ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
(平常心、平常心……! 女の子の水着姿をジロジロ見てたら、デリカシーがないって怒られるぞ……!!)
水泳の授業における最大の強敵である通称『地獄のシャワー』。
凶悪な冷水を一気に浴びせられるという、地獄の名に恥じない責め苦であるが……その冷たさのおかげで頭を冷やすことができた。
ちょっともたついているクラスメイトたちに先んじてプールサイドに戻った僕であったが、その背後から先ほどの男子たちが走ってくる。
濡れてる状態でプールサイドを走ったら危ないよな~、とぼんやりと僕が思う中、彼らはまたしても対面の女子たちに熱い視線を向け始めた。
(な、何がそんなに彼らを熱狂させるんだ……?)
冷水シャワーを高速で浴び、小走りで戻ってくるなり女子たちを見つめ始めた彼らの姿を見つめながら、若干引き気味になった僕が思う。
改めてその答えを探るべく彼らと同じ方を向いてみれば、準備体操をしている女子たちの姿が目に映った。
「くそっ! 誰か! 誰でもいい! こっちに尻を向けてる女子はいないのか!?」
「先生の尻はいいんだよ! 準備体操する女子たちのあられもない姿が見たいんだ!」
「くっ……! 屈伸とかで意外と胸の谷間とか見れるんじゃねえかと思ったけど、そんなことはなかったぜ……!!」
何を考えているんだ、こいつらは。それが僕の正直な感想だった。
横に並んで準備体操をする女子たちを食い入るように見つめる彼らは、なんかあり得ない奇跡を期待していたようだ。
スケベ心を抱いてしまうことは仕方がないとは思うが、いい加減にしないと女子たちからのお叱りが待ち受けることになりそうだなと考える僕であったが、彼らはまだ何かを期待しているように話をしている。
「い、いや! まだ俺たちにはあれがある!」
「そうだな……! あれに賭けるんだ!」
少年漫画の中でピンチを迎えた主人公たちがこんな会話を繰り広げていれば、熱いシーンだと思えるのだが……今の状況はそれとはかけ離れ過ぎている。
彼らが何を期待しているかわからないが、ひよりさんに邪な視線を向けられるようなことになったら対応しようと考えた僕は、次の瞬間に男子たちが小さく息を飲んだことを察して彼らと女子たちへと視線を向けた。
(……え~っと?)
とりあえず、見たままの状況を分析しよう。
女子たちは準備運動をほぼ終えて、最後に小さくジャンプを繰り返す運動をしている。
男子たちはそんな彼女たちを期待に満ちた表情で見つめていたが……徐々にその表情が失望の色に染まっていった。
「……思ったより揺れないな。もっとこう、ばるんばるんっ! みたいなのを期待してたんだが」
「思ったよりどころか全然揺れてなくね? え? 俺らの夢は? どこ? ここ?」
……どうしよう、想像以上にくだらないことだった。
どこからツッコめばいいのかわからなくなるくらいに残念な彼らのことをため息交じりに見つめる僕の前で、その思いを代弁してくれるかのように呆れ顔の遊佐くんが口を開く。
「いや、あのさぁ……普通に考えて、スク水で乳揺れなんてほとんど起きねえって。夢見過ぎだろ?」
「えっ!? 嘘だろ……!? グラビアアイドルの動画とかではめっちゃ揺れてたぞ!」
「そういう撮影で使うのと学校用の水着は違うんだよ。そもそも、ちょっと跳ねただけで馬鹿みたいに胸が揺れたら、泳いだ時に大惨事確定じゃねえか」
「うっ……! た、確かに言われてみれば、なんか動画で見た水着より肩紐はしっかりしてるし、胸の谷間も隠されてるような……?」
「そ、そんな……! 現実はこんなにも残酷なのか……!?」
絶望した表情を浮かべながらその場にがくりと崩れ落ち、握り締めた拳をプールサイドに叩きつける男子たち。
現実の残酷さに打ちひしがれているところ申し訳ないが、憐みよりも残念さの方が先に出てくる。
「……お前らがモテない理由、なんとなくわかったわ。残念過ぎる」
そう呟く遊佐くんがどうして女子のスクール水着について詳しいのかは考えないことにした。
とにかく、これで女子たちに迫る危機は去ったと安堵しながらひよりさんの様子を窺ってみれば、彼女はちょっと怒り気味な様子で鉢村さんに何かを言っているではないか。
(何かあったのかな……?)
さっきまでは上機嫌だったのに、何故だか不機嫌そうにしているひよりさんがシャワーを浴びに行く姿を見ていた僕は、彼女に何が起きたのかがわからずに首を傾げた。
まあ、そこまで気にしないでもいいかと結論付けたところで田沼先生がやって来て、号令をかける。
そんなこんなで水泳の授業が始まり、先ほどまで騒いでいた男子たちも女子たちの水着姿を鑑賞する余裕もなくなったおかげで僕も気を張る必要がなくなった。
余談だが、シャワーの水を水着の胸部分に溜めて密閉した熊川さんが「私がクラス一の爆乳だ~!」と叫びながら飛び出してきたが、得意気になっているところを鉢村さんのチョップで胸部分を叩き潰されて現実を見る羽目になっていた。可哀想だった。