継国の娘   作:毎日読書

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主人公の名前は、”ふじみや なのは”です。


最終選抜

 僕と伊之助は、山で楽しく、幸せに暮らしていた。

 ずっとこの暮らしが続けばいいな──そう思っていた。

 だけど、ある日、邪魔が入った。

 

 その日は、僕は鹿を狩りに朝から巣穴を出ていた。

 鹿を抱えて、巣に帰ると、伊之助が人を二人、つるし上げていた。

 

 「絶対面倒ごとだな…」

 

 そう思いながら様子見ていると、どうやらこの二人、僕たちの巣に無断で侵入したらしい。そこで、伊之助は二人を襲撃して打ち負かした。その後、二人は鬼から逃げていたらしく、後を追ってきた鬼と伊之助は鉢合わせ。二人からぶんどった二本の日輪刀で戦って撃破したそうだ。

 

 やっぱり、この二人は鬼殺隊かぁ、と僕は思った。

 僕は、伊之助に呼吸のことは教えていたが、鬼の存在については意図的に伏せていた。彼の性格上、知れば必ず鬼に勝負を挑みに行くと分かっていたからだ。

 

 そして案の定、伊之助は二人から他にも鬼がいる事や藤襲山での最終選別の事を聞き出し、この山を出ることを決めてしまった。どうやら、強力な鬼との戦いを求めて藤襲山に直行するようだ。

 

 正直なところ、僕はこの山での暮らしに満足していた。

 だから、「闘う相手なら僕がいるじゃん」とか「この山はどうするの?」とか色々と言いたいことはあった。

 

 でも──

 

 「子分よ、俺に着いて来い!!」

 

 伊之助のその言葉を前に、僕は何も言えなかった。

 

 嬉しかったのだ。伊之助が、僕と一緒にいることを当たり前のように思ってくれていることが。

 

 だからこそ、僕は決めた。

 今世も、鬼狩りになることを。

 伊之助の子分として──彼と共に、戦うために。

 

 ***

 

 そんなこんなで、僕と伊之助は藤襲山に辿り着いた。

 

 山の前には、二十人程の人が集まっていた。

 最終選抜はまだ始まっていないようだった。

 けれども、伊之助はそんなことを気にも留めず──

 

 「猪突猛進!!猪突猛進!!」

 

 と叫びながら、勢いよく山の中へ突入していった。

 僕はどうしようか、とそこで立ち止まった。

 

 伊之助の後を追っても良いし、ここで開始を待っていても良い。

 

 「まぁ、開始を待っているか」

 

 そう思って突っ立っていると、懐かしい気配を感じた。

 

 振り向くと、入口の方に原作主人公、竈門炭治郎の姿があった。

 炭治郎を見た瞬間、前世で関わった竈門家の記憶が蘇り、しばし懐古に浸っていると、いつの間にか最終選別が始まっていた。

 

 少し駆け足で藤襲山に入り、そこからは忍者の如く、僕は隠れ潜んだ。

 

 正直言って、今の僕にとって最終選別に現れる鬼は雑魚だ。

 ──ただし、問題が一つ。

 今の僕は日輪刀を持っていない。

 

 そう、日輪刀を持っていなかったのだ!!

 

 このことに気が付いたのは最終選抜直前だった。

 

 「どうしよう…」

 

 ぶっちゃけ、本気で悩んだ。

 日輪刀がないと、鬼との勝負は負けはしないが、勝てもしない勝負となる。

 無力化して朝を待って、鬼を太陽で焼いても良いが──それはあまりにも面倒すぎる。

 

 だから、熟慮の末、僕は隠れることを選択した。

 僕が本気で隠れれば、雑魚鬼に見破られることはない。

 

 隠れ潜んで、暫くしたころ、最終選抜に挑んだ人のなかで犠牲者が出始めた。

 僕は夜間は隠れているため、積極的な移動はしておらず、人と会うことはなかった。

 

 けれど、昼間の間にこの山を散策しているとき、鬼に食い荒らされた遺体を見つけた。

 その近くには、日輪刀が転がっていたため、遺体を埋葬した後、日輪刀を拝借した。

 

 日輪刀を手に入れてからは、隠れるのを止めて鬼を狩り始めた。

 久しぶりの鬼狩りではあったが、何の問題もなかった。

 

 今更ではあるが、人助けでもするかと思い、山をうろついた。

 しかし、弱い者は既に鬼に食われてしまっていて、残っている者たちは助けを必要としていないようだった。

 

 そんな感じで、七日間はあっという間に過ぎていった。

 

 ***

 

 藤襲山を下山すると、そこには四人の生き残りと二人の幼子がいた。

 伊之助は既に立ち去った後だった。

 僕は伊之助を追いかけようかと一瞬考えたが、自分の日輪刀が欲しかったため、思いとどまった。

 今世の呼吸の適正がわからなかったからだ。

 

 それにしても、周囲を見渡すと──

 

 きょろきょろと辺りを見回し、生き残りの少なさに落ち込む竈門炭治郎。

 「死ぬわ、死ぬわ」とぶつぶつ呟く我妻善逸。

 蝶をぼんやりと見つめる栗花落カナヲ。

 苛立ちと焦りを隠しきれない不死川玄弥。

 

 …割とカオスな状況だなぁ、と僕は思った。

 

 そんな状況で、二人の幼子は鬼殺隊の説明を始め、鎹鴉が与えられた。

 前世の僕は見習いのまま鬼殺隊を去ったため、鎹鴉がついておらず、始めての鎹鴉に感動していた。

 

