ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
こんな感じのやり取りがあったと補完していただけると幸いです。
(あ~、クッソ怠いな~……)
テスト期間中のある日のこと、私は
外からは絶対に見えない座席を選んで腰かけてすぐ、仁秀はよくわからないことを早口かつ猛烈な勢いで私に向けて話し始める。
「尾上は危険なんだ! ひよりを寝取ったあいつはきっと次に俺の彼女であるお前を狙ってくる! だから、気を付けてくれ!!」
「そっか……仁秀も大変だったんだね……」
血相を変えて話し続けていた仁秀へと、真摯に話を聞いていたふりをしながら私はそう応えた。
話の大半はよく聞いていなかったが、その部分は無駄な情報ばかりだったから別に聞き流しても問題ない。
とりあえず、仁秀の話を総括するとこんな感じだ。
こいつは元々、私と同時に付き合っていた七瀬ひよりという幼馴染の同級生がいた。
先に七瀬と付き合っていたところを私が後入りし、二番目の彼女でいいから付き合ってとお願いした形だ。
というわけで仁秀はおよそ一年もの間、私と七瀬に二股をかけていたわけだが……少し前にそのことが七瀬にバレた。
幼馴染でもある彼氏の浮気を知った七瀬は大激怒。どういった話し合いになったのかはわからないが、二人は別れることになったらしい。
そうして私は浮気相手から晴れて本命彼女へと昇格。今日までず~っと続けてきた隠ぺい工作によって浮気の証拠を七瀬に掴ませなかったおかげで二股をかけられていたというのにも関わらず、あいつは泣き寝入りするしかなかったようだ。
余談ではあるが、今もこうして誰かに見つからないように話し合いをするファミレスやその座席の位置まで気を配っているのは、隠ぺい工作の一環でもある。
まあ、それはそれとして話を戻そう。
それから一か月ほどの間、私は仁秀の彼女としてこれまた周囲に付き合っていることを悟られないようにしつつも交際を続けていたのだが……一つ、予想外の事態が起きた。
仁秀が、元カノである七瀬への未練を抱き始めたのである。
どうやら七瀬は仁秀と別れて早々に次の男を見つけたようだ。
相手は同じクラスの尾上雄介。元バスケ部で、その活躍っぷりは中学時代から有名だった。
ただ、高校に入ってからはバスケ部には所属しておらず、色んな店で短期アルバイトとして働いているらしい。
うわさによれば、母子家庭であり下に弟が二人もいるため、家計を助けるためにそんなことをしているようだが……それはどうでもいいだろう。
正直、七瀬と尾上がいい感じだという話を聞いた時は
誰もが認めるイケメンであり、バスケ部の次期エースとして期待を寄せられている仁秀は、あらゆる面で尾上に勝っている。
尾上も顔は悪くはないだろうが間違いなく仁秀以下。目立たなさや母子家庭で忙しそうに働いていることから考えても学校内でのステータスや将来性に関しても仁秀の方が上だ。
きっと尾上は七瀬が仁秀にフラれて凹んでいる姿を見て、上手いこと心の隙間に入り込んだのだろう。
仁秀の話を聞くに、既に尾上は七瀬を
人畜無害を装っておいて、弱ってる女を上手いこと自分のものにするだなんてなかなかえげつないことをする。
まあ、そういう男に引っ掛かった七瀬のことを心の中で嘲笑っていたのだが、その事態を知った仁秀は七瀬に未練を抱いてしまった。
要するに、自分が捨てた玩具を拾った尾上がそれで楽しそうに遊ぶ姿を見て、惜しくなったということなのだろう。
普通に浮気がバレて別れることになったのに何故だか仁秀の中では自分の女だった七瀬は尾上に寝取られたことになっているし、他にも変な妄想が目立つ。
本気で脳が破壊されちゃったんじゃないかなと思うような話を長々と聞かされた私は、今も何かを語っている仁秀のことを内心では冷ややかな目で見つめていた。
(もういいかな~。こいつと付き合ってるメリットとかなさそうだし、むしろデメリットの方が大きそう)
私は仁秀に二番目の彼女でもいいからと言い寄って付き合った。
浮気相手として七瀬よりも自分を優先させ、胸を揉ませたりもした。
ただ……それは決して、私が江間仁秀という男が好きだからそうしたわけじゃない。
カップルを壊すことを楽しみたかったからそうしただけだ。
中学時代、私は男を誘って何組かのカップルを破滅させたことがある。
仁秀にしたように二股をかけさせる必要なんてない。男の方にちょっと思わせぶりな態度を取って、軽くボディタッチをしたり意味深な視線を向けてやったりしたら、それだけで勘違いした男子が私に夢中になるのだ。
そうやって私に夢中になった男は恋人を捨て、私と付き合おうとしてくる。
私は困った素振りを見せながらそれを断って、絶望的な表情を浮かべる男のことを心の中で大爆笑しながら見送って……それでお遊びは終わりだ。
同級生も、先輩も、後輩も……私がその気になればコロッと落ちた。
捨てられた女が愕然とする姿を見て、謝るふりをしながら私よりかわいくないからフラれたと遠回しに伝えて、その際の反応を見ることも楽しくて楽しくて仕方がなかった。
ただ、そんな遊びもそろそろ終わりにしないと、私の悪評が立つ。
これまでは上手いことごまかしていたが、高校生になったら人間関係は複雑化するし全てを隠し切るのも難しいだろう。
仁秀は、そんな私が選んだ最後のターゲットにして、これまでで最大のお遊びの当て馬だった。
私に相応しい高ランクの男だったし、長い時間を共に過ごした幼馴染を裏切らせるだなんて最高にゾクゾクするシチュエーションを作れる相手でもあった仁秀を見逃すはずがない。
そして……彼は本当にあっさりと私に夢中になってくれた。
いつ浮気がバレてもいいように綿密に証拠を掴ませないような計画を立て、仁秀を従順な犬にして、私の本性を上手く隠す。
そうして迎えたXデー……待ち侘びた、七瀬が全てを知る日が訪れた。
十年以上の時間を共に過ごし、長い時間をかけて信頼と恋心を育み、その果てに交際を始めた幼馴染が、恋人になったのとほぼ同時に自分を裏切っていたことを知った時、あいつはショックだったに違いない。
仁秀から浮気がバレたと聞かされた時、私は天にも昇る気持ちだった。
絶対に七瀬は私たちの浮気を証明できないし、泣き寝入りするしかないという自信があったからこそ、私は余裕を持ち続けていた。
そして……翌日から始まるであろう七瀬の生き地獄が楽しみで楽しみで仕方がなかった。
浮気され、裏切られたという心の傷はそう簡単には消えない。事あるごとに私や仁秀を目で追ってしまうだろう。
その時にわざとらしくイチャ付いてやる。自分は敗北者なのだと、長い時間を共に過ごした幼馴染をぽっと出の女に奪われたのだと、惨めな負け犬になったのだと……三年間の高校生活の中で、たっぷりと思い知らせてやるつもりだった。
高ランクの彼氏を自慢し、その元カノこと何もできない哀れな負け犬が悔しがる姿を楽しむという新しい形のお遊びが始まると、私は期待に胸を膨らませていたのだが……その目論見は、完全に外れることになる。