継国の娘   作:毎日読書

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一人称視点と三人称視点が混ざっています。わかりづらくてすいません。

また、父親と対面させたくて、継国巌勝を出しちゃいました。
その関係で、前話と前々話を修正。さらに、主人公の年齢も変更しました。
色々と、迷惑をかけて、すいません。(9月4日 9:00)


継国巌勝

 数日が過ぎ、ちょうど、ひかりが寝ているときの昼間であった。

 縁壱は再び竈門家を訪れた。

 その背には、どこか無言の重みが漂っていた。いつも以上に深い静けさをまとった彼は、縁側に腰を下ろし、湯呑みに口をつけると、しばらく庭を黙って見つめていた。

 

 炭吉とすやこは、その異様な静けさに気づき、何も言わずに彼の隣に腰を下ろした。

 間もなく、縁壱が静かに口を開いた。

 

 「ひかりを、鬼殺隊に迎え入れたいと思っています」

 

 その言葉に、すやこは驚きのあまり湯呑みを手から滑らせ、炭吉は眉をひそめた。まだ幼いひかりを戦場に送り込むのか――。

 

 「まだ、子供です。あの熊との戦いだって、命を落としかけたばかりで――」

 

 縁壱は静かに頷き、目を閉じた。

 

 「だからこそ、ひかりには守る力を与えなければなりません。恐怖を乗り越え、立ち向かう勇気を持っていた。ひかりは、いざという時に闘いに行ってしまいます」

 

 すやこはひかりの寝顔を思い浮かべながら、唇を噛んだ。その小さな命を戦いの中で失ってほしくないという母親の気持ちが溢れた。

 

 「でも…鬼殺隊は、熊より強い鬼と闘う場所じゃないですか…」

 

 縁壱は、ゆっくりと湯呑みを置き、静かな声で言った。

 

 「私が責任を持って導きます。ひかりは私の――いや、日柱としての継子です。彼女の力を最大限に引き出し、導くのが私の役目」

 「それと、ひかりには、当分の間、見習いとして私の屋敷で修行してもらおうと思っています。私の屋敷には多くの隊士が出入りしている。技だけでなく、心の在り方や人の想いに触れるには、ちょうどよい場所です」

 

 その言葉に炭吉は少しの間黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

 「……あいつが、自分で決めたなら、俺たちは見守るしかないのかもしれないですね」

 

 すやこは目を伏せ、静かに頷いた。

 

 ***

 

 その夜、縁壱さんは僕に向かって、静かな声で告げた。

 

 「ひかりの剣は、誰かの闇を照らす力になる。鬼殺隊に入らないか?当分の間は見習いとしてだが」

 

 僕は一瞬驚いた。しかし、心の奥底でその言葉を待ち望んでいた自分がいるのを感じていた。

 

 「……はい。僕、行きます」

 

 その答えに、縁壱さんはほんの少しだけ微笑んだ。

 

 その後、日輪刀が届いたのは、穏やかな昼下がり。

 訪れてきた鍛冶師は、やはりひょっとこの面を着けていた。鍛冶師が風呂敷に包まれた刀を縁側に置くと、空気が一瞬張り詰めた。

 

 「これが……僕の刀」

 

 僕はそっと風呂敷をほどき、黒鉄のような刃を見つめた。その刃は、まだ色も輝きも持たない金属の塊にすぎなかった。しかし、縁壱さんは静かに言った。

 

 「抜いてみなさい。刀は、色が変わる」

 

 僕は深呼吸をし、刀の柄に手を添える。炭吉さんとすやこさんがその様子を見守る中、僕が刀を抜いた瞬間、刃に光が走った。

 

 黒鉄だった刀身が、淡く、柔らかく、金色に染まっていく。その光は、まるで太陽が刃を包み込んだような、温かく優しい輝きだった。

 

 炭吉は目を細めて言った。

 

 「……淡い金色……」

 

 すやこさんはその美しい光を見て、思わず息を呑んだ。

 

 「きれい……まるでひかりちゃんそのもののよう」

 

 縁壱さんは、僕の手元を見守りながら、静かに頷いた。

 

 「初めて見る色だな。だが、良い色だ。」

 

 僕はその言葉を胸に、刀を構え、庭に一歩踏み出す。陽光が刃に反射し、草木に淡い光を落とす。

 

 「光の呼吸 壱ノ型 光閃」

 

 剣を振るうと、残光が庭に一筋の軌跡を描いた。それはまるで、ひかりの道が照らされているようだった。

 

 その後、僕は竈門家での静かな日々を過ごした。すやこさんは少し多めにご飯をよそい、炭吉さんは薪割りの合間に剣の構えを見てくれた。縁壱さんは短い時間であったが、光の呼吸をさらに磨く手助けをした。

 

