。

幸い、頸はまだつながっていた。

私は頸を押さえながら振り返る。

 

 

何故いつもお前が。

お前だけが、いつもいつも“特別”なのか。

痣者であるというのに生き永らえ、

その老骨で振るう技は、全盛期と変わらぬ速さ、そして威力。

 

鮮やかに記憶が蘇る。

六十年前の怨毒の日々。

骨まで灼き尽くすような嫉妬心。

お前だけが、この世の理の外側にいる。

神々の寵愛を一身に受けて生きている。

 

お前が憎い。殺したい。

だが、次の一撃で私の頸は落とされるという確信があった。

あの方をも追い詰めた剣技。

それは、神の御技に他ならない。

 

焦燥と敗北感で、五臓六腑が捩じ切れそうだった。

そして、肺が焼けるように痛んだ。

赫刀の一閃が、四十年前に刻まれた傷を呼び覚ましたのだ。

 

――ひかりの付けた傷か。

 

私の娘であるのに。

私が使えなかった、日の呼吸を使える者。

縁壱の赫刀に届く、唯一の技を持つ者。

”光の呼吸 終ノ型  暁星・黎明”。

あの娘が、私の肺を焼いた。

赫い焼け跡は、今も癒えず、呼吸のたびに疼く。

鬼である私の肉体が、再生を拒まれた唯一の場所。

 

なぜだ。

なぜ、私には使えなかった日の呼吸を、娘であるお前が振るえる。

なぜ、私の血を継ぎながら、縁壱の赫刀に届く。

お前もまた、理の外側に足を踏み入れかけていた。

縁壱ほどではない。だが、確かに“外”にいた。

 

赫刀の一閃で、鬼の肉体に再生できぬ傷を残すなど――

それは、神の領域に触れる者の技。

私には届かなかった場所。

私が、何よりも欲した場所。

 

だが、次の一撃が放たれることは、終ぞ無かった。

縁壱は直立したまま、寿命が尽きて死んでいた。

 

私は、ただ立ち尽くした。

肺の奥に残る赫い痛みと頸の痛みが、私を蝕んだ。

それは、縁壱の刀の証。

そして、ひかりの命の証。

 

――なぜ、私ではなかったのか。

 

 




原作を再現しながらも、主人公の要素をいれる。
完璧だぁ。

素晴らしい!!

以上、自画自賛でした。お目汚し失礼いたしました。


次回は、主人公のやらかしが未来にどう影響するのか、について書きたい。
というか、書く!!
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