始まりはちょいシリアスですが、すぐにシリアスは無くなります。はい、今作そう簡単にシリアスにはならないっす。多分。
俺の妹は体が弱かった。
病室のベッドの上から窓の外を眺め、そこから見える風景や人々を儚げに見る妹を見るたびに、ほんの少し悲しい気持ちになった。
体が弱いことを嘆いたわけではない、それ自体は仕方のないことで、嘆いたところで変わりはしないしなんの益も生み出さないからだ。俺が嘆いたのは、妹がその現実を幼くして受け入れ切っていた事だった。
窓から外を眺める妹は安らかで、静かで、儚げで、一種の絵画のようだった。その表情には嘆きや悲しみ、悔しさと言った感情は無く、まるで全く別の場所から物語の中で飛び回る鳥や子供達を見るかのような、そんな優しげな顔だった。
そんな顔しないでくれ、お前は受け入れてはいけない、お前だって走り回れる、飛んだり跳ねたりできる、そう思っていてほしいし、願っていて欲しい。
今はまだ、みんなと同じようには行かないけれど、いつかそんな日が来るんだって思っていて欲しい。心さえ強くあれば、人は強くあれるのだから。
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「………とかなんとか、兄ながらに思っていたんだが」
「あ?なんか言ったか?」
「いや、なにも。飛んだり跳ねたりしんてなぁ、うちの妹………て思っただけだよ」
「あぁ、那須な。アイツの鳥籠エグすぎだろ、クソゲーじゃねーか毎回」
「の割には、玲のとこより順位上じゃないか。僅差とはいえ、この試合も勝ってる」
「ったりめーよ!そう簡単に負けてやるかってんだ」
隣に座り、火のついていないタバコを咥えながらドヤ顔を見せ付けてくるこの男は諏訪洸太郎、B級諏訪隊の隊長で、大学の友人だ。
今は2人でランク戦のログを見返していた所だ。ついこの前の諏訪隊、那須隊、荒船隊の物だ。
この試合の中で異才を放っていたのは那須玲、那須隊の隊長にして、俺の妹だ。試合の中で玲はシューターという主にサポートに特化した動きを求められるポジションながら、フィールド内を駆け回り、身軽な動きと計算された射撃能力で得点を挙げていた。
たしか、そろそろマスタークラスが見えてきている頃合いだと言っていた。全く恐ろしい妹である。
3年ほど前、俺や玲が住む三門市に突如として「ネイバー」と呼ばれる化け物達が降り立ち、街と人を蹂躙した。それらの侵攻を食い止め、この先も奴らを排除し、街を防衛するために設立されたのが「ボーダー」という組織で、俺も今はそこの隊員として働いている。俺は設立当初から、玲は一年ほど前からボーダーにお世話になっているわけだが、玲に関しては少々特殊だ。
というのも、玲は試験的な目的でボーダーに入隊を打診された。その試験とは、「トリオン技術によって、体の弱い人の治療はできるのか」というもの。そして、トリオン体という新たな体を得た玲は、まるで今まで動けなかった分を取り返すかのように縦横無尽に戦場を駆けまわっている。
とはいえ、ランク戦の後は少々辛そうだし、作戦会議の時はチームメイトがわざわざ那須家に足を運んでくれている状況だ。まぁ兄としては、仮初の肉体であろうと、好きに動けているという事を喜ばしく思っている。
ログを見終わり、そろそろお暇しようかと思っていると突然隊室の扉が開いた。そこに立っていたのは、ボーダーの華であるオペレーター用の服に身を包んだ女子が2名。
「お、高雅さんだぁ。お疲れ様でーす」
「お疲れ様です、那須さん。諏訪さん、本返しにきた」
諏訪隊オペレーター、自称まあまあアホの小佐野瑠衣と、最近オペレーターに転向したという草壁早紀だった。
