今回は戦闘描写を頑張りました。
縁壱さんが僕に修行をつけ始めて、一年が経った。
剣の振り方も、光の呼吸も、僕の中に少しずつ染み込んできた。
あれは、縁壱さんが僕に修行をつけてくれた日、その次の日の朝のことだった。
朝靄の中、近隣の村の人が駆け込んできた。
「熊が出た。隻眼の、巨大な熊だ」
と。
僕の胸がざわめいた。あれは、まだ生きていたのか。
僕は薪割り用の斧を手に、僕は村へ向かった。剣士としてではなく、修行の証明として。
村の近くの森、その奥の木々が途切れたひらけた場所。
地面には古い爪痕が残り、風が静かに葉を揺らしていた。
そこに、KUMAはいた。隻眼の巨体。
あの日の敗北が、今、形を変えて立ちはだかる。
僕は斧を握りしめる。
縁壱さんは今、いない。彼がいつ竈門家を訪れるかはわからない。
でも、僕は、戦える!
「僕は、もうあの日逃げた僕じゃない!今度こそ、勝つ!」
異常な巨躯、片目に刻まれた古傷。KUMAは、僕の視線を捉えると、低く唸った。
***
KUMAが咆哮とともに突進してくる。
「グオオォォオオオッ!!!」
地響きのような咆哮が森を揺らす。
「光の呼吸 肆ノ型 月影」
僕は地を滑るように動き、月影のように静かに背後へ回り込む。
木漏れ日の影を利用し、気配を消す。
一撃。背中に浅く斧を叩き込む。
だが、KUMAは振り返りざまに巨腕を振るい、僕の脇腹を掠めた。
痛みが走る。距離を取る暇もなく、再び突進。
僕は咄嗟に斧を傾け、太陽光を反射させる。
「光の呼吸 壱ノ型 光閃!」
——閃光がKUMAの視界を奪う。
その隙に間合いを詰め、一閃。
だが、熊は反射的に腕を上げ、致命打にはならなかった。
KUMAが怒りに任せて暴れ始める。
「グルルルル……ガアアアアアッ!!」
僕は地を蹴り、高速で移動した。
「光の呼吸 弐ノ型 流星群!!」
複数の斬撃が群れとなって降り注ぐ。
一撃、二撃、三撃——熊の巨体に浅い傷が刻まれていく。
「ギャアアアアッ!!」
しかし、KUMAの皮膚は異常に硬く、斧が跳ね返される。
反撃の爪が風を裂き、僕の肩を掠める。
血が滲む。息が乱れる。
そこで、KUMAは爪で僕を裂こうと、振り下ろした。
「光の呼吸 参ノ型 陽環!!」
円を描くように斧を振るい、陽の光を纏う。
KUMAの爪が円を裂こうとするが、僕の呼吸がそれを逸らす。
守るための光。僕は一歩も退かない。
KUMAが息を荒げ、隻眼をぎらつかせる。
「グオ……ォォ……」
僕は再び光閃を放つ。
「光の呼吸 壱ノ型 光閃!!」
今度は、斜め上から反射させ、KUMAの視界を完全に奪う。
その瞬間、僕は地を強く蹴り、間合いを詰めた。
だが、KUMAは気配だけで僕の動きを察知した。
「グォオオッ!!」
斧がKUMAの腕に弾かれ、僕は地面に転がる。
呼吸が浅くなる。視界が揺れる。
僕は立ち上がる。
「まだだ、まだ終われない」
「光の呼吸 弐ノ型 流星群!!」
軌道を変え、熊の足元を狙う。
KUMAが体勢を崩した瞬間、間合いを詰めて、一閃。
「光の呼吸 壱ノ型 光閃!!」
三度目の閃光が森を裂く。
KUMAの隻眼が光に焼かれ、僕の斧がその胸元に叩き込まれた。
KUMAが呻き、膝を折る。
「……ハァ……ハァ……」
僕は息を吐いた。光と影が交差する中、戦いは終わった。
「勝ったぞぉぉぉおおおぉぉぉぉおおおおお!!」
そして、意識を失った。
***
目を覚ましたとき、天井の木目がやけに鮮明だった。
身体は重く、腕にはまだ斧の感触が残っていた。
何日眠っていたのかもわからない。けれど、空気が違っていた。
「やっと……目ぇ覚ましたか!」
すやこさんの声が、泣きそうな怒りで耳に飛び込んできた。
彼女は湯呑みを持ったまま、目を潤ませていた。
炭吉さんは腕を組み、眉をひそめていた。
「薪割り用の斧で熊と戦ったって……お前は馬鹿か!?」
すやこさんが言葉を継ぐ。
「鍛錬に励んでるのは知ってるよ。縁壱さんの教えを真剣に受けてるのも、見てる。でもね、それでも、あんたはまだ子供だよ。命を張る前に、大人を頼りなさい」
二人の声は怒っていた。
けれど、その怒りの奥には、僕が生きて帰ってきたことへの安堵が滲んでいた。
僕は何も言えず、ただ布団の中で目を伏せた。
「……ごめんなさい」
それだけが、やっと絞り出せた言葉だった。
すやこさんはため息をついて、そっと湯呑みを置いた。
炭吉さんはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。
「……でも、よく頑張った」
そのとき、縁側から静かな足音が聞こえた。
縁壱さんが、竈門家を訪れていた。
僕が目を覚ましたのを見て、ゆっくりと立ち上がる。
何も言わず、枕元に来て、そっと頭に手を置いた。
「……よくやった」
それだけだった。
でも、その言葉は、あのKUMAの咆哮よりも深く、僕の胸に響いた。
僕は何も言えなかった。
ただ、縁壱さんの手の温もりを感じながら、目を閉じた。
***
翌日の朝。
目を覚ましたとき、胸の奥が静かだった。
あの咆哮も、あの爪も、もう夢の中には現れなかった。
痛みは残っている。肩も脇腹も、まだ鈍く疼く。
けれど、あの時感じた“喉の奥が凍るような恐怖”は、もうなかった。
僕は布団の中で、拳を握ってみる。
その感触は、あの斧を振るった時の重みと同じだった。
でも違うのは、あの瞬間——僕は逃げなかった。
足が震えても、心が揺れても、僕は立ち向かった。
「……怖かった」
声に出してみる。
「でも、僕は……逃げなかった」
その言葉が、胸の奥に静かに沈んでいく。
まるで、呼吸の一部になったように。
縁壱さんの「よくやった」という言葉が、頭に残っていた。
あれは技を褒めたんじゃない。
僕が“恐怖を越えた”ことを、見てくれていたんだ。
僕はそっと布団をめくり、縁側へ向かう。
朝の光が差し込む庭には、薪割り用の斧が立てかけられていた。
その刃先に、乾いた血がこびりついている。
僕は斧の柄に手を添え、静かに目を閉じた。
もう、あの日の俺じゃない。
恐怖は、僕の中にある。
でも、それに負けない自分も、確かにここにいる。
斧で熊を倒したのは、竈門炭十郎を意識しました。
※復習も兼ねて、原作を読み返していたら、巌勝の鬼化はまだ先でした。すみれが生まれた2年後に、巌勝が鬼化していました。すいません。勘違いしていました。前話と今話は書き直します。
また、次回は刀と父娘対面と鬼殺隊入隊ができたらいいなぁ。(9月3日 15:57)
諸々の修正が終わりました。前話と今話の始めの部分を変えました。色々すいません。
これからもよろしくお願いします。(9月3日 16:46)