ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
……さて、ここであたしがこの言葉を雄介くんに言うまでの流れをおさらいしよう。
男子の水泳の授業が終わるより少し早くに解散となったあたしたち女子は、塩素の臭いが絡みつく体を綺麗にするためにわらわらとシャワーを浴びに向かった。
……のだが、あたしはその列からこっそり外れて、雄介くんを見るために最後尾にいたのである。
この時点では玲香も一緒で、一目散にシャワーを浴びに向かった優希のことを落ち着きがないな~なんて言いながら一緒に笑っていた。
それと同時に、男子たちの様子も一緒に伺っていたりもしていたわけだ。
筋肉フェチというか、男子のことをエロい目でみる玲香だが、今回は男子たちが座って話を聞いている状態だったために残念そうにしていた。
あたしは雄介くんのことが見れればそれで良かったわけだから、そんなことを気にしていなかったのだが……あちら側も先生の話が終わり、解散を宣言された途端に女子たちと同じく一目散にシャワーを浴びにいって、そこから流れが変わった気がする。
あたしもちょうどそのタイミングでシャワーの順番が回ってきたわけだが、玲香は男子たちの腹筋を見にここであたしと別れて前方に出た。
玲香は男子たちの筋肉を、男子たちは玲香の胸をある程度近い距離で見ることができたから、まあ万々歳だったと思う。
そんなこんなでちょっともたついてから更衣室に戻ったあたしは、そこですっぽんぽん状態でゴーグルがないことに気付いた優希と遭遇して……仕方がないから代わりに探しに行くことになり、今に至るということである。
いや、これだけじゃあなんであんな気持ち悪いことを言ったのかが理解できないかもしれない。
要するに、そう……タイミングと少し前に玲香とした話が悪かったということだ。
雄介くんが細マッチョでいい体してるとか、あたしと同等の価値がある肉体美だとか、エロくてなんちゃらだとか……そういう話を聞いたら、多少なりとも意識してしまうに決まっている。
そんな状況で、こんなにも雄介くんに近付いてしまったあたしは、改めて玲香の言っていたことを思い返しながら彼の体を見つめていた。
(うっわ……! 確かに腹筋も綺麗に割れててカッコいい……! 胸筋もいい感じだし、上手く言えないけどセクシーな感じ……!?)
長身で引き締まっている雄介くんの体は、確かに見ていてドキッとくるものがある。
それだけならまだしも、水泳の授業後ということで濡れた全身がセクシーさを際立てていて、濡れた髪もまたどこか危な気な雰囲気を醸し出すことに一役買っていた。
(こっ、これは、想像以上にすごいのでは……!?)
綺麗な色白さと鍛え上げられた男の子の体の逞しさを両立している、バッキバキというほどではない雄介くんの細マッチョ加減を改めて理解したあたしは、思わず生唾を飲み込んでしまった。
っていうか、これをこんなふうに見てしまっていいのだろうか? こっちはほとんどが隠れてるって言うのに、腹筋もおへそも胸筋も乳首も見えるだなんて、アド過ぎない?
……という、さっき玲香から聞かされたポジティブな考え方()を思わずしてしまっていたあたしは、なんだか込み上げる欲望を抑えられなくなりつつあった。
いや、よく考えてみよう。体を不躾な視線で見られることの不快感はあたしだって身を以て知っているはずだ。
それなのに、そのあたしが他人にそんな気持ちを味わわせていいのだろうか?
……いいはずがない。普通に考えて、そういうことはやめるべきだ。
だが待ってほしい。相手が恋人の場合は一概にもそうとは言い切れないんじゃないか?
これがさっきの玲香みたいに、ただの友達がしていた場合は良くないだろう。間違いなく良くない。
だがしかし、あたしは雄介くんの恋人だ。恋人が自分の彼氏のことをいやらしい目で見て、何か問題があるだろうか? いや、ない(断言)。
それに例えばだが、付き合っている相手が半裸で目の前に立っていた場合、そこでエロい目で見ないことは逆に失礼に当たるのではないだろうか?
これまた逆の考え方だが、あたしが雄介くんの前に裸で立つことになったとしたら、彼には是非ともあたしのことをエロい目で見てほしい。
普通に考えて、そのシチュエーションでそっと目を逸らされた上に何も手出しされなかった方が傷付く。めっちゃ凹む。
ということは、だ……ここであたしが雄介くんの体をエロい目で見ることは何も問題がないどころか、至って普通の現象!
むしろエロい目で見てあげなくちゃ失礼! という結論に至ったあたしは、内に秘めていた欲望の蓋をぱかっと開けると共に先の一言を発したというわけである。
「え? あ、うん……あ、ありがとう……?」
「やっぱ元運動部なだけあるよね~……! 腹筋もバッキバキでさ~、本当にいい体だね~……!!」
困惑している雄介くんの返事が聞こえたが、あたしにはもう自制が利かなかった。
うずうずと疼く心のままにわきわきと両手を動かしたあたしは、ちょっとだけ息を荒げながら彼へと問いかける。
「あ、あのさ~、雄介くん? ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかな……?」
「え? な、なにかな? なんかちょっと怖いんだけど」
若干引き気味の雄介くんを逃がさないように一歩前に踏み出しつつ、深く息を吸う。
彼の目と、目の前にある割れた腹筋を交互に見つめながら、あたしはかわいくおねだりしてみせた。
「ちょっとだけでいいからさ……腹筋、触らせて♥」