「あぁ、お疲れ様。まぁそろそろお暇するんだけども」
「お前もう読んだのかよォ!早ぇなぁオイ」
実は諏訪洸太郎という男は、こんなチンピラみたいな風貌をしてはいるが趣味のひとつが読書、特にミステリーが好きらしい。趣味が合う草壁とは良く、おすすめを貸しあっているらしい。全く人は見た目だけでは判断できないものだなと思う。
「えぇ〜高雅さん帰るんですか?この後何か予定あるとか?あ、彼女さんとか?」
「違うっての、この後防衛任務なんだよ。今日は………確か加古隊とだったかな?」
「加古隊………そういえば那須さん、加古さんから入隊を誘われたそうですね」
先程まで諏訪と話していたはずの草壁が加古隊という言葉に反応してそんな話を投げてきた。
あー、やっぱりそういう話はすぐに広がるんだな。まぁ有名だもんな、加古が自分の隊に誘う条件。
「知ってたのか………あぁ、誘われたよ」
「断ったと聞いてます」
「あぁ、断った」
「何故ですか?那須さんであれば、A級でも十分通用すると思いますよ」
「それに固定給も出るじゃないですか〜」
「俺はこのままが性に合ってるんだよ………あ、もうこんな時間か、じゃあな、お三方」
「おぉ、また大学でな」
俺は半ば逃げるような形で諏訪隊の隊室を後にした。あくまで逃げるようにだ、逃げているわけではない。
少し小走りで急ぎながら、俺は今日の合同防衛任務の相手である加古隊の隊室に向かった。予定されていた時刻を少々過ぎてしまった。さてどうやって謝ろうかと考えていたら、いつのまにか隊室についてしまった。
まぁ、素直に謝れば許してくれるだろう。そのはずだ。もう嫌だぞ、加古のアレを食うのは………。
「俺は先輩なわけだし?少しくらい多めに見てくれるだろう、加古炒飯パチンコはなんとか回避しなければ………」
「あら、私の炒飯が何ですって?」
俺が扉を開けるより少し早く扉が開かれた。そして俺の目の前に立っていたのは、女性にしては高い身長と抜群のスタイルに加えて、妖艶な顔を持つボーダー屈指のシューター、加古望その人だった。
「…………お、遅れてしまって申し訳ない」
「全然良いのよ、那須さんが遅れるなんて滅多にないし何かあったんじゃないかと心配したくらい」
何故だろう、その笑顔にいつもより影が差しているように見えるのは……………
まぁとはいえ、許してくれるらしいし?ここはさっさと打ち合わせをしよう、それがいい、そうしよう。
「な、ならぁほら、打ち合わせをしよう?もうそこまで時間もないだろ?」
「えぇ、そうねぇ。あー、それはそれと那須さん?」
「………………はい」
「今度時間ある時、ここに来てくれる?試してみたい炒飯のレシピがあるのよ」
頼む、当たりを引かせてくれ
防衛任務は無事終了、そして俺の命運は後日の20%に怯えるパチンコに委ねられる事になった。ちなみに、俺は運が悪いという事をここで言っておく。
那須高雅、ソロのB級隊員。
ボーダーが設立されその少し後に行われた隊員募集で入隊した、いわば古株の隊員。過去には部隊を率いた記録もあるものの、その時の隊員は既にボーダーを去っている。
当時はまだ、ボーダーという組織に対して不信感を抱く人々も多く、三門を出て行く者も多かった。ボーダーを去った隊員の多くは、両親が三門を出ると決めたからというのが大半だった。高雅の部隊の隊員達も例外ではない。
「そろそろ新しい部隊を持つか入るかしても良いと思うのよ………………だから、ね?考えてくれないかしら?」
「だ、だから…………俺はもうソロでやってくって言ってるだろ?その話はこの間終わったじゃないか」
