第二話です、よろしく。
俺はソロ隊員故、部隊で行われるランク戦には参加できない。いやまぁオペレーターさえあれば戦闘員が1人でも部隊は組めるが、流石に1人であの戦いを勝って行くのは厳しい。そういう部隊はあるにはあるが、暗殺や撹乱に特化したトリガー構成だし、やはり俺の戦い方で1人はなかなか厳しいだろう。
そんな人間でも良質な戦闘訓練を積むことができるシステム、それこそがボーダーの誇るソロランク戦だ。
例え仮想空間内で死んだとしても、すぐにブースに戻され何度でも戦うことができる。ゲートの向こう側の世界がどうだか知らないが、多分どこの軍もこれほど効率的に戦闘訓練を積める機関はそうないだろう。
何より、このボーダーという機関は20歳以下の学生の隊員が圧倒的に多い、若者の物事の吸収率は大人のそれを遥かに凌ぐ、そんな少年兵たる彼らが若くして多くのガチバトルをこなせばどうなるかは想像に難くない。
今俺の目の前にいる隊員も、そんな効率的な訓練を積んだ結果とんでもない戦闘力に至った者の1人だ。
「珍しいね、二宮。お前がここに来るなんて」
「たまには、ソロでやるのも悪くないと思っただけだ。それに、良さそうな対戦相手も見つけた」
「ほぉ、一体誰のことかな?シューターランキング1位、総合2位のお前と張り合える奴なんて、そうはいないだろう」
「10本で良いか?」
「………先輩が遠回しに断ってるのがわからないのかな」
くそ、これはいつものようにとは行かなそうだな。
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戦闘が開始し、俺は市街地の一角に飛ばされる。さて、まずボーダー随一のゴリ押しイケイケシューターの二宮と戦うとなればこちら側が取る行動は一つしかない。
バッグワームによる隠密、潜伏だ。
二宮のトリオン数値は、ボーダー基準の数値で14。ちなみに俺は8で、この時点で倍の差がある。弾の撃ち合いに持ち込まれたらまず勝てない差だ。ちなみに、ボーダー隊員のトリオン量の平均は大体4〜6程だろう。
(二宮と撃ち合うなんて、拳銃持った強盗に丸腰で正面から突っ込むのと同義だ。勝つなら、こちらが先に二宮を補足するのが絶対条件)
俺は道路は使わずに、家から家へ、庭から庭へ、周囲の警戒を怠らず、捕捉されにくいルートを使い二宮を探して行く。
(居た………堂々と仁王立ちかよ。まぁたしかに、お前なら後手に回っても十分迎撃出来るだろうな)
だが、こちらもまともにやり合おうなんて考えていないわけだ。俺も二宮も中距離主体の戦闘員だが、近づけば近接もできる俺に分がある。それは二宮も分かっている。だからこそ、俺の初動を確実に捉えるはずだ。
二宮が俺が潜む家から目を切り、他の方角に意識を移す瞬間を見る。
「…………ここだ」
俺はすぐさま窓を破りながら飛びかかる。無論二宮は即座に反応、ポケットに手を突っ込んだ状態ですぐさまトリオンキューブを展開する。だが、こちらはしっかりと準備をした上で隙をついた。こちらの方が、撃つのは早い。
「バイパー」
俺の右手から射出されるそれは、不規則に動きながら二宮をあらゆる方向から攻撃する。
二宮は攻撃を中断、俺が放ったバイパーをシールドで防ぎにかかる。バイパーはこちらが弾道を設定しているため、前方にシールドを展開するだけでは安全とは言い難い。そのため二宮は自身を完全に覆う形でフルガードを選択、普通ここまでシールドの範囲を広げると脆くなるものだが二宮の卓越したトリトン能力なら、俺の弾を防ぐことは容易い。
二宮のシールドに俺のバイパーが着弾するとほぼ同時に地面に着地。俺が展開したバイパーは64分割、それらを計8つの纏りに均等に分配した。そして8方向から着弾を少しずつ遅らせる形で放つことで、二ノ宮はフルガードを解除できない。
「…………チッ」
「悪い癖だ二宮、初動で俺の迎撃の為に弾を放つことさえできていたら結果は逆だった」
バイパーが全て二宮のシールドに着弾し終わる頃には、既に俺は二宮のシールドの目の前まで接近している。バイパーは弾トリガーの中でも威力が低い、その上俺のトリオン量では二宮では二宮のフルガードすら打ち抜けない。だが、ここまで近づいたなら、それを破る手段を俺は持っている。
