ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

121 / 426
ちょっとした新婚生活の気分で

「思ったんだけどさ、この間のあれって初の両家顔合わせとしては最悪の部類に入らない? 真理恵さんたちにも気まずい思いをさせて申し訳なかったな~……」

 

「ひよりさんが悪いわけじゃないんだから気にしないでよ。それに、吾郎さんたちからここまで信頼してもらえてるってわかって、僕としては嬉しかったしさ」

 

 ある程度の荷解きも終わって、先日の家族全員での顔合わせを振り替えった僕たちは、そんな会話を繰り広げていた。

 元凶を除いての二家族による顔合わせは、確かに雰囲気としてはかなり重々しいものであったわけで……お店の人たちもどういう話し合いが行われているのかわからず、さぞ困惑したことだろう。

 

「できることなら、次は明るい感じで話し合いたいよね。全部解決しました、みたいにさ」

 

「うん、そうだね……でもなんか、それはそれで変な空気になっちゃうかもね」

 

 そんな僕の言葉に、くすくすと愉快気にひよりさんが笑う。

 ふぅ、と息を吐いた彼女は顔を上げると少し開き直ったような様子で僕へと言った。

 

「まあ、過去を振り返っても仕方がない! 今日から同居生活が始まるわけだし、暗くなってないで楽しくやっていこう! ……ってところで一つ質問なんだけどさ、あたしの下着ここに干していい?」

 

「ぶふっ!? な、なんで!?」

 

 突然の逆セクハラに思わず吹き出した僕が、ひよりさんへと尋ねる。

 えっへんと胸を張った彼女はその質問に対して、実に堂々と答えを返してきた。

 

「だって、真理恵さんのとサイズもデザインも違う下着が外に干されてたら、新しく女の子がここで生活し始めたってまるわかりじゃん! それを回避するためには部屋干ししかないし~、かといってリビングとかに干したら雅人くんと大我くんが気まずいだろうし~、だったら彼氏である雄介くんの部屋で……ねっ?」

 

「うぐ……! 微妙に筋が通ってるのが嫌だ……!!」

 

「そんな顔しないでよ~! 役得だと思って、楽しんじゃいなって~!」

 

 それができたら苦労はしないと、心の中でツッコミを入れる。

 でも確かにこの状況下ではそうするしかないだろうし、諦めかけてはいるが他にいい方法はないかと考える僕へと、微笑みを浮かべたひよりさんが言う。

 

「他にも色々、生活していくにあたって話し合わなくちゃいけない部分とかも出てくると思うからさ。その時はこうして話し合って決めていこうね! この問題に関しても、何かいい解決方法があるかもしれないしさ!」

 

「そ、そうだね……本当にいい方法が見つかってほしい……!!」

 

 切実に、本気で、そう思う。ひよりさんの下着と一緒に生活するだなんて、色々とメンタルが持たない。

 逆にひよりさんはどうしてここまで楽しそうなんだと思う中、その彼女が不意に真面目な表情になると共に言葉を続けた。

 

「本当に……雄介くんたちにはご迷惑をおかけします。こんなことになっちゃうだなんて、思ってもみなかったから……なんだろう、上手く言葉が出てこないや」

 

「ひよりさん……」

 

 明るく振る舞っているように見えて、ひよりさんも色々と思うところがあるようだ。

 江間の浮気から始まったこの話がこんな展開を迎えるとは思ってもいなかっただろうし、一か月半とはいえ、家族と離れて生活することになるだなんて想像もできなかっただろう。

 

 絶対に心細さも不安もある。だからこそ、僕がひよりさんを支えてあげるべきだ。

 それが恋人である僕の役目なのだからと自分に言い聞かせた後、ひよりさんの目を見つめ、笑顔を浮かべた僕が口を開く。

 

「大丈夫、迷惑だなんて思ってないよ。夏休みをひよりさんと一緒に過ごせることも、ご両親にひよりさんを任せてもらえるくらいに信頼してもらえてることも、すごく嬉しいからさ」

 

「雄介くん……」

 

 少ししょげているひよりさんの手を、ぎゅっと握る。

 こちらを見上げてくる彼女へと笑みを向けながら、僕は明るい声でひよりさんへと言った。

 

「折角の夏休みだもん、一緒に楽しもうよ。何か問題にぶつかったら、さっきひよりさんが言ったみたいにみんなで話し合って決めていこう。今日から家族の一員として……よろしくね!!」

 

「ふふっ! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 多少、望まざる形だったとは思う。だけど、江間のせいで夏休みの間、ひよりさんがずっと沈んだ気持ちのままでいるだなんておかしいではないか。

 恋人として、この夏はひよりさんをたくさん笑顔にしてみせる。僕たちと一緒に過ごせて良かったって、心の底から思わせてみせることが彼氏である僕の役目だ。

 

 僕の言葉に笑みを浮かべ、頷いてくれたひよりさんを見つめながら……改めて彼女を幸せにしてみせると強く誓う中、ひよりさんが愉快気な声で言う。

 

「家族の一員、かぁ……! なんだか、結婚して嫁入りさせてもらったみたいだね!」

 

「ははっ、確かに。じゃあ、この間の話し合いは結婚の挨拶かな?」

 

 ひよりさんの言葉に乗っかってそう返してみせれば、彼女はそれ以上は何も言わずに満足気に笑ってみせる。

 ちょっとした新婚生活で夏休みを過ごすのも悪くないかなと思いながら……これから始まる日々に対して、不安ではなく期待を抱きつつ、僕たちは協力して荷解きを進めていくのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。