合同任務が終わった後、俺は1人で飲みに来ていた。20歳になってから、興味もあったし人生経験だと思い、酒もタバコも初めてみたが、なかなかどうして悪くない。玲のやつはことあるごとに程々にと言ってくるので、派手にやることは今の所ないが、今日は少し気分が乗ったので1人で来た…………はずなのだが、何故か目の前には加古が着いて来ていた。まぁ確かにこの店は居酒屋ってわけじゃ無いから20歳になってない加古もふつーに入れるんだが。
というよりまぁ、俺が加古も入れて酒も飲める店を選んだだけなんだが……………。
「…………それに、1人スカウトしたんだろ?新人のアタッカー、それも凄腕を」
「えぇ、黒江双葉ちゃん。入隊直後の模擬戦闘で11秒を叩き出したわ」
「逸材だな、だがたしか4秒を出した奴もいた」
「緑川駿くんね、惜しいわねぇ。もしKの付く子だったらお誘いしたのに」
加古が自らの隊に誘う条件、それはKのイニシャルが付くこと。ボーダーでは有名な話で、Kが付いてて上に行く意欲のある奴らはソワソワしている奴も少なくない。
そして、これが俺の誘われた理由。
「…………どうしてそこまで俺にこだわる?」
「んーそうねぇ……勿体無いと思ったからかしら」
「勿体無い?」
「ええ、勿体無い…………私がボーダーに入って貴方に会った時、まだ貴方は隊を率いていたけれど、その時の貴方と今の貴方、戦い方が違うじゃない」
「そりゃ1人とチームじゃ戦い方は違うものだろ?」
「そして、チームだった時の方が圧倒的に強かった」
加古はグラスをくるくると回し1口飲んだ。中身はジュースだと言うのに、中々どうして様になる。本当に年下だよな?
「俺個人としてはそこまで変わったとは思わないけどな…………で?お前が俺を誘うのは、俺がチーム戦に強いからか?」
「まぁそれもあるけど、1番は面白そうだからね。貴方を部隊に入れたとなったらみんなの反応が面白そう」
さすがは加古、「面白い」と思ったらすぐに飛びつく。まぁそれが彼女が彼女たる所以でもあるが。
「結局それか、まぁお前らしいけどさ」
「フフ………でしょ?」
「…………だが悪い、もう俺がチームを組む理由は無いんだ。アイツも、もう自分で戦えるしな。俺自身、今のこのスタンスが性に合ってる」
割と話し込んでしまった。気が付けば後輩の前でそれなりに飲んでしまっていたらしい。
手早く会計を済ませて店を出る。勝手についてきたからと加古が出そうとしていたが、流石に酒代を後輩の、しかも女子に出させるのはやばいし避けたいと思ったので、ここは先輩であり男である俺が奢ると押し通した。
「ごめんなさいね、奢ってもらっちゃって」
「奢ったと言っても、お前ジュース飲んでちょっと飯摘んだだけだったろ。それなりに良い時間だが、送って行くか?」
「大丈夫よ、それじゃまたね」
そう言って加古は去っていった。
まったく嵐みたいな奴だ。にしても、チームの方が強かったか………自覚がないと言えば嘘になるが、本当にもうチームを組む理由がない。だってもう、俺が守らなくてもアイツは戦える。ベッドの上で何もせず外を眺めていたアイツはもう居ないのだ。俺はそれを見れているだけで、もう十分なのだから。
まぁもちろん?危なくなることがあれば?俺自身の事など度外視で守るのだがね?
加古は俺を強いと言ったが、そんなの当たり前だ。
妹がいりゃ、それを守るために、兄貴は勝手に強くなるもんだ。
えー、兄者改め那須高雅の簡単なプロフィールをどぞ
那須高雅
6/6日生まれ
うさぎ座
175cm
好きなもの
妹、スポーツ全般、酒とタバコ(妹に心配されるので嗜む程度に抑えている、つもり)料理、美味いご飯屋さん巡り
嫌いなもの
妹を害する奴