昼は伊之助たちの面倒を見て、夜は任務で鬼狩り。
そんな日々を僕は送っていた。
もっとも、「面倒を見る」といっても、かまぼこ隊の三人は骨折しているだけで、驚くほど元気だった。
だから僕は、禰豆子と遊びながら、三人に呼吸の指導をしていた。
禰豆子は本当に可愛い。「ムー」と甘えてくる姿に、思わず顔が緩む。
……いや、可愛いのはさておき、三人の呼吸の練度はかなり高かった。
伊之助は僕が直接鍛えていたし、炭治郎は幼い頃から神楽を踊っていて、元柱の育手にも鍛えられていた。
善逸もまた、元柱の育手に鍛えられた実力者だ。
とはいえ、三人ともまだ「全集中の呼吸・常中」には至っていなかった。
そこで僕は提案した。
「日常生活の中でも、全集中の呼吸を維持してみたら?」
と。
結果として、常中にはまだ届かないものの、呼吸の維持時間は着実に伸びてきた。
そんな折、三人の怪我がほぼ完治した頃、新たな任務が舞い込んだ。
那田蜘蛛山へ向かい、隊士たちと合流して鬼を討伐せよ――という指令だった。
山に着くと、隊士が十人ほど集まっていた。
その場で最も階級の高い者を中心に隊を編成し、山へ入る流れだった。
けれど、僕には原作知識がある。
この山には、下弦の伍が潜んでいる。
実際、下弦クラスの鬼の気配に加え、複数の鬼の存在も感じ取れた。
その気配と比べると、隊士たちの実力は明らかに不足していた。
だが、階級の低い僕が撤退を提案しても、誰も耳を貸さないだろう。
「怖気づいた」と思われるのがオチだ。
それに、この任務は炭治郎が「日の呼吸」を使い始める重要な転機でもある。
僕がすべて片付けることもできるが、それでは意味がない。
そう思い悩んでいた矢先、隊士たちが同士討ちを始めそうになった。
彼らの身体に糸が絡んでいるのが見えた。
操られているのだと察し、僕は糸を切り離していった。
しかし、実力のない者は本当に対処できない。
無数の蜘蛛に翻弄され、再び糸をつけられて操られ始める。
一方、蜘蛛に対処できる程度の者たちは、勝手に単独行動を始める始末。
「鬼を倒せば事態は収まる」と判断したのだろうが、君たちでは力不足なんだよ!
そう叫びたかったが、ぐっと堪えた。
操っている鬼の居場所はわかっていた。
けれど、少し距離がある。
鬼の頸を斬るまで、この人たちが生き延びられるだろうか?
目の前の命を、見捨てることはできなかった。
だから僕は、彼らを守りながら一度撤退することにした。
この場で実力を示した僕の判断に、異を唱える者はいなかった。
というか、自己主張の強い者たちはすでに単独行動を始めていたし。
下山していると、ちょうど炭治郎と伊之助の二人が現れた。
骨折が治ったことで、那田蜘蛛山へ急行するよう緊急指令が出たらしい。
ナイスタイミング!
僕はそう思いながら、二人に「人を操る鬼」の討伐を託した。
隊士たちを守り、無事に下山を終えた後、僕は再び山へと戻った。
その時、柱レベルの強者が二人、この山に向かってくる気配を感じた。
「とりあえず、原作通りに進めるか」
そう思った。
かまぼこ隊の三人は、原作のこの時期よりも実力が上がっている。
何とかなるだろう――そう判断した。
でも、やっぱり心配だったので、様子を見に行くことにした。
山を歩いていると、何人かの鬼殺隊士の犠牲者を見つけた。
僕たちとは別に、この山へ派遣されていた隊士たちがいたらしい。
彼らの犠牲が、柱をこの地に送り込むきっかけとなったのだろう。
伊之助たちは、人を操る鬼の討伐には成功したようだった。
しかし、二人の姿は見当たらない。
どこにいるのかと山中を探していると、伊之助が縄で吊るされているのを見つけた。
吊るされている伊之助は、なぜか妙に可愛らしく見えて、しばらくぼんやり眺めていた。
すると彼が僕に気づき、叫んだ。
「子分!俺を助けろ!!」
名残惜しさを感じながらも、僕は縄を解こうとした。
しかし、これが驚くほど固く縛られていて、どうにもならない。
「親分!解けません!!」
そんなやり取りをしていると、隠の人たちがやってきた。
どうやら、下弦の鬼はすでに討伐されたらしい。
隠の人は手際よく縄を解き、伊之助を蝶屋敷へと運んでいった。
その鮮やかな動きに、僕は少し驚いていた。
怪我人を運ぶ隠の後を追いながら、ふと考える。
――あれ?今回、僕って何もしてないかも。
***
その後、僕は蝶屋敷で伊之助の傍にいた。
善逸が運び込まれたのはそれよりも後で、さらに遅れて炭治郎が隠によって連れてこられた。
――ああ、柱合裁判があったんだな。
そう思った僕だったが、炭治郎はどこか混乱している様子だった。
気になって、理由を尋ねてみると、彼はぽつりと語った。
柱合裁判の場で、「竈門ひかり」という人物から竈門家宛ての手紙が読まれたという。
その内容に、炭治郎はひどく動揺していたらしい。
僕は思わず固まった。
――ああ、あの手紙か。
えっ、残ってたの!?って、声が出そうになった。
もし現存していた場合、柱合裁判で読まれる可能性は予想していた。
でも、まさか本当に読まれるとは。
しかも、僕が再び転生して、大正時代で生きているなんて――誰がそんな展開を想像できただろう。
あの手紙は、前世の僕が竈門家に宛てて書いたものだった。
死を覚悟して、感情のままに綴った手紙。
「もう死ぬから色々書いちゃえ!」と暴走気味に書いたせいで、今となっては黒歴史そのものだ。
その手紙を読まれたと知った瞬間、僕はもだえ苦しんだ。
「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
心の中で叫びながら、伊之助のベットに顔を埋めた。
あの手紙、どこかで燃えててほしかった……。
いや、むしろ誰かに燃やしてほしかった……。
情報が伝わったのは嬉しい。
でも、僕がいないところでやってほしかった。
なんで転生しちゃってるんだよ、僕。
理不尽な怒りが、じわじわとこみ上げてくる。
誰が悪いわけでもない。
でも、なんかもう、全部が恥ずかしい。
そして僕は強く決意した。
絶対に、僕の前世が「竈門ひかり」だとはバレないようにしよう。
……まぁ、転生なんて誰も想像してないだろうし。
お館様でも無理だよね。たぶん。きっと。お願いだから。
あの手紙の筆跡が僕の癖と一致してるとか、
炭治郎が「藤宮さんって、ひかりさんの手紙の言い回しにそっくりなんです」って言い出すとか――
そういう展開、全部、来ないでほしい。
来たら僕、もう蝶屋敷の庭に穴掘って埋まるから。
主人公、憐れなり。
余談ですが、なんか、主人公を某抜刀斎の世界に転生させたくなってきた。
鬼滅の大正ではなく、るろうにの明治に転生。
そのうち、外伝を書くかも?