ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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ずっと、ずっと、一緒にいよう

「あ……花火、始まったんだ……」

 

 ヘタレたことを言っているところに急に花火が打ち上がったものだから、ロマンティックさの欠片もない状況になってしまった。

 どうにも間が悪いなと思いながら、やはり位置が位置なだけにいい感じに見えているとも言えない花火を見上げつつ、少しでもいい雰囲気にしようとひよりさんへと何かを言おうとした瞬間……ベンチに置いてある手に、妙な感触が走る。

 

 ふにゅっとした柔らかい、だけどそれなりの重量を持つ何かが手の甲の上に乗った。

 その感覚に驚いて横を向いた僕が見れば、ひよりさんが先ほどよりもこちらに近付いているではないか。

 

 即座に、自分の手の甲に乗っているものの正体に気付いた僕は、慌てながら彼女へと言う。

 

「あ、あの、ひよりさん? 僕の手の上にお尻が乗ってるんですけど……?」

 

「……わかってる。わざとだから」

 

 僕の言葉に対して、ひよりさんはやや緊張した面持ちで正面を見ながらそう答えた。

 てっきり、「お尻好きの雄介くんへのサービスだよ~」とかのからかいの言葉が飛んでくると思っていた僕は、彼女の予想外の反応に驚きを加速させつつさらに問いかける。

 

「な、なんでそんなことを……?」

 

「……雄介くんを逃がさないように、こうしてる」

 

「いや、逃げないって! 何で急にそんな……!?」

 

 ひよりさんの言葉にツッコミを入れた僕であったが、その言葉に反応してこちらを見た彼女の顔を目にした瞬間、ドクンと心臓が跳ね上がった。

 こちらを見つめるひよりさんはわずかに泣きそうな、それでいて頬を真っ赤にした複雑な表情を浮かべていて……その表情から彼女の意思を感じ取った僕に対して、ひよりさんが言う。

 

「もうちょっと近付くためにお尻を浮かせるけど……絶対、逃げないでね? 絶対だよ!?」

 

 強めにそう言ってきた彼女へと頷きつつ、じっとその動きを見つめる。

 息を吐き、ゆっくりと僕の手の甲に座っていた状態から腰を浮かせた彼女が再びお尻を落とす瞬間、ベンチからその手を引いた僕はその手をひよりさんの肩に乗せ、こちらへと引き寄せた。

 

「わっ……!?」

 

 僕に肩を抱き寄せられる形になったひよりさんが、目を丸くしながら声を漏らす。

 顔の赤みを増させた彼女をさっきよりも近い距離で見つめながら、ニッと笑った僕は驚いているひよりさんへとこう言った。

 

「……ひよりさんを逃がさないように、こうしてる」

 

「んっ……! ふふっ! 仕返しされちゃった。でも、あたしだって逃げないよ」

 

 先ほどのひよりさんの発言をそっくりそのまま返してみせれば、彼女は破顔すると共にさっきの僕と同じ言葉を返してきた。

 わずかに開いていた距離が消え、体が触れ合う距離にまで近付いたひよりさんがほんのりと頬を染めながら、潤んだ瞳をこちらへと向ける。

 

 僕もまた、自分自身がそこまで緊張していないことに驚きながら彼女へと視線を向け、暫し見つめ合った後……微笑んだひよりさんが口を開いた。

 

「あの、さ……あたし、今、雄介くんとしたいことがあるんだよね。付き合って、くれる……?」

 

「……もちろん。僕も、()()()()()()()()()()()だから」

 

「……!!」

 

 ひよりさんのしたいことに僕が付き合うんじゃない。僕もひよりさんと同じ気持ちで、同じことをしたいと思っている。

 そのことを伝えれば、ひよりさんはわずかに目を開いて驚いた後……嬉しそうに笑って、頷いてくれた。

 

 彼女の瞳の中には、夜空とそこに打ち上がる花火に紛れて僕の姿が映っている。

 僕の瞳の中には、何が映っているのだろうか? ひよりさんは今、何を見ているのだろうか?

