これからは、一人称を僕で統一していきます。だんだんと”俺”はなくなっていき、ついにはメス堕ち?の予定。
それはともかく、今回は縁壱に弟子入りします!
どうぞお楽しみください。
生まれてきた赤ん坊は、”すみれ”と名付けられた。
小さな命。柔らかな泣き声。すやこさんの腕の中で、藤色の布に包まれていた。
炭吉さんは、すやこさんの手を握りながら、何度も
「ありがとう」
と呟いていた。
俺は、その光景を見ていた。胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「……生まれたんだ」
それだけ言うのが精一杯だった。
僕は“僕”のままで、姉としての、女としての実感はまだ遠い。
でも、確かにこの家に守るべき新しい命が生まれた。
***
その夜、囲炉裏の火が静かに揺れていた。
炭吉さんがすみれさんを寝かしつけ、すやこさんは疲れた体を休めていた。
僕は、外の空気を吸いに縁側に出た。
そして、そこに――彼はいた。
継国縁壱。僕の叔父。作中最強の男。
月明かりの中に、音もなく立っていた。
僕は、言葉を探していた。
父の名を出すべきか。
剣を教えてほしいと願うべきか。
でも、何も言えなかった。縁壱さんの目が、すべてを見ていたからだ。
そして、縁壱は言った。
「……名前は?」
縁壱さんは静かに聞いてきた。僕は
「ひかり」
とだけ答えた。すると、縁壱さんは
「そうか」
とだけ言って、縁側に腰を下ろした。
僕は、隣に座った。沈黙が、風の音と混ざって流れていく。
僕は、言うべきか迷った。でも、すみれの泣き声が遠くから聞こえたとき、決意した。
「……僕は、継国巌勝の娘です」
縁壱は、何も言わなかった。
ただ、月を見ていた。
「……あなたの、姪です。たぶん。父は、僕を、僕たちを置いて消えました。そのことは気にしてません。でも、僕は……鬼の存在を知ってしまった。死にたくないと、鬼を恐怖した。だから、強くなりたい。剣士になりたい。だから、あなたに、強くなる方法を教えてほしい」
沈黙が、長く続いた。風が、藤の花を揺らした。縁壱は、立ち上がった。
そして、言った。
「……明日の朝。外で待ってる」
それだけ言って、彼は闇に消えた。
***
翌日、夜が明ける前、僕は庭に立っていた。
木刀を握り、息を整える。縁壱さんは、すでにそこにいた。
月がまだ残る空の下、彼は何も言わず、ただ一度だけ頷いた。
それが、稽古の始まりだった。
縁壱さんは、言葉を使わない。構えを見せ、動きを示す。僕は、それを真似る。
間違えたときは、その少ない言葉で指摘してくれた。
呼吸を整え、足を運び、木刀を振る。
縁壱さんの動きは、風のようだった。
僕の動きは、まだ土のように重かった。
でも、確かに――体が変わっていくのを感じた。
稽古が終わると、僕は家に戻る。
すみれが、すやこさんの腕の中で笑っていた。小さな手、小さな声。
その存在が、家の空気を柔らかくしていた。
「すみれちゃん、ひかりお姉ちゃんだよぉ~」
すやこさんが笑いながら言う。
僕は、すみれの前でしゃがみ込む。
「……すみれ。僕だよ」
お姉ちゃんだよ、とは言えなかった。
けど、すみれは、くすっと笑った。その笑顔に、胸がぎゅっとなった。
守りたい。
この命を、絶対に守りたい。
剣を振る理由が、一つ増えていくのを感じた。
夜、囲炉裏の火を見つめながら、僕は思った。
縁壱さんの剣は、誰かを守るためのものだった。
すみれの笑顔は、守られるべきものだった。
僕は、女として生きている。でも、僕の中には、男だった”俺”がいる。男にも、女にも、どっちにもなれない中途半端な”僕”。それでも、そんな僕を炭吉さんとすやこさんは受け入れて入れた。
だから、僕は、僕のまま頑張ろうと思えた。
***
side:縁壱
鬼を斬った。