 「本当に喋るのかな……?」

 

 そんなことを考えていた矢先、玄弥がトラブルを起こし、炭治郎が玄弥の腕を掴んでいた。

 玄弥の腕からは、ミシッという骨が軋むような音がした。

 

 「すごい音だな……」

 

 思わず、僕は呟いてしまった。

 

 その後、刀を造る鋼を選ぶこととなったので、僕は直感で「これだ」と思ったものを手に取ったのだった。

 

 ***

 

 日輪刀ができるまで、一五日ほどかかると言うので、僕は鎹鴉に頼み、伊之助を追った。

 しかし、──まったく追いつけなかった。

 

 伊之助を追って山を越え、谷を渡り、鎹鴉の情報を頼りに走り回ったが、彼がいると聞いた場所に着くたび、そこには彼の足跡だけが残されていた。まるで、いたちごっこだった。

 

 そして、気がつけば、一五日が経っており、ひょっとこ面の鍛冶師が僕の前に現れた。

 

 「藤宮菜葉殿。お待たせしました。日輪刀、完成です」

 

 その言葉に、胸が高鳴った。

 今世の僕に、どんな色の刀が現れるのか──期待と少しの不安を抱えながら、そっと刀を抜いた。

 刀身は、ゆっくりと黒に染まっていった。

 

 「黒色か…」

 

 思わず、呟いた。

 

 黒──それは、日の呼吸の適性を示す色。縁壱さんが持っていた色でもある。

 

 確かに、今世の僕は前世で使っていた光の呼吸を、前世ほど、うまく扱えなかった。だから、別の呼吸が適しているのだろうとは思っていた。だけど──まさか、日の呼吸に適性があるとは。

 

 驚きと静かな高揚を胸に、僕は刀を納めた。

 刀鍛冶は黙って頷き、刀を鞘に納める僕を見守っていた。

 

 「ありがとう。大切に使うよ」

 

 そう言って、僕は刀を腰に下げた。

 

 刀をもらってからは、鎹鴉の任務をこなしながらも、伊之助を追う日々だった。

 

 任務自体はすぐに終わる。なにしろ、今の僕は柱と同等の力を取り戻していたからだ。むしろ、任務地への移動時間のほうが長いくらいだった。

 

 ただ、使う呼吸は光の呼吸にとどめていた。

 

 日の呼吸を使えば、無惨がどう反応するか分からないからだ。光の呼吸も危うさはあるが、僕には他の呼吸を扱う術がない。だからこそ、鬼に僕の呼吸が悟られないよう、常に瞬殺を心がけていた。

 

 ***

 

 その日も任務はあっさりと終わった。

 すると、鎹鴉が一つの知らせを運んできた。

 

 伊之助が任務で骨折し、藤の花の家で療養している、というのだ。

 

 僕は、走った。

 やっと会えるという嬉しさと、怪我は大丈夫だろうかという不安で、胸がいっぱいだった。

 

 藤の花の家に着くと、家の中から「うらめしやー!」という男の叫び声が聞こえてきた。

 お婆さんに案内され、僕は伊之助が滞在しているという部屋の前に立った。

 

 「大丈夫でしたか、親分!!」

 

 そう声をかけて部屋に入ると──

 そこでは、善逸が刀を振り回しながら、炭治郎を追いかけ回していた。

 ……いや、状況がカオスすぎる。

 怪我人はどこだ。

 

 「落ち着け善逸!落ち着け!!」

 

 炭治郎が必死に善逸をなだめているが、まったく効果がない。

 僕は、しばらく黙ってその光景を眺めていた。

 

 ──なんだこの空間。

 

 任務帰りの疲れが一気に吹き飛ぶような騒がしさだった。

 

 「……親分、大丈夫でしたか?」

 

 ようやく声をかけると、部屋の隅で布団にくるまりながら、伊之助が鼻を鳴らした。

 

 「おお、子分か! 俺は元気だぞ! 鬼をぶっ飛ばした!」

 「それはよかったです。でも、勝手にどっか行かないでください」

 「俺はどっかに行ってない!子分が勝手にいなくなったんだろ!!」

 

 そのやり取りを聞いていた炭治郎が、ようやく善逸を落ち着かせながら僕の方へ視線を向けた。

 

 「あなたは確か…最終選別のときにいた人ですよね」

 「ええ。僕の名前は藤宮菜葉。よろしくお願いします」

 「俺は竈門炭治郎です。よろしくお願いします」

 「それと、僕は伊之助親分の子分です」

 「親分…?子分…?」

 

 炭治郎が首をかしげる横で、善逸が僕をじっと見つめていた。ようやく僕の存在に気づいたらしい。

 禰豆子のときのように、また叫び出すのかと思ったが──善逸は僕の“音”に怯えているようだった。

 

 「ねえ、君……なんか、空気違くない? ていうか、強くない?」

 「え?」

 「いや、わかるんだよ。俺、耳がいいから。俺の爺ちゃんより強いかも」

 

 炭治郎が驚いたように僕を見た。伊之助は布団の中で「俺の子分は最強だぞ!」と叫んでいる。

 ──ああ、やっぱり隠しきれないか。

 僕は、少しだけ笑った。

 

 「強いかどうかはわかりません。でも、伊之助親分の子分ですから。親分に恥じないように、頑張ってるだけです」

 

 その言葉に、炭治郎は優しく微笑み、善逸は「やっぱり怖い……」と震えながら布団に潜り込んだ。

 




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