 

 そう思いながら目を細めた僕は、体を屈ませるようにして彼女との距離を縮めていく。

 ひよりさんも腰を浮かせ、首を上へと伸ばして……僕へと近付いてくる。

 

 ふぅ、と甘く熱い吐息の感触が伝わってきた。びくり、と抱き寄せる彼女の肩が微かに震えた。

 その寸前、文字通りの目と鼻の先の距離でお互いに動きを止めた僕たちは、その至近距離で相手をじっと見つめる。

 

 多分、お互いの心の中にある複雑な感情の全てを読み取ることはできないのだろう。

 ただ、それでも……目の前にいる大切な相手が、喜びと幸せの感情を抱いていることを確かに感じ取った僕たちは、笑みを浮かべ……同時に最後の一歩を踏み出す。

 

 ほんの少しだけ開いていた距離は、それでゼロになった。

 ふにゅりという柔らかい感覚と温かな熱を感じながら目を閉じた僕は、唇に伝わる甘さに心を蕩けさせながらひよりさんと幸せを分かち合う。

 

 とても、とても……長い時間だったような気がした。

 打ち上がった花火が夜空で弾ける音が、何度も何度も聞こえていたと思う。

 

 でもきっとそれは、僕たちが思っているよりもずっと短い時間だったのだろう。

 ゆっくりと瞳を開けた僕は、同じタイミングで目を開いたひよりさんと視線を交わらせながらわずかに唇を押し込むと……次の瞬間、名残惜しさを感じながらどちらともなく離れていった。

 

「……しちゃったね、キス」

 

「うん、しちゃったね……」

 

 僕たちは、お互いの感触と熱が残る唇に手で触れながらそんなことを話していた。

 ドクン、ドクン……と、今さらになって早鐘を打ち始めた心臓に随分と遅いじゃないかと苦笑を浮かべながらツッコむ僕へと、ひよりさんが言う。

 

「ふふっ……! ファーストキスってさ、レモンの味がするってよく言うけど……なんか違ったね。それよりも甘い感じがした。これ、何なんだろう?」

 

「あ~……夢もムードもないことを言っちゃうと、かき氷のシロップの味じゃないかな……?」

 

「あ、そっか。あたしたち、あれから何も食べてないもんね。通りで甘いわけだ!」

 

 そう言ってくすくすと笑った後、ひよりさんはこう言葉を続けた。

 

「でもあれ、色が違うだけで味は全部同じなんだって。そう考えると、初めてのキスで同じ感覚を共有できて良かったって思わない?」

 

「あははは、確かに。甘さもそうだけど、温もりとか幸せも同じように感じ合えてたのなら、上手く言えないけど嬉しいなって思うよ」

 

「うん! ……嬉しいし、幸せだね。胸の中、ぽかぽかする」

 

 そう言いながら、ひよりさんが僕へともたれかかってきた。

 彼女の小さな体を支えながら寄り添う僕たちは、クライマックスを迎えて次々と打ち上がる花火の音を聞きながら無言の時を過ごす。

 

「どうする? この後、みんなと合流する?」

 

「……いや、止めておこうよ。今日は、最後まで二人でいたい気分なんだ」

 

「ふふっ……! うん、じゃあそうしよっか。あたしも同じ気持ちだからさ」

 

 遊佐くんたちには申し訳ないが、今日はひよりさんと二人だけで過ごしたい。

 もう少ししたら花火大会も終わって、人の波がここにも押し寄せてくる。

 そうなる前に、一足先に退散しよう。騒がしいようで静かな二人で過ごすこの時間を、人ごみの喧騒で壊されたくないから。

 

「帰ろうか。少しだけ遠回りしながら、さ……」

 

「うん……!」

 

 立ち上がり、手を繋いで、僕たちはひよりさんの家に向かってゆっくりと歩き出す。ひよりさんの小さな手を、強く優しく握りしめたまま。

 

「また来年も遊びに来ようね。二人で、こうして……」

 

「うん、そうしよう。来年もひよりさんとこうして過ごすのが楽しみだ」

 

 僕のその答えに、ひよりさんが満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに頷く。

 夜空には大輪の花火が打ち上げられていたけれど……僕に向けられる幸せそうなひよりさんの笑顔は、それよりもずっと眩しくて、綺麗に見えていた。

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