山の奥に巣食っていた、飢えた鬼。
刀を抜き、呼吸を整え、斬った。
それだけのことだった。
斬ったあと、足が勝手に向いていた。
かつて住んでいた家。
藤の花が咲く、静かな場所。
囲炉裏の火が見えた。
人の気配。
命の匂い。
私は、戸を叩かずに入った。
中にいたのは、三人。
男。女。子ども。
炭吉。すやこ。ひかり。
彼らは驚いた顔をした。
すやこが苦しんでいた。
命が生まれようとしていた。
炭吉が動揺していた。
ひかりが、泣きそうな顔で手を握っていた。
私は、言った。
「落ち着け」
そして、外に出た。
産婆の居場所は知っていた。
山道を越え、呼びに行った。
戻ったとき、すやこはまだ苦しんでいた。
ひかりは、手を握り続けていた。
炭吉は、湯を沸かしていた。
産婆が命を取り上げる間、私は囲炉裏の火を見ていた。
静かだった。
命が生まれる音だけが、家を満たしていた。
そして、朝。
産まれた。
女の子。名は、すみれ。
炭吉が「ありがとう」と何度も言った。
すやこが、すみれを抱いていた。
ひかりが、泣きそうな顔で「生まれたんだ」と言った。
私は、一言だけ呟いた。
「……よかった」
それだけを呟いた。
月が高く、風が静かだった。
俺は、縁側に立っていた。
ひかりが、隣に座った。
透き通る世界が、彼女を映していた。
揺れていた。
性。記憶。願い。
“僕”という一人称にしがみつく、過去の名残。
だが、その奥に――剣を握る理由があった。
私は、静かに言った。
「……名前は?」
「ひかり」
「そうか」
それだけ言って、座った。
沈黙が、風の音と混ざって流れていく。
ひかりは、言った。
「……僕は、継国巌勝の娘です」
私は、頷かなかった。
否定もしなかった。
ただ、月を見ていた。
それは、すでに知っていたことだった。
透き通る世界が、彼女の血を映していた。
巌勝の剣の気配。
その奥に、まだ誰にも触れられていない“思い”があった。
「……あなたの、姪です。たぶん。父は、僕を、僕たちを置いて消えました。そのことは気にしてません。でも、僕は……鬼の存在を知ってしまった。死にたくないと、鬼を恐怖した。だから、強くなりたい。剣士になりたい。だから、あなたに、強くなる方法を教えてほしい」
沈黙が、長く続いた。
風が、藤の花を揺らした。
私は、立ち上がった。
そして、言った。
「……明日の朝。外で待ってる」
それだけ言って、闇に消えた。
朝。
庭に立つ。
月がまだ残る空。
ひかりが、木刀を握っていた。
私は、型を見せた。
言葉はない。
動きだけ。
ひかりは、真似た。
ぎこちない。
だが、目は真っ直ぐだった。
「……肩の力を抜く」
私は、背に手を添えた。
彼女の呼吸が乱れていた。
「……吸って、止めて、吐く。斬るときに吐く」
ひかりは、頷いた。
木刀が、空を裂いた。
風が、少しだけ震えた。
「……今のは、よかった」
彼女は、目を見開いた。
そして、少しだけ笑った。
鍛錬の後、家に戻った。
囲炉裏の火が揺れる。
すみれが、すやこの腕の中で笑っていた。
炭吉が、湯を沸かしていた。
ひかりが、すみれの前でしゃがみ込んでいた。
「……すみれ。僕だよ」
その声は、優しかった。
“姉”という言葉は使っていなかった。
でも、守りたいという気持ちは、確かにそこにあった。
透き通る世界が、彼女の決意を映していた。
私は、何も言わなかった。
ただ、この幸せを見ていた。
それで、十分だった。
今回は、主人公以外の視点を入れてみました。
縁壱を書くのは難しかったのですが、継国縁壱を精一杯表現してみました。
これからもよろしくお願いします。
ちなみに、原作で出産時の竈門夫婦を襲った鬼は、縁壱が竈門家を襲う前に倒してしまったということにしました。そのため、前話を大幅に変えることはなくなりました。お騒がせしました。すいません。