ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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二人きり、がいいな……

「えへへへへ……! やっちゃったね~! 後で合流した時、みんなにツッコまれたらどうしよっか?」

 

「遊佐くんたちが上手くやってくれてるから、大丈夫だよ。みんなからしてみても、今さらかって感じでしょ」

 

「そうだね~。優希と玲香もそんな感じだったもんね~……!」

 

 もうすぐ打ち上げられる花火がよく見える河原へと向かう人の波に逆らうようにして進みながら、僕たちはそんな話をしていた。

 嬉しそうに笑い、声を弾ませるひよりさんは本当に楽しそうで、握っている手からも彼女の感情が伝わってきているような気がする。

 

 人の波に飲まれないように近付いていることもあってか、普段よりもひよりさんが傍にいるように感じられて……浴衣姿ということも相まって、いつもと違う雰囲気を感じている僕も少しだけ心臓の鼓動を早くする中、彼女が口を開く。

 

「花火が始まるまでもう少しだけ時間があるよね? どうしよっか?」

 

「う~ん……人が少なくなってるから遊ぼうと思えば遊べるんだろうけど、特にやりたいものとかはないかな……」

 

 花火大会の会場にお客さんたちが向かったおかげで、縁日を楽しむ人の姿はさっきよりかなり少なくなっている。

 何か屋台で遊ぶならば今なのだろうが、それを選ぶのも微妙に難しかった。

 

「流石にこの歳になるとヨーヨー釣りとかスーパーボールすくいとかはやらないよね。貰っても後で困るだけだし」

 

「射的とかくじ引きもいい景品が取られないように細工されてることが多いし、なんかちょっとなあ……」

 

「でもさ、射的って撃つ時にギリギリまで銃を伸ばしていいじゃん? そうなるとこう、お尻が突き出されるポーズになるわけだから、雄介くん的には一見の価値があるものが見えるんじゃないかな~って」

 

「……もしかしてなんだけど、ひよりさんって僕を尻フェチに仕立て上げるために自分から囮になってない?」

 

「いやいや、そんなことはないよ~! あっ、そういえばまだチョコバナナ食べてなかった! えっちく食べてあげようか?」

 

「あの、前に慎みを覚えるとか言ってたような気がしたんだけど、その決意はどこに行ったの?」

 

「にししししっ! そこはほら、大好きな彼氏のために一時解禁した、ってことで!」

 

 色々と問題がありそうな発言をしながら自分のお尻を叩いたり、チョコバナナの屋台を指差したり、からかうような笑みを向けてきたり……その全てが、僕の目には眩しく輝いて見える。

 ひよりさんとこうして二人で時間を過ごせていることも、浴衣姿の彼女を独り占めできていることも、大好きな彼氏と言ってもらえたことも……全部が嬉しくて、自分でも浮ついた顔になっていることがわかっていた。

 

「ん~……なかなかいい案が浮かびませんな~……」

 

「お金を無駄に使う必要もないし、どこかで飲み物だけ買って僕たちも花火を見に行こうか」

 

「それはそれでもったいない気がしちゃうっていうか……折角の浴衣デートだし、もうちょっとお祭り感を楽しみたいっていうかさぁ……」

 

 少し残念そうにぼやいたひよりさんだが、やはりこの状況でしたいことは見つからないようだ。

 ただ、彼女の気持ちも理解できた僕は、小さく息を吐いた後で口を開き、こう言った。

 

「今日はクラスのみんなと一緒に遊びに来たから、前半戦でほとんどやりたいことをし終えちゃったもんね」

 

「そうそう。こうなるってわかってたら、もうちょっとペースを落としてたんだけどな~……」

 

「……じゃあ、来年はそうしようか。最初から二人で遊びに来て、浴衣でお祭りデートを楽しもうよ」

 

「えっ……!?」

 

 僕の言葉に驚いたひよりさんが、顔を上げてこちらを見る。

 そんな彼女に微笑みを返しながら、僕はこう言葉を続けた。

 

「来年までに付き合ってることをみんなに言って、クラスのみんなじゃなくて二人で遊ぶ計画を立てて、デートする。その時に浴衣を着てくれるかはひよりさん次第だけど、そしたら今年のリベンジができるでしょ?」

 

「……そうだね。別に今年で終わりじゃないんだし、来年のお楽しみにすればいっか! 雄介くんも期待してるみたいだし~? 来年もあたしの浴衣姿でメロメロにしてあげるよ!」

 

「あははっ、楽しみにしてます」

 

 いつもの調子に戻ったひよりさんが、胸を張りながらそう言う。

 僕が笑いながら彼女の言葉に応えれば、微笑みを浮かべたひよりさんが呟くような声量で僕へとこう言ってきた。

 

「……雄介くんとは、来年も一緒にこうしていられるもんね。今年だけじゃない、か」

 

