ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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夜の家族の会話①

「入浴ミッションコンプリート! 生きて帰ってこれたぜ!」

 

「気を抜くな。これがあと四十日以上続く、一回でも失敗すれば我々の命はないということを忘れるなよ」

 

「……なんだよ、その会話? お前ら、ついに頭がおかしくなったのか?」

 

 風呂から出た僕は、弟たちが繰り広げる妙な会話を耳にして顔を顰めた。

 また馬鹿なことをやっているなと思う僕であったが、二人はひどく真剣な表情を浮かべながらこう言い返してくる。

 

「馬鹿野郎! 義姉さんとの同居生活に浮かれているお前と違ってな、俺たちは必死なんだよ!!」

 

「万が一! 万が一にもだぞ!? 義姉さんにうっかりセクハラみたいな真似をしたり、ラッキースケベを経験してみろ! 俺たちに明日は来ない!! その場で消されるからな!!」

 

「いや、消されるって誰にだよ?」

 

「「お前に決まってんだろうが!」」

 

 綺麗に声をハモらせてくる雅人と大我は、必要以上に僕を恐れているようだ。

 おそらく、十五年の人生の中で最も僕に気を遣っている弟たちは、拳を握り締めながらこう言葉を続ける。

 

「俺たちにはなぁ! ばったり風呂場で着替え中の義姉さんに遭遇したその瞬間、俺たちの首を落としにやって来るお前の姿が見えてるんだよ!」

 

「そうやって斬り落とした俺たちの頭を使ってフリースローの練習をするお前の姿もなぁ!!」

 

「そんなことするわけないだろ! 僕を勝手に猟奇的殺人鬼にするな!」

 

「そこまではせずともそれなりのことはするだろうが! 俺たちにはわかるんだよ!」

 

「俺たちはまだ死にたくねえんだ! 悪いが、部屋に戻らせてもらうぜ!」

 

「おいそれ逆に死亡フラグじゃね? 翌日の朝に冷たくなって発見されるパターンじゃね?」

 

 何をふざけたことを言っているんだとは思うが、同時にそういう事態になったら確かに僕は怒るかもしれないという予感もある僕は、強く弟たちの言葉を否定できなかった。

 弟たちがそんな僕を強く警戒する中、僕の背中からひょっこりと顔を出したひよりさんが気まずそうな声で二人へと言う。

 

「え~っと……あはは、ごめんね。なんか、気を遣わせちゃってさ」

 

「ねねね、義姉さんっ!? 違うんです! そうじゃないんです!」

 

「全てはこの覚悟ガンギマリ過ぎて逆に怖い兄が悪いんです!!」

 

 僕たち三兄弟が入った後に風呂の湯を張り替えるまで待機していたひよりさんは、ばっちり今の話を聞いてしまったようだ。

 そんな彼女に慌てて雅人と大我が弁明をする中、えへんと咳払いしたひよりさんが二人へと言う。

 

「いきなり異性が生活に加わるってなったらそうなっちゃうよね。あたしも色々気を付けるからさ、雅人くんと大我くんもあたしに直してほしいところがあったら遠慮せずに言ってね!」

 

「ああ、義姉さん……! なんて器の大きな御方なんだ……!!」

 

「あなたが俺たちの義姉で良かった……!!」

 

 その場に跪き、滝のように涙を流しながら弟たちが言う。

 なんだかなあとそんな二人を見つめる僕に向け、ひよりさんが笑顔を浮かべながら口を開いた。

 

「お互いに気を付けるようにしてるからさ、万が一にそういうことが起きてもそれは不幸な事故ってことで雄介くんも納得してね! 二人の頭でフリースローの練習しちゃダメだよ?」

 

「しないって! 大体、僕だってわざとじゃなければ別に怒ったりなんか……」

 

「……おい、言い切れよ馬鹿兄貴」

 

「義姉さん、こいつ絶対嫉妬してキレますぜ。俺たちは弟だから詳しいんですわ」

 

「え~っ? 仕方ないなぁ……そんなに怒るなら、先にあたしの裸を見ておけばいいのに……」

 

「義姉さんと違って器が小さいお前が悪いのに……」

 

「からあげ、ハンバーグ、弁当の底に敷いてあるパスタのやつが好き好き大好き」

 

「お前らなぁ……!!」

 

 何故か正論ロボと好きな総菜発表次男になった三人に好き勝手言われた僕が、半ば怒りの形相を浮かべる。

 その様子を目の当たりにした弟たちはわーっと声を上げて逃げ出し、ひよりさんはお腹を抱えて大笑いし始めた。

 

「あははははっ! 弟くんたち、やっぱり面白いね! あっ! 雅人く~ん! それってガロニだと思うよ~!」

 

「いや、総菜の正式名称よりももっと言ってほしいことがあるんだけど……」

 

 はぁ、と能天気なひよりさんと弟たちとの会話にため息を吐きつつ、苦笑を浮かべる。

 仕方がないかと顔を上げた僕は、ひよりさんを見つめながら思ったことを述べた。

 

「なんか、もうすっかり馴染んでない? 普通に家族の一員って感じがするんだけど?」

 

「えへへ……そうかな~? でも、雄介くんにそう言ってもらえて嬉しいよ!」

 

 僕のその言葉に、本心からの嬉しそうな笑みを浮かべたひよりさんが言う。

 ちょうどそのタイミングで風呂の様子を見ていた母が声をかけてきた。

 

「ひよりちゃ~ん! お風呂湧いたから、入っても大丈夫よ~!」

 

「はい! ありがとうございます! ……雄介くんも一緒に入る? 夫婦水入らずで体の洗いっこでも――」

 

「しません!」

 

 僕の反応を見て楽しそうに笑ったひよりさんが、ぱたぱたと足音を響かせながら風呂場へ向かっていく。

 この同居生活、楽しくはあるけどツッコミの疲労度合いも段違いになるぞ……と思いながら、僕はひよりさんが言ってくれた()()という単語に少しだけ心を躍らせてもいたのであった。

 

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