ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「に、二奈! あれはどういうことだよ!?」
夏祭りの翌日、俺はバスケ部の部室に突撃していた。
バスケ部の連中は久しぶりに顔を出したと思ったら大声で叫んでくる俺に対して、迷惑そうな顔を向けている。
朝練前、まだ人も揃いきっていない状況だが、目当ての二人はここにいた。
二奈とキャプテン……昨日、花火大会の会場で親し気に腕を組んでいた二人を見た俺は、二奈に詰め寄りながらまた叫ぶ。
「なんでそいつとイチャついてたんだよ!? お前は俺の彼女だろ!? それなのに、黙って他の男とデートになんか行くんじゃねえよ!!」
昨日見た光景を思い出しながら、その光景に怒りを燃え上がらせた俺は感情を思い切り叫びに乗せた。
どうしてキャプテンとあんな親し気にしていたのかと、俺という彼氏がいながら黙って男と二人きりで遊びに行った二奈を責める俺であったが……あいつは怯えた様子でこんなことを言ってくる。
「な、何を言ってるの? 私、あなたと付き合ってなんてない……!!」
「は、はぁ……!?」
二奈の口から飛び出してきた、驚きの言葉に唖然とする。
俺と、付き合ってない? そんな馬鹿な話があるかと、俺はムキになって二奈に叫ぶ。
「そんなわけあるか! お前から付き合って、一年前から付き合い始めたじゃないか!」
「そんなの知らない! 変なこと言わないでよ!」
……何なんだ? わけがわからない。どうなってる? 俺は確かに、二奈に付き合っていたはずだ。
二奈から告白されて、今もまだ付き合ってる。それなのに、どうして二奈はそんな嘘を……? と、俺が困惑していた時だった。
「おい、止めろよ!」
「うわっ!?」
ドンッ、と強く体を押された俺は、その場に尻もちをついてしまった。
顔を上げれば、キャプテンが二奈を庇うように立ちながら俺に怒りの表情を向けているではないか。
「江間……お前、ヤバいよ。妄想でおかしくなってるってうわさ通りだな」
「も、妄想……? 違う! そんなんじゃ――!!」
「何言ってんだ? 付き合ってもない女の子を彼女認定してるんだから、妄想に取り憑かれてる以外のなんでもないだろ? 遊佐の話を聞いた時は半信半疑だったけど、まさかここまで狂ってるとはな……!」
浮気相手のキャプテンが、俺に対してそう吐き捨てる。
どういうことなのか意味がわからないでいる俺は、他のバスケ部員に味方になってもらおうと周囲を見回したが……誰もがキャプテンと同じような怒りと軽蔑の表情を俺に向けていた。
「紫村さんと付き合ってた? 意味わかんねえよな。妄想でおかしくなった人間ってここまでヤバくなるんだ」
「部活休んだ時に心配してもらったから、自分のことが好きだって勘違いしたんだろ。ストーカーあるあるってやつだよ」
「っていうか、本当に一年前から付き合ってたとしたら、先輩に誘われてホイホイ合コンに行ってる時点で最悪の彼氏だろ。普通にクズだよ、クズ」
「あ、ああ、ああああああああ、あああああああああ……っ!?」
何でだ? 何でこうなってる? どうして誰もわかってくれない?
ひよりや親だけじゃなくて、部活の連中や彼女の二奈までどうして俺をそんな目で見る?
「俺はおかしくなんかなってない! 俺は、本当に、二奈と付き合ってるんだ!!」
「はぁ~……だったらさ、連絡先くらい知ってるよな? 彼氏なんだから、それくらい当然だろ?」
「そっ、それは……!!」
キャプテンからの指摘に、俺は言葉を詰まらせる。
本当は知っていた。二奈とも何度もラインでやり取りをしていた。だけど……その履歴も連絡先も俺のスマートフォンから消えてしまっている。
でも、確かに俺は二奈と恋人としてやり取りをしていたんだ。あれが妄想のはずがない。
そうは思いながらも何も言えずにいた俺は、救いを求めるように二奈の方を見て……気付く。
「ふ、ふ……!」
「に、二奈……?」
二奈は、笑っていた。何もかもが自分の思った通りになっているといったような、そんな笑みを浮かべていた。
その笑顔を見た俺は、そこで全てのからくりに気が付く。
そうだ……二奈は俺のスマホのロックナンバーを知ってる。お互いの誕生日にしようって話をしたのもあいつだ。
そして、しばらくは尾上たちの調査に集中してほしいからと連絡をしないように言ってきたのもあいつだった。
あの日、最後にファミレスで会ったあの日……二奈は俺の目を盗んでスマホを操作して、トーク履歴と自分の連絡先を消した。
もうあの時点で、二奈は俺を捨てるつもりでいたんだ。
「あうっ、うっ、うぅうっ、うぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
どうしてだ? なんで? 俺はお前のためにひよりを裏切ったんだぞ? なのに、どうして俺を裏切る?
自分が恋人に捨てられたことに気付き、全てに絶望して涙する俺へと……キャプテンは、呆れた声で言った。
「……お前、クビな。もう部活に顔出すな。紫村さんにも近付くな。っていうか、学校にも来るなよ。お前みたいな頭のおかしい奴、居ても迷惑でしかねえんだよ」
「うっ、うぐっ、ぐぅぅ……うわあああああああああっ!!」
……そこから先のことはよく憶えていない。気が付いたら、家のベッドの上にいた。
友達も先輩も家族も幼馴染も、彼女だった女子さえも……みんな、俺の敵になっている。
誰も俺を必要としていない。誰も俺の味方になってくれない。誰も俺のことをわかってくれない。
彼女だった二奈に裏切られ、世の中に味方が一人もいない現実に直面した俺は、何もかもが嫌になって……もう、立ち上がる気力すら持てずにベッドの中で泣きじゃくるしかなかった。