「スコーピオン」
左掌からスコーピオンの爪が3本飛び出る。拳を握り込めば、形状は手甲鉤のようになる。そのまま拳を、走った分の運動エネルギーを上乗せした状態で振り抜く、そうすれば、あれほど硬いと思ったシールドがプラスチックの如く砕かれる。
砕かれたと同時、二宮はシールドを解除。ポケットから手を抜き、その両手にトリオンキューブを生成、その速度は大した者だ。おそらくその攻撃も、速射性に限りなく振った物になっている筈だ。だが既に間合いは一足一刀。詰められて仕舞えば、シューターは脆い。
「シュッ」
「………ッ!」
二宮はバックステップをしながらの攻撃を選択したようだが、それは読めている。手甲鉤状のスコーピオンを即座に短剣に、そのまま左手を振るう。そのナイフは、真っ直ぐ二宮の胸に…………………
「なっ………!」
「フッ…………甘いな、それは読める」
なんと二宮はフルアタックを解除し、胸にシールドを展開。俺の投げスコーピオンを的確に防いだ。
「一手の差で、俺の勝ちだ」
「いいや?最後の最後、胸にのみシールドを展開した…………お前の負けだよ」
二宮は目を見開き、何も言わずに上を見る。だがもう遅い、その額を俺が"放っていた"ハウンドが突き刺さっていた。
俺がシールドを叩き割った直後、二宮は俺と、俺の左腕に意識を持っていかれていた。だから、俺が右手から上空に飛ばしたハウンドに気が付かなかった。
「一本目、いただき」
その後、ガチガチに本気モードになった二宮にボッコボコにされ、スコアにして3-7俺のポイント収支はギリギリマイナスになった。
先輩に華を持たせるってことを覚えた方が良いぞ、二宮くん。
ソロランク戦はその光景がモニターに映し出される為、誰でも見ることは可能だ。つまり、俺が二宮と戦っていた光景を見ていた奴ももちろんいた訳だ。なにせ二宮は、総合2位、シューターでは1位を誇るの実力者だ。そしてソロランク戦には、最近あまり顔を出していなかったから余計に注目される。
「はぁーあ、コテンパンだ。先輩としては不甲斐ない」
「いや、あの二宮さん相手に一対一で3本取れる奴の方が少ないだろう。ましてや高雅はオールラウンダーとはいえ、シューター寄りな上にトリオンにも大きな差がある」
「そーっすよぉ!てことで高雅さん、次は俺とやりません?」
今俺と座って対面しているのは、スナイパー奈良坂透。見事なきのこ頭を携えた麗しいイケメンだ。ちなみに、俺と玲の従兄弟に当たる。そしてもう1人のカチューシャは米屋陽介、奈良坂のチームメイトでアタッカー、かなりの使い手だ。
「てことでって、日本語として合ってるかそれ。お前とは相性悪いしソロランク戦でやりたくない、ポイント毟り取られるだけだろ。今度時間空いたら顔出すから、その時訓練室でなら良いぞ」
不利な相手とどう戦うのかっていうのも、研鑽を積む上では大切だ。俺の場合、この米屋のような高機動力のアタッカーは苦手な部類だしそういう意味でも良い勉強になる。
とりあえず、今日このあとどうしたものか「ねぇねぇ」防衛任務もないし、二宮とガチバトルしたから満足した感あるし「ねぇったらー」諏訪のやつ夕方から時間あるかな?あったら飲みにでも…………いや最近玲に怒られたからなー「なーんで無視するのぉ?」
「なぁおい高雅さん、多分こいつが用あるのアンタだぜ?」
「んぁ?何どした?」
「なんで無視するのさー」
「ん?」
後ろを向くと、そこにはあどけない顔をした少年が1人。背丈や声からして小中学生か?会ったことはない筈だが…………
「…………どちら様?」
「俺緑川駿、最近ボーダーに入ったんだぁ。先輩、さっきランク戦してた人だよね?」
「さっき?あぁ二宮とのやつか、それがどうした?」
「先輩もこれ使うんだね」
そう言って、緑川は手にスコーピオンを出す。てか、緑川駿てアレだ、加古が言ってた入隊直後の戦闘訓練で4秒出したっていう有望株くんじゃないか?なんでそんな有望株が俺に声を?
