ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
スク水姿のひよりさんもかわいい
基本的な話だが、高校の体育の授業というのはスポーツテストのような特別な内容の時を除いて男女別で行われる。
男女の体格差や体力差を考えれば、それも当然の話だろう。
男子がサッカーをやっている間に女子たちはダンスの授業を受けていたりと、カリキュラム自体に違いがあったりもするわけで、基本的に男女が同じ場所で体育の授業を受けることはない。
ただし……やはり何事も例外はある。今日はその例外に該当する授業の日であった。
「うわ~! マジでちょっと期待しちまうよな!」
「お前、変態だろ!? でも俺も気持ちはわかる!」
照り付ける太陽。うだるような暑さ。それに紛れて膨れる、男子たちの期待の感情。
プールサイドで体育座りをしている僕は、目の前のクラスメイトたちの話し声を聞きながらぼんやりと光を反射して煌めくプールの水面を見つめていた。
本日、僕たちが通う学校で初の水泳の授業が行われようとしている。
台風の影響で例年よりやや遅めのプール開きになったらしいが、まあそれはどうでもいいので置いておこう。
初の水泳の授業に臨むクラスメイトのみんなの反応は様々だが、僕の目の前にいるような一部の男子たちはこの日の到来を随分と待ち侘びていたようだ。
髪が痛むだとか、泳げないから怠いだとか、シンプルに面倒くさいだとか……そういう反応を見せる人たちが多い中、彼らがどうしてここまで興奮しているのか? その答えは僕にもなんとなく理解できた。
「おっっ! 来たぞっ!!」
一気に静まり返った代わりに期待に満ちた視線を一点へと向け始めた彼らの前で、スクール水着に身を包んだ女子たちが続々とプールサイドに姿を現し始めた。
「あ~、マジでプール怠いわ~……髪長いから、乾かすの面倒なんだよね~」
「生理って嘘ついて休めば良かったかもな~。でも、レポート書くのも面倒だしな~……」
「うおおおおおおっ! これよ、これ!」
「女子たちの水着姿! これを見るためだけに俺たちは水泳の授業に参加している!!」
欲望に正直だなと思いつつ、僕は彼らから視線を逸らした。
夏の暑さにも負けない燃えるような何かを背中から放出する彼らは、周りのクラスメイトたちからも同類に思われないように距離を取られていた。
だがしかし、僕も思春期の男子なわけで、彼らの気持ちはわからなくもない。
水面を見ていた視線をプールサイドの女子たちへと向ければ、同時に前の男子たちの会話が耳に入ってきた。
「やっぱ女子たちのスク水姿っていいよな……! こう、普段は見えない部分がよく見えるっていうかさ……!!」
「改めて、胸のデカさがよくわかる! うん、最高だぜ!!」
「いや、小さいのも希少価値だろ!? ちっぱい万歳だ!」
……うん、流石にここまで欲望を曝け出したりはしないというか、そこまでのことは考えない。
健全な男子の思考といえばそうなのかもしれないが、もしかしたらこの会話が女子たちに聞かれているかもしれないと思うとちょっぴり怖いものがある。
といった感じでやや暴走気味に会話を繰り広げる男子たちは、その中でも特に目を引く女子について語り始めた。
「おおぅ……! やっぱ鉢村って乳デカいよな……!!」
「あのサイズで性格がクールっていうか、ダウナー系じゃん? なんかこう、上手く言葉にできないけどいいよな……!!」
そう語る視線の先には、面倒くさそうな表情を浮かべている鉢村さんの姿があった。
彼らが話す通り、鉢村さんはスタイルが相当に良い。胸の大きさも男子たちが騒ぐくらいには大きかった。
あんまり意識したことがなかったけど、やっぱり大きい方なんだな~ということをぼんやりと考える僕であったが、彼女が話題になったということは次の展開も予想できるわけで……その予想通り、男子たちは次の女子についてやや興奮気味に語り始める。
「あとは七瀬も半端ねえな……!! あの身長であの胸だぜ!?」
「反則級だろ? 前々から思ってたけど、水着になるとよりヤバさが際立つな……!」
ぴくっ、と彼らの会話に反応した僕が、こっそりとひよりさんを見る。
今、彼女は鉢村さんと楽しそうに会話していて、男子たちが興奮するのも理解できるくらいに魅力的な水着姿を曝け出していた。
遠目に見てもわかるくらいに
普段からかわいいが、今のひよりさんはそれに輪をかけてかわいく見えるな……と思いつつ、不躾な男子たちの視線に彼女を晒したままにすることに対してちょっとした嫉妬心を燃え上がらせた僕は、こちらもちょうどプールサイドにやってきた田沼先生の姿を見止めると、立ち上がって声をかけた。
「あっ、先生。ちょっといいでしょうか?」
「おう? どうした、尾上?」
位置を調整しつつ男子たちの前に出て、適当な質問を先生へと投げかけ、その場で会話する。
ちょうど僕と先生の体で視界を遮られた男子たちはどうにかして女子たちを観察できないかと体を動かしまくっていたが、立ち上がって移動しない限りはそれも無理だろう。
結局、女子たちが整列し始めるまで先生と話をした僕によって、男子たちはそれ以上の女子たちの水着姿観察ができなくなってしまった。
実に残念そうにしている彼らの反応を見て、小さく拳を握り締めた僕は、そこでちらりと女子の方を見やる。
「……!!」
身長の低さのおかげで、ひよりさんを一瞬で見つけることができた。
彼女の方も見やすい位置にいた僕を見ていたようで、一瞬だけ目を合わせた僕に向けて小さく微笑んだ後で口パクでこう語りかけてくる。
「えっち」
「んっ……!」
にや~っ、と笑った彼女が何を言ったか、僕はばっちりと理解してしまった。
確かにひよりさんの水着姿が見たくて彼女の姿を探してしまった僕は、何も言い返せずに無言で視線を逸らす。
「よ~し、お前ら準備運動は済ませたな? じゃあ、地獄のシャワーを浴びてこ~い!」
田沼先生の号令を受けた男子たちが、のろのろと面倒くさそうに立ち上がってシャワーを浴びに向かう。
僕も熱くなり始めた頬を冷ますため、急ぎ足で冷たいシャワーを浴びに向かうのであった。