ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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したいこと、いっぱいあるんだ

 そこから公園までの道のりは、あまり話をしなかったと思う。

 

 照れと緊張が僕たちの口数を少なくしたのか、あるいは手を繋いでいるだけで気持ちが通じ合うような気持ちになっていたから敢えて話をしなかったのかは、よくわからない。

 そうしている間に目的地であった小さな公園にまでやって来ていて……その中にベンチを見つけた僕たちは、ここまで少な目だった口数を急に増やしながら話をする。

 

「ここ、いい感じだね。ちょうど座れる場所もあるし……」

 

「うん、そうだね。会場から少し離れちゃってるのは残念だけど、静かなのはいいことだよね」

 

 花火を見に来た人たちは大半は河原の土手か花火が見やすい高台なんかに昇っているのだろう。

 住宅街の中にあるこの公園は周囲が家に囲まれているせいでお世辞にも見通しがいいとは言えないし、花火を楽しむのにはそこまで適しているわけではない。

 

 ただ、そういった環境のおかげで人の姿がなかったり、酔っ払いのような危ない人たちが来る可能性も低いというメリットもあって……二人きりの公園の中でベンチに座った僕たちは、緊張を落ち着かせるように少しだけ無言の時間を過ごした。

 

(なんか、ここまで来ておいてなんだけど、何を話せばいいのか全然わからないな……)

 

 ベンチに並んで座る僕たちの間にある距離は、遠くはないが近いかと言われれば微妙なところだろう。

 人がその間に入ることはできないが、くっついているわけでもない。人半分くらいの距離が開いているといえば、わかりやすいだろうか?

 

 恋人として適切な距離感だとは思うが、やはり緊張してしまう。

 こういう時、何を話せばいいんだろうかと僕が必死に頭を働かせる中、ひよりさんが口を開いた。

 

「ふふっ……! 二人きり、ですな~……なんか変な感じだね」

 

「変、っていうよりかは緊張かな? そういう感じ」

 

「あははっ! さっきまではかわいいだとかプロポーズみたいなことも普通に言えてたのに、急にかわいくなっちゃったね~! うんうん! 雄介くんはこうじゃないと!」

 

 ……何故だかわからないが、頭の中で『攻守交替』という文字の花火が打ち上げられたような気がした。

 実に楽しそうに笑ったひよりさんは、小さく息を吐くと……ベンチに乗せられていた僕の手に自分の手を重ねながら、微笑みを向けてくる。

 

「……うん、やっぱ変な感じ。これまで何度も二人で過ごしてきたのに、今までで一番緊張してるんだもん。心臓、すごいドキドキしちゃってるもん。触って確かめてみる?」

 

「結構です!!」

 

 しんみりとそう言ったかと思えばふんすと鼻息を荒げつつ胸を張り、堂々とそこをアピールしながらからかうような発言をしてきたひよりさんへと強めのツッコミを入れつつ、苦笑する僕。

 このツッコミのおかげで多少は普段の感覚が戻ってきたことから、もしかしたらひよりさんはわざと変なことを言ってきたのかなと僕が思う中、くすくすと楽しそうに笑った彼女が言う。

 

「さっきさ、来年もまた一緒にお祭りに行こうって言ってくれてから、ずっと考えてたんだよね。その時は、どこで花火を見ようかなって」

 

「……答えは決まった?」

 

「ううん、全然! 考えてる最中にまた別のことを考え始めちゃってさ~!」

 

「あはは。次は、何を考え始めたの?」

 

 この公園に来るまで、彼女は何を考えていたのだろうか?

 それを知りたくて質問した僕へと、楽し気な笑みを浮かべたままのひよりさんがこう答える。

 

「来年のことを考えてたけど、まだ今年の夏も終わってないよなって……もう少しで夏休みも始まるんだし、雄介くんと何をして、どんなふうに過ごそうかなって考えてた」

 

 まだ遠い来年の花火大会の話より、これからすぐに訪れるであろう夏本番をどう過ごすかを考えたい。

 その中で僕と何をして、どんなふうに毎日を楽しむのか? ひよりさんは、ここまでで思い付いたその答えを僕に聞かせてくれた。

 

「まずは水着姿のお披露目はマストだよね! 海かプールに行って遊ぶ! 雄介くんもあたしの水着姿、見てみたいでしょ?」

 

「まあ、ね。興味がないと言ったら嘘になるかな」

 

「ふっふっふ~! 正直なのはいいことだ! セクシーかつキュートな水着姿で悩殺してあげるから、楽しみにしててね! あとは、日帰りで旅行とかもしてみたいかな~?」

 

「日帰り旅行か……いいね。バイト代も入るし、ちょっと考えてみようか」

 

「や~りぃ! 言ってみるもんですな~! あとは……難しいかもしれないけど、またお泊りしたいね。そんなことしたら、雄介くんが大目玉喰らっちゃうだろうけどさ」

 

「あはははは……! 確かにね。ひよりさんのお父さんに思いっきり怒られちゃうよ」

 

 何度かお話をさせてもらったひよりさんのお父さんの顔を思い浮かべつつ、本当にお泊りなんかしたら相当怒らせちゃうんだろうなとも考えた僕は、その話に大笑いした。

 でも、ここまで僕としたいことがあると言ってもらえたことは嬉しくて、そのことを伝えようとひよりさんを見れば、僕が口を開くよりも早くに彼女がこう言葉を続けた。

 

「そんなふうにやりたいことを考えてたらさ、夏だけじゃなくて秋にも冬にも春にも雄介くんと一緒にしたいことが思い浮かんじゃってさ……自分でも我がままだな~って思うくらい、してみたいことが山ほどあるんだ。それ全部……付き合ってくれる?」

 

「……もちろん。ひよりさんがしたいことなら、なんだって付き合うよ」

 

「えへへ……! 雄介くんなら、そう言ってくれると思ってたよ! じゃあ、まずは遊園地の絶叫マシン全制覇ツアーから始めようか!」

 

「え゛っっ!? ちょ、それはその、心の準備をさせてほしいかな~って……」

 

 にししと笑いながらのひよりさんの冗談なのかそうじゃないのかわからない発言に、視線を泳がせた僕が狼狽する。

 そんな僕のことを楽しそうにひよりさんが見つめる中……ひゅーんという音に続き大きな音が響き、同時に夜空に大きな花が咲いた。

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