「まぁ使うが………メインウェポンじゃないんだ。あくまで近接に対応する為っていうか、まぁとりあえず本職のアタッカーには流石に敵わないな」
「ふーん、見た事ない使い方だったからてっきりアタッカーなのかなって」
見た事ない使い方、多分ブランチブレードのことを言っているのだろう。確かに、この間までC級だったなら知らなくて当然だろう。C級じゃまず見ない使い方だしな。
「あれはまぁ、スコーピオンの応用技みたいなもんだ。知りたいなら教えるぞ?」
「ほんと?じゃーさ、せっかくなら戦いながら教えてよ!最近B級になったんだ、いいでしょ?」
「お、B級上がり立てで高雅さんに挑戦たぁ中々気合い入ってんなぁ」
「胸を貸してやるといい、高雅」
「…………そうだな、じゃあブース行くか」
「うん!」
まぁここは一つ、先輩として、胸を貸してやるとするか。期待の新人くんの腕も気になるしな。
「…………なぁ奈良坂、高雅さん、上手いこと手加減するよな?」
「二宮さんに負けたこと少し引きずっていたからな、分からん。高雅はああ見えて負けず嫌いなんだ…………まぁでも、上手くやるさ」
「新人くん、折れなきゃいいけどなぁ」
「その心配はないだろう、あの人の世話焼きは玲に限らず発動する。後輩相手にただ勝つだけで済ます事はしないさ、相手を焚き付けるのは上手いからな」
「確かに………二宮さんのことも本気にさせてたしな」
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ブースに入った俺は、ブースにある通信機能で緑川と通信していた。ルールを決めずにさっさと緑川が行ってしまったので、ここでルールを決めようって事だ。
「B級に上がったばかりなんだろ?スコーピオン以外は何かトリガー入れてるのか?」
『入れてないよー』
「なら、お互いに使うトリガーは1つにするか、ブランチブレードを教えるから、俺もスコーピオンしか使わない。5本勝負でいいな?後、他にトリガーをセットする気があるなら、この後一緒に開発室に行くか、そこに行けばすぐにセットしてくれる」
『…………先輩いい人だね、お兄さんじゃなくて兄ちゃんって感じ』
「そりゃまぁ、妹がいるからな。妹もボーダー隊員だぞ……………よし、じゃあ始めるか。本気で勝ちにこいよ、どうせなら戦闘訓練も兼ねよう」
『はーい』
俺から緑川にランク戦を申し込み、承認された瞬間に転送が開始される。さて、教えるとは言ったがこれはランク戦だし、戦闘訓練も兼ねている。胸を貸すと言ったのだ、しっかりと先輩らしい所を見せないとな。
「…………早いな、そんで速い」
俺が緑川の捜索を開始しようとした瞬間、早くも緑川が俺の死角から攻めてきた。たが壁を蹴り抜く音で俺は方向を察知、緑川が振るったスコーピオンをしゃがんで回避しつつバックステップで一旦距離をとる。
戦闘訓練4秒は伊達じゃ無い、トリオン体での動きにセンスを感じる。C級からB級に上がったばかりとは思えない動きだ。
「なるほど、こりゃ逸材だ」
「やるね、やっぱり正隊員は違うなぁ」
「お前も大したもんだよ、スコーピオン1本だけでやるなら十分正隊員の中でも戦えそうだ…………それじゃ、来いよ。身をもって教えてやる」
「じゃあ…………行くよっ!」
緑川は正面から突っ込んでくる、その速さもしっかりと正隊員レベルだ。緑川が振るったスコーピオンは速いが、振りかぶってから振り下ろすまでがまだ少々遅い、十分軌道が読める。俺はしっかりと正面から緑川の攻撃を受け止めた。
「まず一つ、ブランチブレードはスコーピオンを引き延ばして使う技術だ。故にスコーピオンは脆くなる。だから防御する、もしくはされると弱い。攻撃に使うなら、意表をつくこと」
防ぐと同時に受け流す。攻撃を逸らされた緑川は体勢が悪い、だがさすがと言うべきか俺をしっかり目で捉えている。俺の横薙ぎもまだ追えていそうだな、でも、だからこそ引っかかる。
左腕を振るうと見せかけて、俺は緑川側に踏み込みつつその顔面に肘打ちをする。俺の肘からはブランチブレードで作った刃が生えており、緑川の頭を貫いた。
さて、とりあえず1本目を終わらせてブースに帰ってきたぞー。
「さて、とりあえず1本目。どうだった?」
