ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「くっそ~! 尾上、お前泳ぐのも得意なのかよ!?」
「ははっ、別に得意じゃないよ。今のは身長差で僕の方が早く壁にタッチできただけだって」
「か~っ! なんかその態度もムカつくな~! 彼女持ちの余裕ってやつか~?」
水泳の授業中、二レーンを使ってのタイム測定で遊佐くんと一緒になった僕は、泳ぎ切った後で彼からそんなことを言われていた。
今現在、他の男子たちは離れた場所にいるから問題ないかと思いつつ苦笑を浮かべた僕は、少し気になっていたことを彼に尋ねる。
「そういえば、遊佐くんはどうして女子のスクール水着について詳しかったの? まさか、そういう趣味があるとか……!?」
「いやっ、違うって! 姉貴だよ、姉貴! 上に姉ちゃんがいるから、スク水に関してもちょっと詳しかっただけだって!」
「え~? 本当かな~?」
「おまっ! 俺がスク水フェチみたいな雰囲気出すなってば!」
先ほどのからかいに対しての反撃の意味も含めて意地悪くそう言ってみれば、遊佐くんは面白いくらいに慌ててくれた。
僕もちょっとひよりさんに似てきたなと思いながら、流石にこれ以上は可哀想なので話題を切り替える。
「遊佐くん、お姉さんがいたんだね。僕とは真逆だ」
「あ? あ~、尾上には弟が二人いるんだっけ? 確かにまあ、真逆だわな」
俺は弟で、お前はお兄ちゃんだもんな。と付け加えつつ、苦笑いを浮かべる遊佐くん。
何か含みがあるその表情と言葉に首を傾げてみれば、彼はこう話を続けてくれた。
「姉貴を持つ弟ってのはなかなか悲惨だぜ~? 事あるごとにパシられるし、女の幻想みたいなものもぶっ壊されるしな。スク水の現実とか、俺も初めて知った時はあいつらと同じくらいショックを受けたもんだよ……」
「そ、そうなんだ……なんか、大変そうだね……?」
「大変だって! せめて妹にこき使われるならまだ可愛げがあるから許せるかもしれないけど、姉貴に偉そうに命令されるってのはかなり屈辱だぜ? それに、兄貴だったら取っ組み合いの喧嘩とかできるけどさ……姉貴だと女じゃん! そういうの無理じゃん! ずるいよな~……!」
弟、それも姉を持つ遊佐くんにはその立場なりの苦労があるようだ。
がっくりと項垂れつつも本気でお姉さんのことを憎んだり恨んだりしている様子はない彼へと同情気味に笑っていた僕は、遊佐くんからこんな質問を投げかけられる。
「お前の場合はどうなんだよ? 兄貴から見て、弟たちってどんな感じだ?」
「う、う~ん……どんな感じって言われても……なんか、事あるごとに踊ってるような気がするな……?」
誇張表現抜きで僕の弟は愉快で楽しい(そしてちょっとおかしい)人間だと思う。
特にここ最近は僕とひよりさんの関係の発展に一喜一憂し、喜ぶ際には大体謎のダンスを披露してくれることから、なんか楽しそうだな~という印象が強い。
まあ、喧嘩も滅多にしないし、その場合も一瞬で片が付くから、世間一般から見れば仲のいい兄弟ということになるのだろう。
特に苦労もないし、楽しい一家であるということを遊佐くんに伝えると、彼は羨ましそうな眼差しを僕へと向けながらこうぼやいてきた。
「いいよな~、お前は。俺とは色々真逆でさ~……! 楽しい弟たちに囲まれてる上に、あんなにかわいい彼女までいやがってさ~……!」
「う~ん……まあ、確かに楽しい弟とかわいい彼女だね。うん」
少し考えた後に遊佐くんの意見に同意すれば、彼は羨ましさを多分に込めた瞳で僕を見てくる。
そろそろ次のグループが泳いでくることを察した遊佐くんは、少しだけ声を落としながら僕にこう質問を投げかけてきた。
「そんで、どうするんだよ? 彼女持ちの高校生男子として、今年の夏休みの計画は立ててるのか?」
「いや、まだかなぁ……今は色々と不安なこともあるし、そういう話もしてないからさ」
「ああ、そっか。確かに江間の件があったか……」
もう少しすれば学校も夏休み期間に突入する。長い休みの中、ひよりさんとどう過ごすかについては僕も色々と考えてはいた。
ただ、やはり気になるのはひよりさんをストーカーしている江間のことで……少し前に彼とひよりさんのご家族の話し合いに参加した僕は、この問題がなかなか複雑かつ簡単に解決しなさそうな雰囲気を感じ取ってもいる。
そういう空気を感じているから、夏休みに何をするかという話もすることができずにいたが……遊佐くんは、そんな僕の肩を叩きながらアドバイスをしてくれた。
「いや、でもよ。そういう不安なことがあるからこそ、明るい話題が必要なんじゃねえの? 夏祭りもクラスのみんなと一緒に行って、楽しむわけだろ? その流れでさ、七瀬さんと夏休みにどこに遊びに行くかとかの話もしておくといいんじゃね?」
「……まあ、そうだよね。不安なことがあるからこそ、明るいニュースも必要か……」
遊佐くんの言っていることは正しい。ひよりさんを取り巻く状況が深刻だからこそ、僕が恋人として彼女の気持ちを明るくする役目を担うべきだ。
ひよりさんを一回でも多く笑顔にするためにも、夏休みの予定について詳しく考えておくのも悪くないな……と考え始めた僕へ、遊佐くんが明るい声で言う。
「そうそう! で、夏の定番といえば……やっぱ海かプール! っていうか、彼女の水着姿だよな!?」