ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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三章プロローグ・ひよりさんと夏休みと同棲生活の始まり
夏休みと同棲生活の始まり


「えっと……どうぞ、お入りください……」

 

「お、お邪魔します……!!」

 

 玄関の扉を開けた僕は、後ろに続くひよりさんへと振り返ると共にそう言った。

ひよりさんはぎこちなく頭を下げると、そのまま家の中に入っていく。

 

「荷物、もう届いてるから。中身を確認してもらえると助かるかな」

 

「あっ、うん! ごめんね! 結構量あったでしょ?」

 

「そうでもないよ。あっ、僕の部屋使う? 人には見せたくないプライベートな物もあるだろうし」

 

「ありがとう。じゃあ、そうさせてもらおうかな……」

 

 僕もそうだが、ひよりさんも微妙に緊張している。

 無理もないだろう。なにせ、今日から彼女がこの家で暮らすのだから。

 

 本日、七月二十日……明日から始まる夏休みの間、ひよりさんは僕たちの家で過ごすことになっている。

 そのための準備も少し前から進んでいて、先んじて運び込まれた荷物もその中の一つだ。

 

 家に届けられた段ボールの中には、ひよりさんの私物が詰め込まれている。

 僕たちの方でも彼女の服をしまうための収納ボックスなんかも用意しておいたし、来客用の布団を引っ張り出して干しておいたりもした。

 

「とりあえず、下着から先にしまっちゃうね。それ以外は特に見られて困る物はないし……」

 

「ああ、うん。そうだね……」

 

 段ボールと収納ボックスを部屋に届けた僕へと、ひよりさんが言う。

 どう反応すべきかよくわからずに視線を泳がせながら返事をした僕は、一旦部屋を出ると共に小さく息を吐いた。

 

(本当に夏休みの間、ひよりさんが僕の家で暮らすのか……)

 

 これまでもそのための準備をしてきたし、話し合いもしたわけだが、いまいち実感が湧かなかった。

 こうして実際に彼女が荷解きをしている姿を見て、ようやくこれが現実で本当にひよりさんが僕たち家族と一緒に一か月半もの間、同棲生活を送るのだという実感を覚え始めたくらいだ。

 

 これまでのお泊りとはわけが違う。朝起きる時も、ご飯を食べる時も、眠る時も……ずっとひよりさんが家に居る。

 その生活を想像した僕は、やはり戸惑いの感情を強く覚えた。

 嫌だというわけではないのだが、どうしてもそんなことができるのか? という不安が勝ってしまう。

 

 それでも、大切な人と同じ屋根の下で暮らすという状況に心がわずかに踊ってしまっていることも確かで……自分自身の気持ちに整理がつかない部分もある。

 

(ちゃんと理由があって、真面目な話し合いの末に決まったことだけど……いざ本当に始まるとなると落ち着かないよな……)

 

 緊張しっぱなしの心臓が慌ただしく早鐘を鳴らしていることを感じながら、左胸を押さえる。

 そういえば、あの時も今と同じくらい緊張していたっけなと思い返した僕は、同棲生活が始まるきっかけとなった話し合いのことを思い返していった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「尾上様ですね? お席にご案内させていただきます。どうぞ、こちらへ……」

 

 その日、僕たち家族はひよりさんたち家族に呼ばれ、お高めの料亭にやって来ていた。

 入り口で待っていた女将さんにドラマなんかで政治家たちが秘密の会談をするような個室に案内される間、僕も弟たちも緊張した面持ちを浮かべていたことを覚えている。

 唯一、先頭を歩く母だけが普段とは全く違う真剣な顔をしていて……そうしている間に、僕たちは用意されていた部屋に辿り着き、その襖を開けた。

 

「……お待ちしておりました。どうぞ、お座りください」

 

 襖が開いた瞬間、部屋の中で待っていたひよりさんたちご家族が立ち上がり、僕たちを向かいの席に案内する。

 そうして両家の家族全員が揃った後、女将さんが去ってすぐに今回の場を用意した吾郎さんが口を開く。

 

「本日は私たちのためにわざわざ足を運んでくださり、本当にありがとうございます。お初にお目にかかります、ひよりの父の七瀬五郎と申します」

 

「母の睦美と申します。雄介くんやそのご家族様に娘の件で多大なるご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありません」

 

「迷惑だなんて、そんな。僕たちはそんなこと思ってなんかいませんよ。母さんもそうでしょ?」

 

 深々と下げるひよりさんたち一家に対して、慌てた僕が言う。

 母にも同意を求めれば、ゆっくりと頷いた後で顔を上げた吾郎さんたちに対して、こう話を切り出してくれた。

 

「雄介の母の真理恵と申します。息子の言う通り、私たち家族は迷惑をかけられただなんて思っていません。どうか、お気になさらないでください」

 

「……ありがとうございます。本当に、皆様にはお世話になってばかりで申し訳ないです」

 

 深刻な様子で語る吾郎さんの表情には、疲れの色が見えた。

 肉体的な疲れではなく、心労を抱えているように見えるのは、彼だけでなく睦美さんの方もそうだ。

 

 その疲れの原因に心当たりがある僕が緊張感を高める中、母はひよりさんたち一家に今回の話し合いの本題を切り出した。

 

「息子から、話は聞いています。夏休みの間、娘さんを我が家で預かってほしいということですが……その件について、詳しく話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

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