「来年だけでもないよ。再来年もその先も、ひよりさんが望むなら僕はずっとこうして一緒にいるから」

 

「……自分で何言ってるかわかってる? もうそれ、ほとんどプロポーズだよ? っていうか、愛情表現がストレートになり過ぎてない? 付き合う前はもうちょっとわたわたしてたじゃん」

 

「この程度、告白の緊張に比べたら大したことないよ。それに、好きって気持ちはちゃんと伝えたいんだ。ひよりさんが嫌だったら止めるから、遠慮せずに言ってね」

 

「あぅ……嫌じゃないよ。むしろその、嬉しい……! でも、優希とかの前で言うのは恥ずかしいから、その分二人きりの時にいっぱい言ってほしい、かも……」

 

 そう言いながら、ひよりさんが空いている左手でパタパタと自分の顔を仰ぐ。

 さっきから彼女の顔を熱くしてしまって申し訳ないなと思いながら僕が頷けば、ひよりさんは少し悩んだ後でこんなことを呟いた。

 

「う~ん、参ったな。最近、受けに回ってる覚えしかないぞぉ……? 付き合う前まではあたしが押せ押せだったのに、どうしてこうなった……?」

 

「そりゃあまあ、僕は告白すると決めた時から色々覚悟を決めてきましたので。その差じゃないかな?」

 

「むぅ……! こうなったら、最終兵器下ネタを解放するしかないか。そっち方面なら雄介くんにも通用するしね!」

 

「いや、だから慎みは? 最終兵器の解禁が早過ぎるし、女の子としてそれはどうなの?」

 

 あんまりにもアレなひよりさんの発言に僕がツッコミを入れれば、彼女はケラケラと楽しそうに笑ってみせた。

 でもまあ、確かに言われてみれば昔ほど動揺することが少なくなったかなと思いながら自分の成長を実感した僕は、ひよりさんの顔を見ながら彼女に質問する。

 

「そろそろ時間だし、花火を見に行こうか。と言っても、一番見やすい河原だとみんなに見つかっちゃうし、どこか人が集まってるいいスポットを探して――」

 

 折角、遊佐くんたちが気を遣ってくれたのだ。花火はクラスのみんなとではなく、ひよりさんと二人で見たい。

 そういう要望を伝えつつ、河原以外の花火が見やすい場所を探すために人が集まっている場所を確認してみようとひよりさんに提案した僕だが……その瞬間、彼女が強く僕の手を握ると共に足を止めた。

 

 突然の事態に驚き、足を止めた僕が振り向けば、顔を赤くしたひよりさんが上目遣いになりながら緊張を滲ませた声を漏らす。

 

「あの、さ……その、えっと……」

 

 何か言いにくそうなことを言おうとしているような、表情や頬の赤み、震える声や潤んだ瞳など、即座に緊張していることがわかる様子を見せながらもじもじとするひよりさん。

 やがて意を決したように息を吐いた彼女は、小さな声で自分の要望を僕に伝えてくる。

 

「で、できたら、二人きりになれる場所、行きたいなって……」

 

「っっ……!!」

 

 ――ドクン、と心臓が大きく跳ねた。

 

 例えば、最初は自棄になったように勢いをつけて口を開いたのに、段々と弱々しくなっていった声だとか……。

 あるいは決意を固めたように僕を見つめていた瞳が、羞恥に負けて恥ずかし気に逸らされていく様だとか……。

 自分の要望を伝える際、ずっと落ち着かない様子を見せているひよりさんの全てが、僕の心臓の鼓動を落ち着かせてくれないでいる。

 

 そして、彼女が発した「二人きりになりたい」という言葉が、僕の頬を熱く燃え上がらせていた。

 あまりにも直球なその要望に一瞬、思考を停止してしまった僕であったが……はっとして立ち直ると、ひよりさんへと答えを返す。

 

「あ、えっと……ここから少し歩いたところに、小さな公園があったと思うんだ。そこなら人もいないだろうし、ベンチも自販機もあったし、その、ちょうどいいんじゃないかな?」

 

「そ、そっか。じゃあ、えっと……その公園で、花火を見よっか」

 

「そ、そうだね。そうしよう……!」

 

 どこかぎこちなくって、緊張と恥ずかしさで心臓が早鐘を打っていて、でも心地良い。

 強く、強く……さっきよりも力を込めて僕の手を握るひよりさんもまた、顔を真っ赤にしながらちらちらとこっちを上目遣いで見てきている。

 

 色々覚悟を決めてきたし、ひよりさんの言動に動じない男に成長したと思っていたが……前言撤回だ。

 まだまだ僕は青いままだなと思いながら、僕たちは無言で会場近くにある公園へと手を繋いだまま、歩いていった。

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