『すごい!面白い!もうちょっと見たいなー』
「よし、じゃんじゃん行くぞー。しっかりと勝ちを拾いに来いよ」
それから俺は、緑川にスコーピオンの使い方を軽く教えながら戦った。とはいえ、俺は本職のアタッカーじゃ無い。7000Pを超えるくらいの腕はあるが、あくまでサブウェポン。せいぜいが、ブランチブレードの使い方を教える程度だ。
でも緑川はすごいぞ、教えたら教えただけ吸収する。2本目の時点でブランチブレードを使うとこまでは出来たし、3本目に関しては戦いに組み込んできた。そして4本目、動きにも磨きがかかってきており、流石に俺では楽々捌けるとは言えなくなってくる始末。
そして、ラストの5本目。
「いやぁすごいな緑川、センスの塊だよ」
「いや結局一回も勝ててないしー」
「そりゃ経験の差はどうしてもあるからな、俺は一応ボーダー設立して一番最初の募集で入ったから、経験だけはある」
「じゃあ俺は先輩には勝てないってこと?」
「いや?アタッカーとしてのセンスはお前は俺を遥かに超えてる、そもそも俺はアタッカーじゃ無いしな。この先アタッカーとして経験を積めばすぐに勝てるさ。今勝たせるつもりは無いけどな」
そう言いながら俺はスコーピオンを構える。それに呼応して緑川も構えた、その面構えからは「勝ちたい」という意思が感じられる。いいねぇ、勝ちたいと思うことは勝負に勝つ上で一番重要だ。
「ラストだ、とりあえず教えられる事は先の4本で教えた。後は………」
「俺が勝つだけだね」
「勝てるならな…………来い」
初動、迎え撃つ姿勢をとった俺に対し緑川は正面から突っ込んできた。だが、ただの正面突破では無い事は分かっている。この4本で、緑川がバカじゃ無い事は十分分かった。
俺の刃圏に差し掛かる手前で、緑川がスコーピオンを投げる。それを横薙ぎで弾いた時には、緑川は俺の視界から消えていた。ここは一本道の道路、両側にはコンクリの壁がある。身軽なアタッカーは、あらゆる平面を利用して3次元の戦いを可能にする。
「たった4本で、随分上手くなった」
左腕に持っているスコーピオンは振り抜いている、今右側は無防備だ。コンクリの壁面を、緑川は勢いよく蹴り抜き俺に迫る。その右手にはスコーピオンのブレードが携えられている。
俺は膝の力を抜き高速でしゃがむ事でかわしにかかる…………が、それが失敗だった。
「しくじった………我慢比べで負けたな」
「ありがとう先輩、俺強くなった気がする」
俺の首には、深々とスコーピオンで生成されたブレードが突き刺さっている。最後の最後、俺が膝から力を抜いた瞬間を、緑川は見ていた。欲を出してしまった、あのまま緑川が俺の頭上を通るなら、下から突き刺せると……………だが、こいつは高速アタッカーのセンスが抜群な男だ。動体視力は他のアタッカーより優れている。
勝てない土俵に、自ら上がってしまった。その時点で負けは決まっていたな。
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「おうお二人さん、お疲れ!すげーな緑川、高雅さんから一本取るなんてよ!」
「ああ、大したものだ。高雅はアタッカーでは無いにしろ、スコーピオンでマスタークラス手前の実力者だからな」
ブースから出ると、見物していたらしい透と米屋が出迎えてくれた。米屋は緑川な頭をわしゃわしゃの撫で回しながら目を輝かせていた。あー緑川、戦闘狂に目をつけられて可哀想に。
「本気で勝たせる気無かったんだが、まさか最後あぁもあっさりやられるとは、先輩として不甲斐ないな。でも、有望な新人が入るのはボーダーにとって良い事だ」
俺は左隣にいる緑川の頭を、髪を整える様に優しく撫でる。米屋にクシャクシャにされてしまったからな。緑川は何も言わずに撫でられている、なんか癖っ毛も相まって犬みたいだなこいつ。
「見ろよ奈良坂、高雅さんが完全に兄貴モードだ」
「ああ、あんな顔は中々見れないぞ」
「うるせぇほっとけ。しかたねーだろ、なんかめちゃくちゃ丁度いい高さなんだよ!」
「あっははは!」
ニノさんとの戦闘は、マジで趣味っていうか書きたくなっちゃったので書きました。後緑川くん、後輩としてめっちゃ可愛いと思うんすよ。