 その静かな日々の中で、光は自分の進むべき道を確信していった。刀を抜くたびに、淡い金色の光が庭に差し込み、その光はひかりの中の「何か」を照らし続けていた。

 

 「この刀で、僕は生き延びる。そして、みんなも守る」

 

 その思いが胸の奥で確かな光となり、僕は決意を新たにした。

 

 

 ***

 

 日柱が最近、頻繁に屋敷を離れていることは、鬼殺隊の中で密かな話題となっていた。任務ではない。だが、どこかに向かっているような足取りだった。

 

 そんな中、日柱が一人の子供を連れて屋敷に戻ったことで、隊士たちの間にざわめきが走った。継子――それも、まだ幼さの残る少女。縁壱が呼吸の伝授のために多くの隊士と関わっていたこともあり、噂は瞬く間に広がった。

 

 「日柱が継子を取ったらしい」 「しかも、あの子……巌勝様に似ている」 「いや、縁壱様にも似てる。まさか……隠し子?」

 

 僕はそんな噂が広がっていることなど知らず、縁壱さんも気づかぬまま、屋敷で静かな修行の日々を過ごしていた。光の呼吸を磨き、刀を振るい、縁壱さんの背中を追いかけるだけの、穏やかな時間。

 

 だが、その静けさは長くは続かなかった。

 

 ある日、屋敷の門が重く開き、月柱・巌勝が姿を現した。彼は縁壱さんにそっくりであったため、僕はすぐに父だと気が付いた。彼の足取りは重く、目は鋭く、何かを確かめるように僕を見つめていた。

 

 「……あれが、噂の継子か」

 

 低く、抑えた声。巌勝さんは、じっと顔を見つめた。縁壱さんは一歩前に出て、静かに言った。

 

 「そうだ。私の継子だ」

 

 そのとき、僕は庭で型の稽古をしていた。けど、縁壱さんは振り返り、僕の目を見て言った。

 

 「ひかり。少し、屋敷の中で休んでいなさい」

 

 その声は穏やかだったが、どこか張り詰めたものがあった。僕は振り返り、縁壱さんの目を見た。そこには、いつもと違う静けさが宿っていた。

 

 「……はい」

 

 僕は素直に頷き、刀を納めて屋敷の中へと戻った。縁壱さんは僕の背を見送りながら、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

 

 ***

 

 巌勝はしばらく黙っていたが、やがて言葉を絞り出すように口を開いた。

 

 「隊の中で、あいつは私か、お前の子だって噂されてる。俺たちの顔に似てるからだ。お前が何も言わないから、余計に尾ひれがついてる」

 

 縁壱は目を伏せ、庭の光を見つめながら答えた。

 

 「噂は風のようなものだ。止めることはできない」

 

 巌勝は黙ってその言葉を聞いていた。だが、次の一言で、その表情がわずかに揺れた。

 

 「それに、ひかりは兄上の子供だ。私の子ではない」

 

 その瞬間、空気が張り詰めた。巌勝の眉がわずかに動き、拳がゆっくりと握られる。

 

 「……何を言っている」

 

 声は低く、だが確かに震えていた。縁壱はその動揺に気づいていないのか、あるいは気づいた上で、あえて静かに続けた。

 

 「ひかりとは、約半年に会った。そして、力がついてきたので、ここに連れてきた」

 

 巌勝は言葉を失った。そして、ぽつりと言葉をもらした。

 

 「……そんなことを、なぜ今まで黙っていた」

 

 縁壱は湯呑みに手を添え、静かに答えた。

 

 「言葉にすれば、余計な混乱を生む。それに、兄上が妻子から離れたのは事実だ。だが、兄上とひかりが会った今なら、伝えるべきだと思った」

 

巌勝はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと息を吐いた。

 

 「……あいつが、私の子だというなら……俺は、どうすればいい」

 

 縁壱はその問いにすぐには答えず、ただひかりの剣が置かれた縁側を見つめた。

 

 ***

 

 屋敷の中に戻った僕は、縁側から少し離れた部屋で静かに座っていた。障子の向こうから差し込む光は穏やかだったが、外の空気はどこか張り詰めていた。

 

 縁壱さんの声――あの、少しだけ硬さを含んだ「休んでいなさい」という言葉。

 

 僕はしばらく、無意識のうちに拳を握りしめていた。指の間から血が滲むような、冷徹な痛みが伝わる。心の中で何かが引き裂かれ、無意識に力が入っていた。

 

 外の風が、障子越しに静かに部屋を撫でる。遠くから聞こえる足音、誰かが通り過ぎる音、それが妙に大きく感じられた。縁壱さんと巌勝さんのやり取りが、わずかに聞こえる。言葉の端々から感じたのは、二人の間にある、言葉にできないほどの複雑な感情だった。

 

 巌勝さんと会ったとき、僕は自分がどんな顔をしていたのだろう。父と呼べる人が目の前に現れて、僕はどう感じているのだろう。

 

