ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
何もかもが上手くいった時というのは気分がいい。私は今、自分の身に降りかかったトラブルを利用し、最高の状況を手に入れた。
少しばかり面倒な部分もあるが……概ね、今の状況は私にとって都合が良かった。
私の名前は紫村二奈。ストーカーとなった勘違い男に付き纏われた可哀想な被害者……ということになっている。
誰にも言っていないが、それは事実ではない。事実である部分もあるが、ストーカーとなった江間仁秀は私の元カレであり、色々あって私が切ったという経緯がある。
その江間と付き合う際にも彼女がいたあいつを誘惑し、二股をかけさせる形で交際を始めたわけだが……そんなことを馬鹿正直に話す人間なんているわけがない。
私は馬鹿な勘違い男に恋人認定され、ストーカーの被害に遭った可哀想な二奈ちゃん。それ以上でもそれ以下でもないのだ。
実際、このポジションはかなり都合がいい。上手いこと江間の悪評を広めたことによってあいつは勘違いストーカー男として学校の人間から認知されているし、自分を見る冷ややかな視線に耐え切れず、江間も引きこもりになっているようだ。
対して私は怖い目に遭った可哀想な被害者として周りから気遣われ、優しくされている。私の立ち回りの上手さが理由ではあるが、馬鹿な江間のおかげでいいポジションを手に入れることができた。
元々、普通以上にかわいい女の子であった私に悲劇のヒロインという属性が付いた結果、様々な男が私に興味を持ち、会いに来ている。
中には江間以上のポテンシャルと将来性を持つ男もいて、そいつらと親密になれれば私はさらに高いポジションに就けそうだ。
そう……私が江間を選んだのは、あくまで将来のバスケ部のエース候補であり、顔がいいイケメンだったからに過ぎない。
あいつのことが好きなのではなく、私に相応しい高ランクの男だから付き合ってやっていただけだ。
もう一つの理由が、元々江間と付き合っていた七瀬ひよりとの関係を破綻させること。
別にあいつに恨みがあるわけではないが、私に負けた女が惨めに落ちぶれていく姿を見るのは気持ちがいいものだ。
残念ながら、色々な理由があってそのお楽しみは消えてなくなってしまったが……それがどうでもよくなるくらいには今の私は気分がいい。
可哀想な被害者としての立ち位置を手に入れ、江間の後釜として狙っていたバスケ部のキャプテン以上にランクの高い男たちにアプローチされ、その全てを存分に使って立ち回れば、色々と好き勝手できる。
例えば、今日は本当ならばバスケ部のマネージャーとして練習に参加しなければならないのだが、気分がすぐれないと言えばみんなが気遣ってくれる。
顧問も単純で馬鹿な男だし、キャプテンも私の言うことは疑わない。だから、こうして堂々と練習をサボって遊びに行けるわけだ。
(さ~て、今日は夏服と秋の新作のチェックでもしようかな~?)
家も金持ちだから、好きなだけ贅沢ができる。両親も私には甘いから、何をしたって文句は言わない。
親のカードを手にショッピングモールへ向かい、幾つかの店を見て回っていた私は……そこで、ちょっと面白いものを目にした。
(あれは……七瀬と尾上? あいつら、何してんの?)
私に彼氏を奪い取られた七瀬ひよりが、背の高い男子と手を繋ぎ、楽しそうに話をしながら歩いている。
その相手が同じ学校の尾上雄介であることを見て取った私は、あのカップルと出くわしたことにちょっとだけ不快感を抱く。
さっきの話の続きになるが、私の予定では江間を奪われた七瀬は惨めな姿を私の前で晒すことになり、私はそれを楽しむつもりだった。
しかし、傷心の七瀬に即座に擦り寄った尾上のせいで、その計画は台無しになってしまったのである。
新しい彼氏をゲットしたことで七瀬はあっさり立ち直り、そのせいで江間もおかしくなっていったわけだが……それに関してはどうでもいい。
尾上の手の速さに舌を巻くことしかできないのだが、あいつにお楽しみを潰されたことは本当に残念で仕方がなかった。
(それにしても、なんか思ってたのと違うわね。普通過ぎて拍子抜けだわ)
こうしてあの二人を見て思ったことなのだが、思っていたよりも
それの何が変なのかという話だが、私としてはもっとネチョネチョしていると思っていた。
尾上は顔も体もいいロリ巨乳の女が傷付いているのを見て、即座に手を出すような男だ。
だから七瀬の体目的だと思っていたし、デートするにしたってそういうことを望むと思っていた。
七瀬の方も元カレに浮気されてフラれたトラウマを抱えているのだから、次の彼氏の言うことには従順に従うと思っていたし……何をされても嫌とは言わないだろう。
そういう状況を尾上が作り、七瀬は何もかもを貪られるだけ貪られる存在になっていると思っていたのだが、あの二人を見ていると本当に普通のカップルにしか見えない。
なんだか変な感じだな……と違和感を抱いた私は、二人を尾行してみることにした。
あいつらがどんなデートをするかを観察してみれば、二人はそのまま水着売り場へと向かっていくではないか。
(ああ、なるほどね。そういうことか……!)
まったく、尾上もなかなか面白いことをするものだ。
今日のデートは七瀬の水着を買いに行くのと同時に、尾上があいつを自分いろに染め上げるためのものなのだろう。
大方、七瀬はこれから尾上の前で水着のファッションショーをすることになる。
どこかのプールで自分の女のいい体を見せつけるための水着か、あるいは
普通のカップルのような生暖かい雰囲気を出していたのも、七瀬を油断させるための罠か……と尾上のやり手っぷりにくすくすと笑みをこぼした私は、そこであいつらの尾行を止めてショッピングに戻ることにした。
(七瀬も可哀想~! あんな男に引っ掛かっちゃうだなんてさ!)
ああいう人畜無害な面をしておいて、じっくりと相手を囲っていく男が一番質が悪い。
気が付いた時にはもう逃げられないし、逃げようと思うことすらできないくらいに依存しているのだ。
そうやってぐずぐずにされてきた女を何人か見てきた私としては、七瀬がこれからどうなるのかという部分に興味が湧いてきた。
これは長いスパンでのお楽しみにして、これからもちょくちょく観察を――
「……?」
――と、七瀬と尾上の関係に面白さを感じながら色々と考えていた私は、自分を見つめるような視線を感じてふと振り返る。
だが、ショッピングモールにいる人ごみの中に私を見つめているような人間の姿はなく……首を傾げながら苦笑をこぼした。
まあ、私くらいにかわいい女の子ならば、ついつい見とれてしまう奴だっているだろう。
そう結論付け、私は再び楽しい買い物へと没頭していくのであった。