ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「遊佐くん、ちょっといいかな?」
「おう、どうした尾上? お前もトイレか?」
「ううん。そうじゃなくて、少し歩くペースを落としてもらえないかな? 女の子たち、慣れてない浴衣で早く歩くのは大変そうだしさ」
「あ? ああ、そっか! 悪い! 自分のグループしか見えてなかった!」
僕の言葉に大きく目を見開いた遊佐くんが、そうだったとばかりに頷きながら謝罪する。
謝る必要はないと言った後、僕はこう言葉を続けた。
「僕もひよりさんに言われて気付いてさ。やっぱり、結構しんどいみたい」
「あ~……そうだよな。背が低いと歩幅も小さくなるし、それで男の歩くペースに合わせるのは大変だよなぁ……」
「うん。そういうわけだから、悪いけど調整をお願い」
遊佐くんの理解も得られたところで、僕は再度歩くペースを緩めることをお願いする。
これで問題ないと思ったのだが……遊佐くんは、少し予想外なことを言ってきた。
「わかった、了解だ。ただし、
「えっ……?」
これからすぐにではなく、少し経った後でペースを緩めるという遊佐くんの宣言に僕は驚きを隠せなかった。
何か理由があるのかと考える僕へと、咳払いをした彼が声を落としながら言う。
「いいか? お前は俺に何も言わなかった。歩くペースのこととか俺は何も聞いてないんだから、当然俺たちはさっきと同じペースで歩いていく」
「え? いや、それだと――」
「そう、それだと七瀬さんが遅れる。お前は優しいからそんな七瀬さんに付き添う。俺たち鈍感な男子はそんなことにも気付かずにどんどん進んでいって……俺たちが気が付いた時には、
「……!!」
「今、トイレに行った連中もすぐには合流できない。何人か姿が見えなくても、誰も気にしねえよ」
遊佐くんが何を言わんとしているかを理解した僕が、はっと息を飲む。
パチンとウインクをしてきた彼は、緩い笑みを浮かべながらこう言葉を続けた。
「花火の見物場所はラインで送っとくよ。ただまあ、うっかり忘れちまうかもしれないけどさ」
「はは……っ! そうなったら僕たちは合流できなくなっちゃうね」
「ああ。でも仕方ねえよな、俺のミスなんだから。残念ながらお前たちはクラスのみんなとはぐれて二人きりで花火を見ることになるが……俺のうっかりを許してくれよ?」
「もちろん。ひよりさんも同じ意見だと思うよ」
ちょっとした作戦を立てつつ、その内容を確認しつつ、僕たちはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
僕を振り向かせながら肩を叩いた遊佐くんは、軽い激励の言葉を送ってくれた。
「俺のアシストを無駄にすんなよ? バッチリシュート決めてこい、尾上」
「ありがとう。いいポイントガードに出会えて、僕は幸せだよ」
ニヤッと笑った後、遊佐くんは僕の背中を押してひよりさんの方へと向かわせた。
僕が手を上げながら彼女の下に戻るのと、遊佐くんがクラスのみんなを連れて先に進み始めるのはほぼ同時で……戻ってきた僕へと、ひよりさんが声をかけてくる。
「お帰り。遊佐くん、なんだって?」
「ん? ……何も話してこなかったよ」
「え……?」
さっき僕が遊佐くんに見せたのとほとんど同じ反応を見せるひよりさんに笑みを浮かべつつ、背後の様子を伺う。
歩き始めたクラスのみんなは上機嫌に騒いでおり、他のメンバーのことを気にしている様子はない。
唯一、熊川さんと鉢村さんが意味深な笑みを浮かべながら軽く手を振ったり、Vサインを見せていたりして……僕が彼女たちにも感謝する中、慌てた様子のひよりさんが言う。
「ね、ねえ、雄介くん? みんな、行っちゃうよ? このままじゃあたしたち、置いてかれ――あっ」
そこまで言って何かに気が付いたひよりさんが口を閉じる。
そのまま静かに僕を見上げ、何か言いたげな視線を向けてくる彼女へと微笑みを返した僕は、静かに頷いた。
「……手、出してもらえる?」
「う、うんっ……!」
驚いたような、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべたひよりさんが僕の言葉に大きく頷く。
そっと差し出されたその手を強く、優しく僕が握れば、ひよりさんは頬をほんのりと赤く染めながら微笑んでくれた。
「ちゃんと手を握ってないとね。人が多いし、僕たちまではぐれちゃったら大変だ」
「そうだよね。はぐれないように、ちゃんと握ってないとね……!!」
その言葉と共に、ひよりさんが僕の手を強く握る。
人ごみの中でも絶対に離さないよう、小さくて柔らかい彼女の手をしっかりと握り返しながら……僕たちは、遊佐くんたちとは逆方向に歩いていった。