 ただ、答えは出なかった。僕はただ、目の前の光を見つめるしかできなかった。

 

 そんな時、屋敷の扉が開く音がした。誰かが戻ってきたのだろう。足音が近づいてくる。ひかりとしての一歩を踏み出すことに、少しの勇気を持たなければならないのだろうか。――いや、僕にはまだその勇気が足りない。

 

 その時、縁壱さんの静かな声が響いた。

 

 「ひかり」

 

 その一言で、僕ははっと顔を上げた。

 

 障子がゆっくりと開いた。光が差し込み、そこに立っていたのは、縁壱さんと――巌勝さんであった。

 

 彼は、僕の顔を見て、ほんの一瞬だけ目を細めた。何かを探すように、何かを確かめるように。

 

 僕は立ち上がることもできず、ただ座ったまま、彼の姿を見つめていた。父と呼ぶには遠すぎて、けれど血の繋がりは否定できない。そんな存在が、今、目の前にいる。

 

 「……初めて、こうして向き合うな」

 

 巌勝さんの声は、思ったよりも低く、そして静かだった。怒りも、喜びも、戸惑いも含まれていない。ただ、事実を述べるような声。

 

 僕は何も言えず、唇を噛んだ。縁壱さんの声が、まだ耳に残っている。「休んでいなさい」――その言葉の裏にあった、僕を守ろうとする気配。

 

 「お前の名は……ひかり、だったか」

 

 僕は、こくりと頷いた。声が出なかった。喉の奥が、何かで塞がれているようだった。

 

 巌勝さんは、少しだけ視線を落とし、そして言った。

 

 「母親の面影がある。……いや、それだけじゃない。お前の目は、縁壱に似ている」

 

 その言葉に、僕の胸がざわついた。縁壱さんに似ている――それは、僕にとって誇らしくもあり、同時に重たいものでもあった。

 

 「僕は……」

 

 ようやく声が出た。

 

 「僕は、あなたに会うのが少し怖かった」

 

 巌勝さんは、少しだけ眉を動かした。驚いたのか、それとも予想していたのかは分からない。

 

 「…そうか」

 

 巌勝さんは、わずかに目を伏せて言った。その声には、責めるでも慰めるでもない、ただ事実を受け止める静けさがあった。

 沈黙が落ちた。障子越しの風が、再び部屋を撫でる。遠くで鳥の声がした。

 

 「でも……」

 

 僕は言った。

 

 「僕は、あなたと話してみたかった。父としてじゃなく、あなた自身と」

 

 巌勝さんは、目を伏せたまま、しばらく黙っていた。そして、静かに言った。

 

 「それなら、話そう。ただ、縁壱は席を外してくれ」

 

 その言葉に、縁壱さんは頷き、席を外した。

 

 ***

 

 沈黙の中、障子越しの光が少しずつ傾いていく。部屋の空気は静かだったが、僕の胸の内は波打っていた。

 

 巌勝さんは、何も言わずにそこにいた。ただ、僕の言葉を待っているようだった。

 僕は、膝の上で指を組み直し、ゆっくりと息を吐いた。言わなければならない。今、この瞬間に。

 

 「……ひとつ、言っておきたいことがあります」

 

 巌勝さんの視線が、静かに僕に向けられる。

 

 「僕は……あなたを、父としては見られません」

 

 言葉が落ちた瞬間、部屋の空気が少しだけ揺れた。障子越しの光が、わずかに陰る。

 

 「まだ、そう呼んだこともありません。でも、僕には――優しいお養父さんと、お養母さんがいます。僕を育ててくれた人たちです。だから……その場所には、もう誰も入れないんです」

 

 巌勝さんは何も言わなかった。ただ、静かに目を閉じていた。

 

 「あなたが僕の血の父であることは、否定しません。それは事実です。だから、こうして話せていることに多少の喜びを感じています。でも……それ以上のものを、僕は持てない」

 

 沈黙が落ちる。遠くで風が木々を揺らす音がした。

 巌勝さんは、ゆっくりと目を開けた。そして、少しだけ口元を緩めて言った。

 

 「……そうか。それでいい。私も、お前に何かを求める余裕はない。俺は――縁壱の背を、ただ追いかけるだけで手いっぱいだ」

 

 その言葉には、苦笑にも似た響きがあった。憧れと嫉妬、誇りと悔しさ。そのすべてを飲み込んだような声。

 

 「お前が、誰を父と呼ぶかは、お前の自由だ。好きにしろ」

 

 僕は、何も言えなかった。ただ、巌勝さんのその言葉が、胸の奥に静かに染み込んでいくのを感じていた。




次話で時系列などを載せます。
何か色々とめちゃくちゃになっているので、整理するためです。
読みづらくて、ごめんなさい。

ただ、今まで投稿した話に関しては、もう大幅な修正は
おそらく、たぶん、きっとないです。
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